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287 振り回すと良さそうだよね
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「今の見えている状況を確認するけど、黒い穴が見えている人!」
「おい、アンジュ。俺の剣がおかしいのだが?」
ファルのことは無視だ。
私の質問にはファル以外が首を縦に振るなり、声を上げるなりして答えた。これは皆が見えているということだ。
「じゃ、黒い穴のところに何かいるのが見えている人」
「おい。聞いているのか?アンジュ」
ファル。それどころじゃないんだよ。
これには酒吞と茨木が先程の黒狐の王妃がいると答えた。ということは獣人の姿だということか。
「黒い鎖が見えている人」
「アンジュ!」
これには誰も答えないということは、私だけが見えているということだ。それもまたおかしなこと。
「無視するな!」
ファルが私の肩を揺さぶってきた。だからさぁ、アレは絶対にヤバイんだって!
「なんだ!この木の棒は!」
先程まで剣の姿をしていたファルの剣は、木の棒に戻っていた。いや正確にいえば
「振り回すと良さそうだよね」
「絶対に違う使い方を言っているよな!なぜ俺のは杖なんだ!」
杖。それは魔術の補助武器として用いられる魔術具の一種だ。
はっきり言って聖騎士には不要の物と言って良い。なぜなら、聖痕があるのに、魔術具である杖が必要なほどの大規模な魔術の施行を行う者など居ないからだ。それなら、聖痕の力を極める方に力を注ぐことだろう。
それなのに、ファルの聖剣は剣の形を取らずに必要とは思われない魔術武器の形に変化したのだ。
因みに私が振り回すと良さそうだよねと言ったのは、杖の先に水晶のような透明の石がついているからだ。
それなりの大きさの石で形からいけばクラスター群晶と呼ばれる水晶がいくつもくっついたもの。見ようによれば、透明な花に見えなくもない。
それを私は鈍器として扱えるねという意味で言葉にしたのだ。あれは絶対に痛いと思う。
「魔術が得意かどうかは知らないけど、頑張れ!ファル様!」
私はファルが剣術か聖痕を使っている姿しか知らないから、どれほどの実力があるのかは知らなかったりする。それは大抵ルディの止め役だったりするので、表立って戦うことが無かったとも言えた。
「それは横に置いといて」
「おい!」
「今、私の目に見えていることを説明すると、黒い穴の縁に黒いモヤの塊が見える。酒吞と茨木にはそれが黒狐の王妃に見えるらしい」
この状況は予想外のことが起きている可能性がある。ルディや神父様に見えていないということは、アレは幻影で作り出されたものではないということ、そして見える酒吞と茨木は黒狐の王妃に見え、私は黒いモヤに見える。
あのモヤ。常闇から出てるモヤと同じ感じなんだよね。
「そして黒いモヤから細い鎖の集合体が伸びている。これは多分、生きながら獲物として定められた者につけられた鎖と同じだと思う……のだけど、そこは自信がないな」
黒い触手に見えるのは細い鎖の集合体。恐らくアレが私や酒吞と茨木に干渉してきているのだと思う。
「自信がないわりには、ここから動かない理由があるのですよね」
勇者の剣を構え続けている神父様が聞いてきた。もし、神父様が見えているとなれば、また違ったのだろうけど。
「はぁ、酒吞と茨木には言っていなかったけど、細い鎖で獲物としての印がつけられていたの。私が引きちぎったけどね。だけどそこから干渉してきて再び獲物として、鎖で繋ごうとしてきたんだよ」
「アンジュ!その鎖はどこだ!」
ルディがファルの側にいた私を引き寄せて、頭とか手や肩を触ってきたけど、それは私が根本から焼き切ったからもうないよ。
「それはさっき、聖痕で処理したから、大丈夫……なんだけど、酒吞と茨木がいうには、こっちを睨んでいるって、これは諦めてないと思う」
今の状態でこちらまで鎖を伸ばしてこないということは、こちらが近づくのをまっているのか、それ以上動けないのか。
「問題は、いつもは見えている神父様が見えてないってこと、これが一番不可解。アレはなんだろう?」
結局はそこだ。見えていないのはあれが幻影で作られたものではないということ。酒吞と茨木が黒狐の王妃に見えているのは、こちらを油断させようとしている?
この状況からいけば、獅子王には良くない印象を植え付けられて、黒狐の王妃に正義があるように思える。
しかし、私達はこの幻影が最後を迎える王や聖女に見せつけるために作られたものだということを知っている。
どこまでが真実かはわからないけど、恐らくほぼ真実なのだろう。そこに少しの嘘を混ぜ込んでも気づかない程度にだ。
アレがどのようなモノかわからない以上、どう切り抜けるかが問題だ。
「おい、アンジュ。俺の剣がおかしいのだが?」
ファルのことは無視だ。
私の質問にはファル以外が首を縦に振るなり、声を上げるなりして答えた。これは皆が見えているということだ。
「じゃ、黒い穴のところに何かいるのが見えている人」
「おい。聞いているのか?アンジュ」
ファル。それどころじゃないんだよ。
これには酒吞と茨木が先程の黒狐の王妃がいると答えた。ということは獣人の姿だということか。
「黒い鎖が見えている人」
「アンジュ!」
これには誰も答えないということは、私だけが見えているということだ。それもまたおかしなこと。
「無視するな!」
ファルが私の肩を揺さぶってきた。だからさぁ、アレは絶対にヤバイんだって!
「なんだ!この木の棒は!」
先程まで剣の姿をしていたファルの剣は、木の棒に戻っていた。いや正確にいえば
「振り回すと良さそうだよね」
「絶対に違う使い方を言っているよな!なぜ俺のは杖なんだ!」
杖。それは魔術の補助武器として用いられる魔術具の一種だ。
はっきり言って聖騎士には不要の物と言って良い。なぜなら、聖痕があるのに、魔術具である杖が必要なほどの大規模な魔術の施行を行う者など居ないからだ。それなら、聖痕の力を極める方に力を注ぐことだろう。
それなのに、ファルの聖剣は剣の形を取らずに必要とは思われない魔術武器の形に変化したのだ。
因みに私が振り回すと良さそうだよねと言ったのは、杖の先に水晶のような透明の石がついているからだ。
それなりの大きさの石で形からいけばクラスター群晶と呼ばれる水晶がいくつもくっついたもの。見ようによれば、透明な花に見えなくもない。
それを私は鈍器として扱えるねという意味で言葉にしたのだ。あれは絶対に痛いと思う。
「魔術が得意かどうかは知らないけど、頑張れ!ファル様!」
私はファルが剣術か聖痕を使っている姿しか知らないから、どれほどの実力があるのかは知らなかったりする。それは大抵ルディの止め役だったりするので、表立って戦うことが無かったとも言えた。
「それは横に置いといて」
「おい!」
「今、私の目に見えていることを説明すると、黒い穴の縁に黒いモヤの塊が見える。酒吞と茨木にはそれが黒狐の王妃に見えるらしい」
この状況は予想外のことが起きている可能性がある。ルディや神父様に見えていないということは、アレは幻影で作り出されたものではないということ、そして見える酒吞と茨木は黒狐の王妃に見え、私は黒いモヤに見える。
あのモヤ。常闇から出てるモヤと同じ感じなんだよね。
「そして黒いモヤから細い鎖の集合体が伸びている。これは多分、生きながら獲物として定められた者につけられた鎖と同じだと思う……のだけど、そこは自信がないな」
黒い触手に見えるのは細い鎖の集合体。恐らくアレが私や酒吞と茨木に干渉してきているのだと思う。
「自信がないわりには、ここから動かない理由があるのですよね」
勇者の剣を構え続けている神父様が聞いてきた。もし、神父様が見えているとなれば、また違ったのだろうけど。
「はぁ、酒吞と茨木には言っていなかったけど、細い鎖で獲物としての印がつけられていたの。私が引きちぎったけどね。だけどそこから干渉してきて再び獲物として、鎖で繋ごうとしてきたんだよ」
「アンジュ!その鎖はどこだ!」
ルディがファルの側にいた私を引き寄せて、頭とか手や肩を触ってきたけど、それは私が根本から焼き切ったからもうないよ。
「それはさっき、聖痕で処理したから、大丈夫……なんだけど、酒吞と茨木がいうには、こっちを睨んでいるって、これは諦めてないと思う」
今の状態でこちらまで鎖を伸ばしてこないということは、こちらが近づくのをまっているのか、それ以上動けないのか。
「問題は、いつもは見えている神父様が見えてないってこと、これが一番不可解。アレはなんだろう?」
結局はそこだ。見えていないのはあれが幻影で作られたものではないということ。酒吞と茨木が黒狐の王妃に見えているのは、こちらを油断させようとしている?
この状況からいけば、獅子王には良くない印象を植え付けられて、黒狐の王妃に正義があるように思える。
しかし、私達はこの幻影が最後を迎える王や聖女に見せつけるために作られたものだということを知っている。
どこまでが真実かはわからないけど、恐らくほぼ真実なのだろう。そこに少しの嘘を混ぜ込んでも気づかない程度にだ。
アレがどのようなモノかわからない以上、どう切り抜けるかが問題だ。
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