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250 聞いているけど……
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私は渡された器の中身を見て、既視感に襲われてしまった。薄暗い中でもはっきりとわかる。お湯のようなスープの中に、クズ野菜のような具材が入っている。
それを見た私は思わず目頭を押さえてしまった。教会のスープ!
いや、味は違うかもしれない。お湯のようなスープを匙で掬って口に運ぶ。うすい塩味しかしない。駄目だ。ここ最近の自炊している食事に比べたら、ほとんど水と言って良い。
ああ、妹もどきが言っていたシチューが食べたい。
「なんですか?アンジュ。その不満そうな顔は」
神父様が食べ物に文句があるのかという視線を向けてきたので、文句はないと無言でお湯と言っていいスープを飲む。
「アンジュ。散歩はそろそろ止めにしようか」
突然、背後からとても低い声が聞こえて来た。何故に私の散歩を止めないといけないのだろうか。
「ルディ。散歩は必要なことだよ」
歯が折れるんじゃないかっていうぐらい、硬いパンも渡されたのでスープに浸しておく。
散歩は自分のいる環境を知るのに必要なことだ。どこから行けば抜け出せるか、日々模索するために……とは言っても、現状では聖騎士団を抜け出すことなんて不可能だということは理解している。
物理的ではなく、誓約に縛られているためだ。
「一緒に歩いていて気がついたが、アンジュに不躾な視線を向けてくるヤツが多いよな」
ああ、気持ち悪い視線ってことだね。まぁ、視線を向けてくるぐらいは、どうもない。それに、キルクスの顔見知りが、私の方に来ようとしている騎士を引き止めているのを知っているから、放置している。
「あ……干し肉をつけてくれるんだ。だったら一緒に煮込んでくれても良かったのに」
干し肉の欠片を渡されて、お肉があることに喜んだものの、木の板のように硬い肉を渡されてもと困ってしまう。それなら塩抜きして、スープに入れてくれたほうがよかったのに。
「アンジュ。聞いているのか?」
干し肉を小さく割ろうとして、身体強化が使えないことに項垂れている私に、ルディは言ってきた。
聞いているよ。
「ああ、それは酒吞が、そのまま食べたいと言ったので、入れてないですね」
茨木の言葉に酒吞に視線を向けると、木の板のような干し肉をバリバリと食べていた。鬼だもんね。固くても食べれるよね。
「くぅー。まさか身体強化が使えないことでダンジョンが進めないとかじゃなくて、干し肉を食べれないことになるなんて……なんて地味な嫌がらせ」
「はぁ」
私が、干し肉を食べることができない憤りを呟いていると、ルディからため息が聞こえてきた。そして、私が持っている干し肉を手にとって、細かく砕いて膝の上に乗せているスープの器の中に入れてくれた。
「シュレイン。アンジュが食べているときに話しかけても、無駄だと学習していないのですか?」
神父様、酷い言い草だね。教会のスープに干し肉が付いていたら奪い合いになるじゃないの!
だからさっさと砕いて、自分のスープの中に入れるのが一番いい。
「それぐらい、知っている。干し肉は細かく砕いてスープに入れることも知っている」
昔から身体強化が使えていたからね。皆が干し肉に苦戦している横で、一人細かく砕いてスープと一緒に流し込んでいた。
スープに溶け込んだ酸味のあるパンと干し肉と一緒に掬って食べる。恐らくこれがこの味気ないスープを少しでも美味しく食べる方法だ。パンの酸味と肉の旨味と塩味とでこの味気ないスープを飲む。
「でも、確かにアンジュの食べ方が一番おいしく感じるんだよなぁ。他の部隊だと遠征に行くと必ず、この保存食になるだろう?一度、干し肉と一緒に煮たら塩っぱすぎて食べれなかったと言っていたからな」
ファルも私と同じようにしてスープを食べている。
やっぱりそうだったのか。いくらなんでも、教会のメニューが水みたいなスープから変わらないと思ったら、聖騎士団の遠征食がこのスープだったのか。これこそ洗脳教育と言っていいよね。遠征食に文句を言わせないための、質素な食事。
「ファル様。干し肉を煮るときは、塩抜きするって常識じゃない。遠征の時はそんな時間がないから、干し肉がそのまま出るんだよ」
「じゃ、さっきなんで一緒に煮込んでないことに文句を言ったんだ?」
「それは私が今の状態では、普通の干し肉が食べれないからに決まっているよね!」
「堂々と偉そうに言うな。ただ単に食い意地が張っているだけだろうが!」
「美味しい物は正義だ!」
私とファルが言い合っていると、クスクスと神父様の笑い声が聞こえて来た。なに?すごく怖いのだけど?
「昔からあなた達は変わりませんね」
なんかジジくさいことを神父様が言ってきた。まぁジジくさいと言うと怒られそうだから言わないけれど。
「リュミエール神父。それはアンジュが成長していないということですよね」
ファルが失礼なことを言ってきた。
「私は大きくなっているからね!背も伸びているからね!なに?ファル様の白い目は!神父様がジジくさいことを言うから悪いんだよ……ね」
「ジジくさいって、どういうことでしょうか?」
あ、つい口が滑ってしまった。
それを見た私は思わず目頭を押さえてしまった。教会のスープ!
いや、味は違うかもしれない。お湯のようなスープを匙で掬って口に運ぶ。うすい塩味しかしない。駄目だ。ここ最近の自炊している食事に比べたら、ほとんど水と言って良い。
ああ、妹もどきが言っていたシチューが食べたい。
「なんですか?アンジュ。その不満そうな顔は」
神父様が食べ物に文句があるのかという視線を向けてきたので、文句はないと無言でお湯と言っていいスープを飲む。
「アンジュ。散歩はそろそろ止めにしようか」
突然、背後からとても低い声が聞こえて来た。何故に私の散歩を止めないといけないのだろうか。
「ルディ。散歩は必要なことだよ」
歯が折れるんじゃないかっていうぐらい、硬いパンも渡されたのでスープに浸しておく。
散歩は自分のいる環境を知るのに必要なことだ。どこから行けば抜け出せるか、日々模索するために……とは言っても、現状では聖騎士団を抜け出すことなんて不可能だということは理解している。
物理的ではなく、誓約に縛られているためだ。
「一緒に歩いていて気がついたが、アンジュに不躾な視線を向けてくるヤツが多いよな」
ああ、気持ち悪い視線ってことだね。まぁ、視線を向けてくるぐらいは、どうもない。それに、キルクスの顔見知りが、私の方に来ようとしている騎士を引き止めているのを知っているから、放置している。
「あ……干し肉をつけてくれるんだ。だったら一緒に煮込んでくれても良かったのに」
干し肉の欠片を渡されて、お肉があることに喜んだものの、木の板のように硬い肉を渡されてもと困ってしまう。それなら塩抜きして、スープに入れてくれたほうがよかったのに。
「アンジュ。聞いているのか?」
干し肉を小さく割ろうとして、身体強化が使えないことに項垂れている私に、ルディは言ってきた。
聞いているよ。
「ああ、それは酒吞が、そのまま食べたいと言ったので、入れてないですね」
茨木の言葉に酒吞に視線を向けると、木の板のような干し肉をバリバリと食べていた。鬼だもんね。固くても食べれるよね。
「くぅー。まさか身体強化が使えないことでダンジョンが進めないとかじゃなくて、干し肉を食べれないことになるなんて……なんて地味な嫌がらせ」
「はぁ」
私が、干し肉を食べることができない憤りを呟いていると、ルディからため息が聞こえてきた。そして、私が持っている干し肉を手にとって、細かく砕いて膝の上に乗せているスープの器の中に入れてくれた。
「シュレイン。アンジュが食べているときに話しかけても、無駄だと学習していないのですか?」
神父様、酷い言い草だね。教会のスープに干し肉が付いていたら奪い合いになるじゃないの!
だからさっさと砕いて、自分のスープの中に入れるのが一番いい。
「それぐらい、知っている。干し肉は細かく砕いてスープに入れることも知っている」
昔から身体強化が使えていたからね。皆が干し肉に苦戦している横で、一人細かく砕いてスープと一緒に流し込んでいた。
スープに溶け込んだ酸味のあるパンと干し肉と一緒に掬って食べる。恐らくこれがこの味気ないスープを少しでも美味しく食べる方法だ。パンの酸味と肉の旨味と塩味とでこの味気ないスープを飲む。
「でも、確かにアンジュの食べ方が一番おいしく感じるんだよなぁ。他の部隊だと遠征に行くと必ず、この保存食になるだろう?一度、干し肉と一緒に煮たら塩っぱすぎて食べれなかったと言っていたからな」
ファルも私と同じようにしてスープを食べている。
やっぱりそうだったのか。いくらなんでも、教会のメニューが水みたいなスープから変わらないと思ったら、聖騎士団の遠征食がこのスープだったのか。これこそ洗脳教育と言っていいよね。遠征食に文句を言わせないための、質素な食事。
「ファル様。干し肉を煮るときは、塩抜きするって常識じゃない。遠征の時はそんな時間がないから、干し肉がそのまま出るんだよ」
「じゃ、さっきなんで一緒に煮込んでないことに文句を言ったんだ?」
「それは私が今の状態では、普通の干し肉が食べれないからに決まっているよね!」
「堂々と偉そうに言うな。ただ単に食い意地が張っているだけだろうが!」
「美味しい物は正義だ!」
私とファルが言い合っていると、クスクスと神父様の笑い声が聞こえて来た。なに?すごく怖いのだけど?
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なんかジジくさいことを神父様が言ってきた。まぁジジくさいと言うと怒られそうだから言わないけれど。
「リュミエール神父。それはアンジュが成長していないということですよね」
ファルが失礼なことを言ってきた。
「私は大きくなっているからね!背も伸びているからね!なに?ファル様の白い目は!神父様がジジくさいことを言うから悪いんだよ……ね」
「ジジくさいって、どういうことでしょうか?」
あ、つい口が滑ってしまった。
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