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259 厳しい階級社会?
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「そうだね、始まりなんて些細なもの、例えばこの荷車に乗った獣人が人族の子供を引いてしまった。それだけでも戦いは起きてしまう」
血溜まりが目に映り、獣人の男性は素知らぬ顔でそのまま過ぎ去っていく。その後には点々と車輪の跡が赤く地面を染めていた。
「おい!あの子供!」
「ファルークス。落ち着きなさい。これは幻影です。アンジュが言っていたでしょう。このダンジョンは我々に絶望を見せてくれると」
そう、これは終わったこと。天使の聖痕を何度使おうとも、血溜まりの中に浮かぶ子供は助けられない。
「しかし、そこに見ているやつらは助けられるだろう!何故助けてやらない!」
畑仕事をしていた彼らは子供が飛び出していったところも見ているし、直ぐに駆けつけて、手当をすれば、助かる可能性がある。しかし、彼らは怯えたように子供を見て、誰も助けない。
「あの熊のヤツ、公家か何かか?」
「公家の行く手を阻んでは、ただの民など、殺されても文句は言えないですね」
酒吞と茨木の言葉に何か引っかかりを覚えた。今は獣人という種族がなぜ存在しないのだろう。世界が滅びかけて、人族は生き残ったのに獣人が居ないということは、ありえないと思う。
それに酒吞が獣人の彼を公家と言い表した。貴族のことだ。
田畑で働いている者に頭の上に獣の耳が生えた者はいない。しかし、先程荷車とすれ違った荷車の運転手は頭の上に三角の白い耳が生えていた。
もしかして……いや、情報が足りない。
しかし、私達の背後には荷車が街に入ったところで、動かなくなった子供に駆け寄る大人たちの姿がある。
「かなり厳しい階級社会?」
「そうでしょうね。この街の状態を見る限りは」
神父様の言葉に視線を進行方向に向ければ、一見人々が幸せそうに暮らしている風景が目に映った。ただ路地の奥には倒れている人やうずくまっている人が見られる。
これは大きな街になればなるほど、職にありつけずに道端を棲家とする者たちがいるのは今もかわらない。しかしその数が異様に多い。
「領主は何をしているんだ?」
ルディがこの地を治める者に文句を言っているが、このような状態になる理由は複数存在するため、一概に領主の責とは限らない。
「これだけじゃ、わからないね。この街から読み解けるのは獣人は上流階級者ってことだけ」
街の中で幸せそうにしているのは獣人の人達。しかしその端では人々は忙しく働いている。人は労働階級なのだろう。
「神父様。もうアレを抜かして進んでいいですか?」
「良いですが、この街で11階層は終わりですよ」
ん?終わり?ではここは子供の死を見せつけたかったのだろう。
街の道路の真ん中に突如としてポッカリと口を開けた暗闇が出現した。これが次に行く階層に繋がる階段なのだろうけど、暗闇に引きずり込まれそうで、足を踏み入れるには躊躇する感じだ。
「この先はないの?」
風景的にはまだ街並みが続き、先程の子供を引いた荷車は先へと進んでいる。
「壁だ。行っては見たものの、壁にぶち当たった」
ファルは行ってみたらしい。しかし幻覚の風景は所詮幻覚なので、ダンジョンの大きさは変わらず、行き止まりだったようだ。
私は神父様が作った結界ごと、その暗闇の中に移動した。とはいっても中は普通の下る階段があるだけで、直ぐに次の階層へと出た。そこは……
「王都っぽい?」
小高い丘の上に建物がある風景は王都のようだけど、規模が今の王都の半分ほどだ。今出てきたところは、大きな街の外側から街を見ている感じだけど、私が近づいたことがないほどの近さから丘を見上げている。
いつもは米粒の大きさぐらいしか王城は見えないのに……それは言い過ぎだけれども、ここからだと圧迫感を感じるほどだ。
「王都ですよ」
神父様が言うからには王都なのだろう。そのまま進んで王都の街の中に入っていく。
「祭りか?以前はこんなことはなかったな」
ルディが周りの風景を目にして呟いた。確かに王都は祭りの様相だ。赤や白や色とりどりの花が飾られ、人々も着飾って楽しそうにしている。
「それもジュウジンばかりじゃないか」
ファルが言うように、それは獣人の人たちばかりだった。いろんな種族の獣人が混在している。背中に翼を持つ者もいれば、鱗のような皮膚を持つ者もいる。
「これこそファンタジー」
思わず呟いてしまった。異世界といえばコレ!教会でまずいご飯を食べて、戦闘訓練させられるのは、私としては異世界ファンタジーと認めたくない。魔物はいたけれどね。
そして獣人の人々はどこかに向かっているのか、人の流れができている。
「どこに行くんだろう?」
「王城の下ですよ。そこがこの階層の終着地点ですから」
そうか、ここからだと2キロメル程か。私は獣人たちが進む上空を進んでいくのだった。
血溜まりが目に映り、獣人の男性は素知らぬ顔でそのまま過ぎ去っていく。その後には点々と車輪の跡が赤く地面を染めていた。
「おい!あの子供!」
「ファルークス。落ち着きなさい。これは幻影です。アンジュが言っていたでしょう。このダンジョンは我々に絶望を見せてくれると」
そう、これは終わったこと。天使の聖痕を何度使おうとも、血溜まりの中に浮かぶ子供は助けられない。
「しかし、そこに見ているやつらは助けられるだろう!何故助けてやらない!」
畑仕事をしていた彼らは子供が飛び出していったところも見ているし、直ぐに駆けつけて、手当をすれば、助かる可能性がある。しかし、彼らは怯えたように子供を見て、誰も助けない。
「あの熊のヤツ、公家か何かか?」
「公家の行く手を阻んでは、ただの民など、殺されても文句は言えないですね」
酒吞と茨木の言葉に何か引っかかりを覚えた。今は獣人という種族がなぜ存在しないのだろう。世界が滅びかけて、人族は生き残ったのに獣人が居ないということは、ありえないと思う。
それに酒吞が獣人の彼を公家と言い表した。貴族のことだ。
田畑で働いている者に頭の上に獣の耳が生えた者はいない。しかし、先程荷車とすれ違った荷車の運転手は頭の上に三角の白い耳が生えていた。
もしかして……いや、情報が足りない。
しかし、私達の背後には荷車が街に入ったところで、動かなくなった子供に駆け寄る大人たちの姿がある。
「かなり厳しい階級社会?」
「そうでしょうね。この街の状態を見る限りは」
神父様の言葉に視線を進行方向に向ければ、一見人々が幸せそうに暮らしている風景が目に映った。ただ路地の奥には倒れている人やうずくまっている人が見られる。
これは大きな街になればなるほど、職にありつけずに道端を棲家とする者たちがいるのは今もかわらない。しかしその数が異様に多い。
「領主は何をしているんだ?」
ルディがこの地を治める者に文句を言っているが、このような状態になる理由は複数存在するため、一概に領主の責とは限らない。
「これだけじゃ、わからないね。この街から読み解けるのは獣人は上流階級者ってことだけ」
街の中で幸せそうにしているのは獣人の人達。しかしその端では人々は忙しく働いている。人は労働階級なのだろう。
「神父様。もうアレを抜かして進んでいいですか?」
「良いですが、この街で11階層は終わりですよ」
ん?終わり?ではここは子供の死を見せつけたかったのだろう。
街の道路の真ん中に突如としてポッカリと口を開けた暗闇が出現した。これが次に行く階層に繋がる階段なのだろうけど、暗闇に引きずり込まれそうで、足を踏み入れるには躊躇する感じだ。
「この先はないの?」
風景的にはまだ街並みが続き、先程の子供を引いた荷車は先へと進んでいる。
「壁だ。行っては見たものの、壁にぶち当たった」
ファルは行ってみたらしい。しかし幻覚の風景は所詮幻覚なので、ダンジョンの大きさは変わらず、行き止まりだったようだ。
私は神父様が作った結界ごと、その暗闇の中に移動した。とはいっても中は普通の下る階段があるだけで、直ぐに次の階層へと出た。そこは……
「王都っぽい?」
小高い丘の上に建物がある風景は王都のようだけど、規模が今の王都の半分ほどだ。今出てきたところは、大きな街の外側から街を見ている感じだけど、私が近づいたことがないほどの近さから丘を見上げている。
いつもは米粒の大きさぐらいしか王城は見えないのに……それは言い過ぎだけれども、ここからだと圧迫感を感じるほどだ。
「王都ですよ」
神父様が言うからには王都なのだろう。そのまま進んで王都の街の中に入っていく。
「祭りか?以前はこんなことはなかったな」
ルディが周りの風景を目にして呟いた。確かに王都は祭りの様相だ。赤や白や色とりどりの花が飾られ、人々も着飾って楽しそうにしている。
「それもジュウジンばかりじゃないか」
ファルが言うように、それは獣人の人たちばかりだった。いろんな種族の獣人が混在している。背中に翼を持つ者もいれば、鱗のような皮膚を持つ者もいる。
「これこそファンタジー」
思わず呟いてしまった。異世界といえばコレ!教会でまずいご飯を食べて、戦闘訓練させられるのは、私としては異世界ファンタジーと認めたくない。魔物はいたけれどね。
そして獣人の人々はどこかに向かっているのか、人の流れができている。
「どこに行くんだろう?」
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そうか、ここからだと2キロメル程か。私は獣人たちが進む上空を進んでいくのだった。
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