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251 無限大に呑み込む小銭入れ

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 小休憩が終わり、第二階層を進むことになった。え?神父様を怒らせて大丈夫だったかって?
 いつものように、グチグチ言われたよ。聞くふりをして、スープの中の干し肉を噛むことに集中していたけれどね。
 言われ慣れているので、痛くも痒くもない。

 そして、何故かルディが食後の果物を剥いて切り分けてくれた。勿論食べたけれど……いやルディに食べさせられたの間違いだった。

 そのあと、酒吞と茨木が片付けているところを見て、思わず叫んでしまった。

「その袋ってなに!」

 大きさは酒吞が肩に担ぐ大きさだ。いうなれば、米俵ぐらいありそう。その革製の袋の中に座っていた椅子やら、大きめの鍋やら魔導式コンロなどが、次々に吸い込まれていった。

 もしかして、収納拡張袋ってやつ!私も作ろうと試してみたものの、無限大に物が入っていき、取り出せない物体に成り下がった記憶しかない。

「ええ、リュミエール殿からこの革袋に必要な物を入れて持っていくようにと、言われたのですよ」
「不思議袋だ!いろんな物が入っているぞ」

 どうやら、荷物持ちの鬼の二人に神父様が渡したようだけど……。

「神父様!あの袋は何処に売っているのですか!」

 あれ、欲しい。絶対に欲しい。もう少し小さいものはないのだろうか。

「何処にも売っていませんよ。私が作成したものですから」

 悪魔神父は人の良さそうな笑顔で、大したことはないと言わんばかりの態度だった。
 くぅー!何気に神父様がチート過ぎる。私頑張ったのに、全然思った物が作れなかったのに!

「因に参考にしたのは、アンジュがゴミとして捨てていた、恐ろしい小銭入れですよ」
「え?無限大に物を飲み込むしか能力がない袋……あれ、焼却炉のゴミの山に紛れ込ませていたのに?」

 あの底なしに物を飲み込んでいく小袋は、この世から消去しなければならないと、燃やす為に溜められていたゴミ置き場にこっそりと、紛れ込ませたはずだった。まさか、神父様に見つかってしまっていたとは!

「アンジュ。恐ろしい言葉が聞こえたが、何を作ったんだ?」

 私の言葉にファルが突っ込んできた。まぁ、流石の私もヤバいと思ったからね。入れた物が取り出せない袋だなんて。

「無限大に物を飲み込んでいく小銭入れ」

「そんなに小銭を持ち歩こうとしていたのか?」

 いや、小銭入れで試しに作ってみたのは、簡単に作れて口が閉まる入れ物だっただけで、小銭入れにこだわったわけではない。

「布の端切れで作れるからで、本当は肩掛けカバンぐらいの大きさにするつもりだった」

「良かったですね。始めからカバンにしないで」

 なんか、神父様の言葉の裏に嫌味を感じる。

「どういう意味ですか?」

「あれ、焼却炉の炎まで飲み込んでいましたよ」

 何だって!火まで飲み込むって……あ、焼却炉に火を入れては見たものの、燃えないから何事かと思って調べられたのか。いや、ちょっと待って。

「それはおかしい!私は袋の入口は開かないように縫い付けたから、外から燃やされれば普通に燃えたはず!」

 私は絶対に袋の口が開かないように、何重にも糸で縫い付けたのだから、ちょっとやそっとでは取れるはずもない。その糸が外れるときは、袋自体が燃やされているはずだった。

「シスター・グレーシアがアンジュがコソコソしているのを気になって、観察していましてね。あのアンジュが小銭入れを、燃やすゴミに捨てているというので、どんな怪しいものを捨てているのかと気になったと、袋を覗いて見たそうですよ。中は真っ暗で何も入っていなかったと言っていましたね」

 ドジっ子シスター!いらないところに気を使わなくていいよ。しかし、生き物が入らないように術式を組んでいて良かった。覗き込んだ時点でシスターは袋の中に吸い込まれていっていたよ。

「現物を見て驚きましたね。袋の容量を大幅に超えてものを収納できる魔道具だなんて、世の中に出れば、犯罪を増長させること間違いありませんね」
「いや、あれは物が取り出せないから、破棄したんだけど?」

 すると神父様は私の言葉に笑みを深めた。なんだか、とても嫌な予感がする。いや、私が作った収納拡張の袋を参考にしたという時点で嫌な予感はしていた。

「まぁ、所詮布地ですからね。縫製している箇所を焼き切れば、魔道具としての形はなさないですよね」

 いやぁぁぁ!まさか、袋を解体されていたなんて!袋自体には強化の魔術を掛けていたので、多少の衝撃は絶えるものだった。しかし、縫ってある糸に絞って攻撃されれば、簡単に袋は布地へと変化する。

「まぁ、よくあれだけゴブリンを殺したなという死骸がでてきましたね。それも皮膚が爛れたように変色して、どれだけ強力な毒を使ったのかという躯でしたね。あんな物を焼却しようとしたなんて、焼却炉が壊れるではないですか」

 あ、そっちで怒られるわけね。容量が多い過ぎて壊れると……てっきり私は毒のことで怒られると思ったよ。

「アンジュ。あの恐ろし毒で、いったいどれほどのゴブリンを倒したんだ?」

 私の毒を薄めた栄養剤を飲んだファルは、寒いのか腕をさすりながら聞いてきた。

「さぁ?キングのいるコロニーだったからどれぐらいだろう?」

 いちいち数なんて数えてはいないよ。

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