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262 魔術の発現
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全身に白い闘気という形にはなっていない曖昧なものをまとった白髪の男は、身体能力が己よりも上だろうという灰狼獣人にスピードが上回り、一方的な戦いになっている。
それの一方的な戦いに周りの人達が、声を上げて応援をしている。人族は獣人を嫌っているということが見て取れる。
そこに咆哮が響き渡った。それはもちろん灰色獣人から発せられた遠吠えだ。
「おい、来るぞ」
「来ますね」
酒吞と茨木は経験があるのか、一方の方向をみて言う。確かにそちらの方から土煙が上がっている。
「5対1ですか」
神父様の言う通り、四人の灰狼獣人の姿がこちらに向かって見える。
「でもアイツやる気満々だな」
ファルは白髪の男性に視線を向けたままだ。その人のまとっていた白いあやふやな闘気のようなものの形が変わってくる。渦巻く赤い炎のような形に変わってきた。
練り上げられた魔力。そう言える形だ。
渦巻く赤い炎のような魔力の塊が、爆発する。これはまるで……
「魔力の暴走だ。これはこの辺り一帯がこの炎に呑まれる」
ルディが言うように暴走した魔力は灰狼獣人だけでなく、白髪の男性に声を上げていた人々も赤い炎に呑み込まれていく。全てが赤に染まっていくように。
「うーん?これはどう見ればいいのかな?従うしかない人族が一矢報いたという話しかな?」
「今のところはそのような感じですね」
神父様も同意見のようだ。何を見せたいのか意図がわからないけど、白髪の男性は呆然と佇んでいる。
結局彼しかこの場に生きている人がいないのだ。彼は敵も味方も殺してしまったのだ。それは絶望するものだろう。
『クククッ……ハハハハハッ!ιχⁿρςξνφκ!!』
ん?笑い声以外何を言っているのかわからない。確かに人々の歓声や雑音は聞こえてきたけど、言葉がわからない。
いや、正確にはフィルターがかかっているように聞き取りにくい。
「何を言っているんだろう?」
「音は曖昧のようですね。口元からは『神は我々を見捨ててはいなかった』ですね」
おお、神父様は口元から言葉を読み取ったらしい。私の視界は微妙にルディが邪魔をしているので、見える範囲が限られてくるのだ。
あ、邪魔していると言ったら怒られるな。私がいらない行動をしないように、捕獲していると言い換えよう。
『ληχΔβ ∑ΜΑπιξ ΗΗξρψςΕκυυυυ!』
「『この力を使って、獣どもを鏖にしてやるー』と言っていますね」
神父様が訳してくれるけど、私はその言葉に首を傾げてしまう。
「この力って言っても大したこと無いよね」
「今回は魔力の暴発で何とかなったかもしれないが、周りへの被害が酷いし、まだジュウジンの方が戦い慣れていた感じだったから、直ぐに対策されただろうな」
ルディの言うとおりだ。5対1なら直ぐに分析されて、アレぐらいの魔力の塊なんて対応されたと思う。術ですらなかったからね。
ん?術ですら無い?
「もしかして、今まで魔術というものが、発現していなかったって言わないよね」
「アンジュ。魔術がないだなんて、どうやって暮らしていけるんだ?」
「魔術が存在していないとすれば、先程の言動もわかりますね」
「え?いや、あり得ないだろう?魔術がなくてどうやって、あの荷車が走るんだ?巨大な物が空を飛ぶんだ?」
ファルは飛行船を気に入っているようなので、魔術が存在しなくて、どうやって空を飛ぶのか理解できないらしい。
「あれもさぁ。別に魔術がなくても……」
そう言って私は幻影の空を指し示した。
「あれ?あれだけ飛び交っていた飛行船が無い」
さっきの階層とその前の階層ではひっきりなしに空を飛行船が飛んでいた。なのに、今の空には何も空には浮かんでいない。
「無いな」
「ありませんね」
「なぜ飛んでないんだ?」
皆の目からみても飛んでいないようだ。幻影に違いはないということ。うーん?考えてもわからないものは放置だ。
「まぁいいか。飛行船も魔術がなくても飛べるから、不思議がることじゃない。となると18世紀のヨーロッパぐらいの文明水準ってことか。でも動力源が何を用いているか気になるよね。どこかでそういうの出てこないかな?」
そういうのは多分関係ないから出てこないのだろうけど、現代でも使える物であるなら、色々便利になりそう。
「じゃ次に行こう」
白髪の男の姿が影も形も居なくなった場所に次に階層に行く階段が現れた。やはりここはあの男の姿を見せたかったのだろう。
次の階層は山脈を越えた北側に出てきた。
空には先程存在しなかった飛行船が飛んでいる。
そして、緑豊かな田畑。まるで全く違う国のようだ。
「あれ?もしかしてもう既に、崩壊が始まっているってこと?」
それの一方的な戦いに周りの人達が、声を上げて応援をしている。人族は獣人を嫌っているということが見て取れる。
そこに咆哮が響き渡った。それはもちろん灰色獣人から発せられた遠吠えだ。
「おい、来るぞ」
「来ますね」
酒吞と茨木は経験があるのか、一方の方向をみて言う。確かにそちらの方から土煙が上がっている。
「5対1ですか」
神父様の言う通り、四人の灰狼獣人の姿がこちらに向かって見える。
「でもアイツやる気満々だな」
ファルは白髪の男性に視線を向けたままだ。その人のまとっていた白いあやふやな闘気のようなものの形が変わってくる。渦巻く赤い炎のような形に変わってきた。
練り上げられた魔力。そう言える形だ。
渦巻く赤い炎のような魔力の塊が、爆発する。これはまるで……
「魔力の暴走だ。これはこの辺り一帯がこの炎に呑まれる」
ルディが言うように暴走した魔力は灰狼獣人だけでなく、白髪の男性に声を上げていた人々も赤い炎に呑み込まれていく。全てが赤に染まっていくように。
「うーん?これはどう見ればいいのかな?従うしかない人族が一矢報いたという話しかな?」
「今のところはそのような感じですね」
神父様も同意見のようだ。何を見せたいのか意図がわからないけど、白髪の男性は呆然と佇んでいる。
結局彼しかこの場に生きている人がいないのだ。彼は敵も味方も殺してしまったのだ。それは絶望するものだろう。
『クククッ……ハハハハハッ!ιχⁿρςξνφκ!!』
ん?笑い声以外何を言っているのかわからない。確かに人々の歓声や雑音は聞こえてきたけど、言葉がわからない。
いや、正確にはフィルターがかかっているように聞き取りにくい。
「何を言っているんだろう?」
「音は曖昧のようですね。口元からは『神は我々を見捨ててはいなかった』ですね」
おお、神父様は口元から言葉を読み取ったらしい。私の視界は微妙にルディが邪魔をしているので、見える範囲が限られてくるのだ。
あ、邪魔していると言ったら怒られるな。私がいらない行動をしないように、捕獲していると言い換えよう。
『ληχΔβ ∑ΜΑπιξ ΗΗξρψςΕκυυυυ!』
「『この力を使って、獣どもを鏖にしてやるー』と言っていますね」
神父様が訳してくれるけど、私はその言葉に首を傾げてしまう。
「この力って言っても大したこと無いよね」
「今回は魔力の暴発で何とかなったかもしれないが、周りへの被害が酷いし、まだジュウジンの方が戦い慣れていた感じだったから、直ぐに対策されただろうな」
ルディの言うとおりだ。5対1なら直ぐに分析されて、アレぐらいの魔力の塊なんて対応されたと思う。術ですらなかったからね。
ん?術ですら無い?
「もしかして、今まで魔術というものが、発現していなかったって言わないよね」
「アンジュ。魔術がないだなんて、どうやって暮らしていけるんだ?」
「魔術が存在していないとすれば、先程の言動もわかりますね」
「え?いや、あり得ないだろう?魔術がなくてどうやって、あの荷車が走るんだ?巨大な物が空を飛ぶんだ?」
ファルは飛行船を気に入っているようなので、魔術が存在しなくて、どうやって空を飛ぶのか理解できないらしい。
「あれもさぁ。別に魔術がなくても……」
そう言って私は幻影の空を指し示した。
「あれ?あれだけ飛び交っていた飛行船が無い」
さっきの階層とその前の階層ではひっきりなしに空を飛行船が飛んでいた。なのに、今の空には何も空には浮かんでいない。
「無いな」
「ありませんね」
「なぜ飛んでないんだ?」
皆の目からみても飛んでいないようだ。幻影に違いはないということ。うーん?考えてもわからないものは放置だ。
「まぁいいか。飛行船も魔術がなくても飛べるから、不思議がることじゃない。となると18世紀のヨーロッパぐらいの文明水準ってことか。でも動力源が何を用いているか気になるよね。どこかでそういうの出てこないかな?」
そういうのは多分関係ないから出てこないのだろうけど、現代でも使える物であるなら、色々便利になりそう。
「じゃ次に行こう」
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次の階層は山脈を越えた北側に出てきた。
空には先程存在しなかった飛行船が飛んでいる。
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