聖痕の聖騎士〜溺愛?狂愛?私に結婚以外の選択肢はありますか?〜

白雲八鈴

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276 干渉する存在

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「アンジュ。お前、酷いな」

 何故か、ファルから呆れた視線を向けられた。どこが酷いわけ?

「だって、これって過去の終わったことなのに、助けるだなんて、何故そんな無駄なことをしなければならないわけ?」

 使うときは使うけど、力の無駄遣いはしないよ。
 だって、これで力を使ったからといって、緑の手を持つ女性が助かるわけじゃない。そう、助からない……あー、なんとなくわかってきた。

「ふふふっ」
「いきなり笑いだして気味が悪いぞ。アンジュ」
「神父様は気がついていたってこと?」
「何がですか?」

 私を気味が悪いと言ったファルは呆れた視線は引き気味になっていっている。そんなファルを横目に私は神父様に聞いてみる。神父様はとぼけているけど、最初からそう思っていたのなら、何かに気がついていたのだろう。

「でも、気づいていても気がついていなくても、私は助けなかったよ。私は聖女様じゃないからね」

 あの存在は言っていた。聖女はただ一人だけだと。私は緑の手を持つ女性を必死に助けようとしているルーナの聖女の人を見る。こういう人を聖女と言うんだろうね。無駄と知っていても助けようとするなんて。

 そして、そのまま下の階層に向かっていった。


「アンジュ。何がわかったんだ?」

「え?」

 私を抱えているルディが少し不貞腐れたような感じで聞いてきた。

「笑っているだろう?」

 笑っている。ああ、この笑いはあれだ。

「私はやっぱり聖女には程遠いと思ったからだね。聖女という存在はきっとああいう状態に遭遇すると、無駄だと知っても手をだしてしまうのだろうなって」
「何を言っているんだ?アンジュは聖女に成りたくないのだろう?」

 ん?ああ、別に聖女という存在になりたいと言ったわけじゃなくて、恐らくその行動に意味があるんだろうなってことだね。

「私は聖女にはならないよ。十一階層で荷車に引かれた子供を助けるために聖痕の力を使ったら、どうなんたんだろうっていう話だね」
「何もならないだろう?」

 何もならない。だってこれは過去の記憶の幻影だ。でも……もし、何者かの意思が絡んでいたとしたら?

「神父様は何を思ったのか、聞きたいな」

 私は神父様にそう尋ねる。そのときに、次の二十三階層にたどり着いた。そこは火の海だった。王都が燃えていた。

「そうですね。違和感を感じたのは一階層ですね。私達は精神干渉を受けたにも関わらず、アンジュとシュテンとイバラキはそれほど影響を受けなかったことですね」
「始めからじゃない!」

 でもそれって私達は異界の者だからだと思うんだけど。私は魂という存在がということだけどね。

「それを考えていたのですが、アンジュの言っていたことが引っかかっていましてね。ダンジョンに意思を持つ存在がいるとするのであれば、我々が見ている物は変化するのではないのかと思いましてね」
「え?」
「変化するというのは?」

 これは仮説でしかない。なぜなら、私は十階層以下では私達を浮遊させる重力の聖痕しか使っていない。

「例えば、王都が目の前で燃えているとすれば、どうすれば火を消そうかと考え、行動に起こしてもおかしくはない。ですが、我々は我々自身で行動の制限をしています」
「神父様、言い方が悪い。これは死の鎖対策だったじゃない」

 だけど、この王都の姿を見せられれば、王城に住みこの国を護っていた王と王妃であれば、行動を起こしていてもおかしくはない。

「そうですね。死に絡め取られた王はこの光景を見て、手を出さないでいられるのでしょうかね」

 ん?もしかして、神父様が怒っている?王城が燃えていることが許せることではない?

「それで、この火を消せばどうなるのか、気になりますよね」
「神父様。それはしないよ」
「おや?」

 その仮説の立証しない。そんな無駄なことは私はしたくない。

「私達の目的を履き違えることはしないよ」
「これは、すみませんね。気になっただけですよ」

 神父様はいつもの胡散臭い笑顔を私に向けてきた。
 そう、ここに来た目的は、繰り返される聖女の死と出現してくる異形、そして開きっぱなしの常闇、その常闇から顕れた死の鎖と黒い巨大な手の正体。それを知ることができるのが、このダンジョンにあるだろうと予想してきたのだ。
 私はダンジョンにいいように使われるために来たわけじゃない。

「なぜ、二人だけで話が完結しているんだ」
「シュレイン。これぐらい自分で答えにたどり着きなさい」

 機嫌が悪いルディを神父様は突き放した。今度はルディは私に視線を向けてきた。
 神父様、普通に答えて上げてよ。私が絞め殺される確率が上がるだけなんだから。

「はぁ。私は嫌だから絶対にしない。だからこれは、証明はできないよ」

 私は答えながら、燃える王都に向けて進みだした。そう、悲劇が起こっている王都の中にだ。

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