上 下
281 / 358

281 無敵モードになった

しおりを挟む
「うわぁ。凶悪過ぎる」

 私達は再び神父様の結界に覆われて、私の重力の聖痕の力で移動することになった。
 そして、ファルはまだ意識が戻らず、眠ったままだ。きっと目を覚ましたら絶叫しているだろう。

「なんだ!これは―!」

 ってな感じで……どうやら目を覚ましたようだ。

「ファル様。おはよう。二十四階層だよ」

 一応、次の階層に行ったことを伝えておく。

「いやいやいや。ちょっと待て!その前にこれはなんだ!」

 なんだと言われても……私を抱えているルディをチラ見する。満足そうな顔をしていた。

「幻影が凄く歪んでいるぞ!」

 そう歪んでいる。どう歪んでいるかといえば、大したことはない。私達の周りにある神父様の空間断絶の結界の外にルディの空間侵食の膜が広がり、結界から1メルメートル程の空間が切り取られたかのように何も映さなくなったのだ。その影響で、その周りの映像が乱れている。

 ルディの聖痕はとても凶悪だった。しかしお陰で、地面すれすれを移動すれば、そのうち地下に続く階段が、幻影に邪魔をされずに発見できることになった。

 流石に聖痕を三種類かけ合わせると、無敵モードになってしまった。


 そして問題の二十四階層と言えば、暗闇の凍りついた世界になっていた。真っ白な雪が吹雪いている世界が、私達の周りだけ、吹雪く雪が歪み、続いて何もない空間になっている。
 ここまでされると、流石に幻影だと思わされる。

 だけど、もしこれを結界なしで進むとすれば、行倒れていた可能性がある。
 吹雪だよ。今着ている服って、ただの隊服だよ。
 絶対に凍え死んでいたね。


 それで今回の追いかける対象人物は、雪の中を歩く獅子の獣人。聖王だ。

 一人。ただ一人雪の中を歩いて、魔物と戦っている。彼に付き従う者は誰も居なかった。暗闇の中、己が手にもつ松明だけが頼りで進み、己の命を守り、唯一の明かりを守るように戦っていた。

「何を探しているのでしょうね?」

 神父様がおかしなことを言った。
 探している?この吹雪の中で?

「ここってどの辺りなんだろう?」

 何かを探すにしても、こんな吹雪いているところなんて、見つかるものも見つからないよ。

「そうですねー」

 神父様も周りを見渡しているけど、暗闇の中こんなに吹雪いていると、めぼしい風景は見つけられないようだ。

「おい! あっちで何か光ったぞ」

 酒吞が何かを見つけたらしい。こんな吹雪の中で光る物ってなんだろう?

 目を凝らすと、吹雪の中で赤く光る物が見える。それも高い位置にだ。

「火山ですね」

 茨木が言い切る。確かに位置的に高い場所で赤く光っているのがかすかに見える。だけど、私の目にはそれが火山かどうかの確証はできない。

「ということは、再び南に来たということですね」

 神父様の言葉に、普通なら見える王都とキルクスを隔てる高い山脈を探してみるけど、私の目には吹雪しか映らなかった。

 だけど、獅子の聖王の向かっている先に巨大な影が見えてくる。

 あの緑の手をもつ女性が命と引き換えに、創り出した巨大樹の姿だ。


 そして、獅子の聖王はその大樹の根本にたどり着く。そこには松明を掲げた数人の見張りの人が、これ以上聖王を進ませないように、武器を構えていた。

『∑ηπρΑΑΔ‼』
『ψΗωχηουΔθ』
『ζΕοχχφπΓπ!』
『πιφξνΕΖροοξΘχυ‼』

 遠すぎるのと、吹雪の所為で何を言っているのかさっぱりわからない。

 何を言っているかはわからないけど、多分近づくなとか去れみたいなことを見張りの人が言って、獅子の聖王は敵意はないと武器を置いたものの、見張りは聞く耳は持たないという感じだ。

 あ……聖王がボコられ始めた。私からみれば、こうなることはわかっていたよ。今まで虐げていた人たちに、話し合いか何かをしたかったようだけど、無駄だよね。

 そして、ぼろぼろになった聖王は見張りの人に遠くに連れて行かれて、置いていかれた。

 ……これ見せられたからってなに?意味がわからないのだけど?

「これでどうしろって言うわけ?」
「この場合は聖王を助けると次の道が開くのではないのですか?」
「ないよねー」

 私は次の階層に続く道を探すために、神父様の結界を地面に下ろす。そして、白い雪の地面に近づくと、映像が歪み始め、石の床が見えた。

「おお、流石ルディ。これ凄いよ」

 私は面倒なことをさせられずに進めることを、ルディに感謝する。

「さっき。凶悪って言っているのを聞こえたが?」
「え?それはダンジョンのヌシにとってだね」

 一応褒め言葉だと言っておく。けれど、普通は空間を断絶することも、干渉することも出来ないからね。

 そして、聖王が血だらけで倒れている近くにくると、黒い闇の床の端が見えてきた。やはり、聖王の近くだったか。

 すると唸り声が耳に入ってくる。
 なに?死にかけの聖王の唸り声かな?

 そう思った瞬間、雪の上に倒れていた聖王の身体が消え、すぐ近くに爪をむき出しにして腕を振り下ろしてくる獅子王の姿があった。

 最悪だ。


しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。 そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。 そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。 「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」 そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。 かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが… ※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。 ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。 よろしくお願いしますm(__)m

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる

花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

【完結】きみの騎士

  *  
恋愛
村で出逢った貴族の男の子ルフィスを守るために男装して騎士になった平民の女の子が、おひめさまにきゃあきゃあ言われたり、男装がばれて王太子に抱きしめられたり、当て馬で舞踏会に出たりしながら、ずっとすきだったルフィスとしあわせになるお話です。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

【完結済】呼ばれたみたいなので、異世界でも生きてみます。

まりぃべる
恋愛
異世界に来てしまった女性。自分の身に起きた事が良く分からないと驚きながらも王宮内の問題を解決しながら前向きに生きていく話。 その内に未知なる力が…? 完結しました。 初めての作品です。拙い文章ですが、読んでいただけると幸いです。 これでも一生懸命書いてますので、誹謗中傷はお止めいただけると幸いです。

処理中です...