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272 月の聖痕
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「お皿が光っているよ!」
私は思わず叫んでしまった。銀髪の女性の頭上には光ったお皿が浮かんでいた。
「ぐふっ!」
「ふっ……」
「アンジュ。月の聖痕ですよ」
私の言葉にファルの身体がくの字曲がって震えている。ルディは思わず声が漏れてしまったように、自分の口元を押さえた。
そして、神父様には呆れた視線……冷たい視線を向けられてしまった。
「白い皿だなぁ。あれはアマテラスのやつと一緒か?」
「景教の宗教画のようですね」
酒吞は私の頭上にある天使の聖痕と見比べながら言った。
鬼ながら人の世界に紛れ込むために知をつけた茨木は、宗教画のことまで知っているようだ。
『υⁿιΕΕ∑χν』
『ΗΗΑΜξκρφ∇υβ』
『λΔνΗ.Αφ∑ξΜς』
うーん?銀髪の男性の口元から『終わったのか』と言ったのはわかった。それに対して緑の手を持つ女性が何かを言って、女性の言葉に対して銀髪の男性が血縁関係がありそうな女性に向かって『シュマリ、やってくれ』と何かを頼んだ。
すると月の聖痕を持つ女性が地面に膝をつき、天に祈りを捧げるように手を汲んだ。
「ねぇ、月の聖女は力を使うのに祈らないといけないわけ?」
そう、聖女の彼女も祈っていた。私は祈らなくても天使の聖痕の力は使えるというのに。
「それが普通ですね」
「普通じゃないのか?」
「普通だろう?」
月の聖女が母親である二人と叔母に持つ一人から同じ答えが返ってきた。
そうか。普通なのか。
「あの女と違ってこの者は聖痕が光っている。普通に使えるのだろう」
ルディは聖女の彼女と比較して言った。どうも普通は常に光っていて、祈りで力を使うようだ。
そして、暫し待つと、天が輝いた。太陽が昇った時のように月が光り、世界に明るさが取り戻された。
人々の歓声が沸き起こり、人々は彼女に向かって祈りを捧げている。
あれ?この光景に既視感がある。教会の光景だ。
「ねぇ。教会の聖女の像が人々を見ずに天を見ているのは、この情景を再現したことなの?」
「アンジュ。今まで何を習って来たのですか?」
神父様から呆れた声が聞こえてきた。教会で洗脳教育のように教えられたことだね。
「聖女は人々の平穏を天に祈っているだっけ?」
「そうですね」
平穏ねぇ。平穏……この状況で?
常闇から魔物が出てくる現在で?
底なしの魔力を溜めて、できるのがこれね。
「月は太陽の変わりにはならないよ」
所詮、月は太陽の光を反射するだけ……なにか、ふと嫌な予感がした。なんだろう?直ぐに霧散してしまったから、わからなくなってしまった。
「でもなぁ。アンジュ。人々の心の平穏のためには、月の光でもあった方がいいんじゃないのか」
太陽がないのなら、代わりに月を掲げよう。なんだか、凄く嫌な予感が止まらない。
この私の嫌な予感が当たらないことを願うよ。
「これは……成長しましたね」
茨木が何かを見ながら言った。何が成長したのだろう。
「植物が成長しているなぁ。いや、速度が異常に早い」
酒吞も同じものを見ているようだ。目を凝らしてみると、徐々にだけど草が天に向かって伸びているのが見える。そして、花が咲き、実をつけだした。それが、あちらこちらで出現している。
え?月の光だけでこんなが事できる?
いや、緑の手を持つ女性が地面に両手をついている。これは聖痕と聖痕の力の掛け合わせ。
普通の力以上の能力を発揮しているということ?
そして、二人の女性は意識を失ったかのように、地面に倒れた。
再び世界は夜の世界に戻ってしまった。
「あれ?月が消えた」
目が暗闇に慣れていなくて月が見えないというわけじゃない。私の頭上には天使の聖痕はずっと掲げている。だから、そこは問題ない。
月があった場所には影も形も存在しないのだ。
ふと、眼下に視線をむけると、二人の女性を簡素な布地で囲っただけのテントに運び込まれているのが見える。
「聖痕の光が消えた。あの月も聖痕の力で出していたってこと?」
人々は松明の明かりを頼りに次々に成長した植物から生った実を採取していっている。
このことから人が生き残った理由がわかった。大地が死んでしまったのは、元々聖王が作った楽園内だけのことだった。それ以外の場所は太陽と月が昇らない暗闇の世界になっただけ。
だから人々は生きるすべを願った。
夜を照らす月を願い、夜でも植物が成長するすべを願った。これは火の魔術しか使っていなかった人々には成せないことだった。
そして、世界が揺れた。
「これは時系列的には先程と同じと考えて良さそうですね」
神父様は震える世界を見下ろして言った。その眼下の人々はこの世界の震えをそこまで気にはしてはいない。何故なら、時折地面が揺れる事がある。
今回の揺れはそこまで大きくないと感じだのだろう。何事もないように作業を続けている。
でもこれは地面が揺れているのではなくて、大気が揺れているのだ。その違和感を感じたのだろう。銀髪の男性がふと空を見上げた。
ん?一瞬目があったような気がしたけど、これは幻影だから気の所為だよね。
私は思わず叫んでしまった。銀髪の女性の頭上には光ったお皿が浮かんでいた。
「ぐふっ!」
「ふっ……」
「アンジュ。月の聖痕ですよ」
私の言葉にファルの身体がくの字曲がって震えている。ルディは思わず声が漏れてしまったように、自分の口元を押さえた。
そして、神父様には呆れた視線……冷たい視線を向けられてしまった。
「白い皿だなぁ。あれはアマテラスのやつと一緒か?」
「景教の宗教画のようですね」
酒吞は私の頭上にある天使の聖痕と見比べながら言った。
鬼ながら人の世界に紛れ込むために知をつけた茨木は、宗教画のことまで知っているようだ。
『υⁿιΕΕ∑χν』
『ΗΗΑΜξκρφ∇υβ』
『λΔνΗ.Αφ∑ξΜς』
うーん?銀髪の男性の口元から『終わったのか』と言ったのはわかった。それに対して緑の手を持つ女性が何かを言って、女性の言葉に対して銀髪の男性が血縁関係がありそうな女性に向かって『シュマリ、やってくれ』と何かを頼んだ。
すると月の聖痕を持つ女性が地面に膝をつき、天に祈りを捧げるように手を汲んだ。
「ねぇ、月の聖女は力を使うのに祈らないといけないわけ?」
そう、聖女の彼女も祈っていた。私は祈らなくても天使の聖痕の力は使えるというのに。
「それが普通ですね」
「普通じゃないのか?」
「普通だろう?」
月の聖女が母親である二人と叔母に持つ一人から同じ答えが返ってきた。
そうか。普通なのか。
「あの女と違ってこの者は聖痕が光っている。普通に使えるのだろう」
ルディは聖女の彼女と比較して言った。どうも普通は常に光っていて、祈りで力を使うようだ。
そして、暫し待つと、天が輝いた。太陽が昇った時のように月が光り、世界に明るさが取り戻された。
人々の歓声が沸き起こり、人々は彼女に向かって祈りを捧げている。
あれ?この光景に既視感がある。教会の光景だ。
「ねぇ。教会の聖女の像が人々を見ずに天を見ているのは、この情景を再現したことなの?」
「アンジュ。今まで何を習って来たのですか?」
神父様から呆れた声が聞こえてきた。教会で洗脳教育のように教えられたことだね。
「聖女は人々の平穏を天に祈っているだっけ?」
「そうですね」
平穏ねぇ。平穏……この状況で?
常闇から魔物が出てくる現在で?
底なしの魔力を溜めて、できるのがこれね。
「月は太陽の変わりにはならないよ」
所詮、月は太陽の光を反射するだけ……なにか、ふと嫌な予感がした。なんだろう?直ぐに霧散してしまったから、わからなくなってしまった。
「でもなぁ。アンジュ。人々の心の平穏のためには、月の光でもあった方がいいんじゃないのか」
太陽がないのなら、代わりに月を掲げよう。なんだか、凄く嫌な予感が止まらない。
この私の嫌な予感が当たらないことを願うよ。
「これは……成長しましたね」
茨木が何かを見ながら言った。何が成長したのだろう。
「植物が成長しているなぁ。いや、速度が異常に早い」
酒吞も同じものを見ているようだ。目を凝らしてみると、徐々にだけど草が天に向かって伸びているのが見える。そして、花が咲き、実をつけだした。それが、あちらこちらで出現している。
え?月の光だけでこんなが事できる?
いや、緑の手を持つ女性が地面に両手をついている。これは聖痕と聖痕の力の掛け合わせ。
普通の力以上の能力を発揮しているということ?
そして、二人の女性は意識を失ったかのように、地面に倒れた。
再び世界は夜の世界に戻ってしまった。
「あれ?月が消えた」
目が暗闇に慣れていなくて月が見えないというわけじゃない。私の頭上には天使の聖痕はずっと掲げている。だから、そこは問題ない。
月があった場所には影も形も存在しないのだ。
ふと、眼下に視線をむけると、二人の女性を簡素な布地で囲っただけのテントに運び込まれているのが見える。
「聖痕の光が消えた。あの月も聖痕の力で出していたってこと?」
人々は松明の明かりを頼りに次々に成長した植物から生った実を採取していっている。
このことから人が生き残った理由がわかった。大地が死んでしまったのは、元々聖王が作った楽園内だけのことだった。それ以外の場所は太陽と月が昇らない暗闇の世界になっただけ。
だから人々は生きるすべを願った。
夜を照らす月を願い、夜でも植物が成長するすべを願った。これは火の魔術しか使っていなかった人々には成せないことだった。
そして、世界が揺れた。
「これは時系列的には先程と同じと考えて良さそうですね」
神父様は震える世界を見下ろして言った。その眼下の人々はこの世界の震えをそこまで気にはしてはいない。何故なら、時折地面が揺れる事がある。
今回の揺れはそこまで大きくないと感じだのだろう。何事もないように作業を続けている。
でもこれは地面が揺れているのではなくて、大気が揺れているのだ。その違和感を感じたのだろう。銀髪の男性がふと空を見上げた。
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