246 / 374
246 所詮目眩まし
しおりを挟む
「おや?なぜ3人で出てきたのですか?」
一番突き当りの扉を開けると、そこには神父様と酒吞と茨木が待っていた。
「何故って、途中でファル様がうずくまっていたから引っ張って行っていたら、後から凄い殺気が飛んできたからルディを回収してきただけ」
私は端的に状況説明をした。すると神父様は驚いたように目を見開いて私を見てきた。
「アンジュは、ダンジョンに過去を見せられなかったのですか?」
「見たよ。でも話をしていると動揺してどっか行っちゃった」
私の言葉に反応したのは神父様ではなく、私を抱えたままのルディだった。
「誰と話していたんだ?」
……これは言っても大丈夫なのかな?大丈夫なはず。この世界にも私の妹って……いないな。兄弟っていう感じで濁そう。
「私の兄弟」
「夢で泣かされたという兄弟か?」
「ん?泣かされてはないよ。雪が降る日に私が人さらいに攫われないように、家の中に軟禁されていたことが気に入らなくて、外に放り出されて水を掛けられただけだからね」
あの時泣いていたのは、子供であった私自身に対して、もどかしいという悔し涙だ。
「それは三歳のアンジュにか?」
「正確には二歳半だね」
すると、隣から不穏な気配を感じ始めた。これはいけない。話を続けよう。
「でもさぁ。私の兄弟にしては不可解なところがあったから、ちょっと色々話してみたんだよ」
「動揺していたとアンジュは言っていましたね。何を話していたのですか?」
聞かれた神父様の方に視線を向けて答える。
「聖女という者の役割。真実は私が知っていることと全く違ったんだけど、知っていたの?」
時々神父様が月の聖女のことに対して、意味深なつぶやきを言っていたことがある。だから、神父様は知っていたのだろう。月の聖女の役目を。
「どういう事をですかね?」
人の良さそうな顔をして平気で人を騙そうとする神父様。
「聖女とは重しだって言われたね。それも聖女とは一人だけだって。いつから月の聖女と太陽の聖女って言われるようになったのかなぁ?」
「え?」
「それはどういうことだ?アンジュ」
ファルとルディは知らなかったようだ。しかし、神父様の表情に変化はない。
「少し休憩をしましょうか。シュテンとイバラキに準備をしてもらっていたので、何か食べましょうか」
これは話が長くなるから、休憩をしながら話そうということか。
いや、神父様は扉の前にいたけれど、酒吞と茨木はその奥で何か作業をしていたので休憩はするつもりだったのだろう。まぁ、ファルもルディも精神的疲れていそうだし、私も妹もどきに晩御飯がシチューだと聞かされたので、小腹がすいてきた。
酒吞と茨木のところに行くと、明かり取りの大きめのランプを中心に、腰掛ける用の椅子が置かれ、魔道式コンロでお湯が沸かされていた。
あれ?酒吞が抱えていた荷物は大きかったけれど、椅子まで入れる余裕があると思わなかった。だって、5日分の食料だけでも相当な量になると思ったからだ。
「酒吞と茨木は何も問題はなかったの?」
何故か私の分の椅子も用意してあるというのに、ルディの膝の上に座らされ、茨木からコップを受け取る。中には温かいお茶が入っていた。
「ええ、あんな目眩まし、引っかかることはないですね」
「雑魚妖怪なみにお粗末だったな」
鬼である彼らにとって、ダンジョンが見せたものは、引っかかる方が馬鹿だと言うような、拙いものだったようだ。
その言葉に、お茶を飲もうとしていたファルがムセている。思いっきり引っかかっていたからね。
「どの辺りが目眩ましと感じたんだ」
茨木からコッブを受け取っているルディが質問する。まぁ、ルディも相当やばい状態だったからね。
「ふふふっ。滑稽だったからですね。あの頼光が……ふふふっ……すみません。ちょっとおかしくて……思い出しただけで……」
茨木は違和感に満ちた幻影が、ツボにはまったらしく、話すこともままならないほど、クツクツと笑い出した。
「俺の配下に腰抜けは居ないっていうのに、逃げようって言い出したヤローが居たからな、クソだと思ったな」
まぁ、二人共何かしらの違和感を感じたということだね。
「では、アンジュはその兄弟に、何を違和感として感じたのですか?」
おお!今度は私にふられてしまった。
「え?まぁ、犬猿の仲と言って良いマロと仲良くしていたからだね」
「アンジュ。マロとは兄弟のことだったのか?」
「え?犬」
「いぬ?」
私の頭上から疑問が投げかけられた。犬って居るよね。私見たことないけど。……あれ?もしかして、青龍をペットにするぐらいなのだから、居ないかもしれない
_________________
いつも読んでいただきまして、ありがとうございます。
そろそろストックがつきそうなので、他の作品と同じ週二回投稿にさせていただきます。
現在三作品同時投稿しておりまして、
月・金が『私の秘密~』
水・日が『番とは~』
なので、火・土を『聖痕の聖騎士』
にさせていただきます。投稿回数が減りますので、進みはその分遅くなります。
申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。
次回23日です。
一番突き当りの扉を開けると、そこには神父様と酒吞と茨木が待っていた。
「何故って、途中でファル様がうずくまっていたから引っ張って行っていたら、後から凄い殺気が飛んできたからルディを回収してきただけ」
私は端的に状況説明をした。すると神父様は驚いたように目を見開いて私を見てきた。
「アンジュは、ダンジョンに過去を見せられなかったのですか?」
「見たよ。でも話をしていると動揺してどっか行っちゃった」
私の言葉に反応したのは神父様ではなく、私を抱えたままのルディだった。
「誰と話していたんだ?」
……これは言っても大丈夫なのかな?大丈夫なはず。この世界にも私の妹って……いないな。兄弟っていう感じで濁そう。
「私の兄弟」
「夢で泣かされたという兄弟か?」
「ん?泣かされてはないよ。雪が降る日に私が人さらいに攫われないように、家の中に軟禁されていたことが気に入らなくて、外に放り出されて水を掛けられただけだからね」
あの時泣いていたのは、子供であった私自身に対して、もどかしいという悔し涙だ。
「それは三歳のアンジュにか?」
「正確には二歳半だね」
すると、隣から不穏な気配を感じ始めた。これはいけない。話を続けよう。
「でもさぁ。私の兄弟にしては不可解なところがあったから、ちょっと色々話してみたんだよ」
「動揺していたとアンジュは言っていましたね。何を話していたのですか?」
聞かれた神父様の方に視線を向けて答える。
「聖女という者の役割。真実は私が知っていることと全く違ったんだけど、知っていたの?」
時々神父様が月の聖女のことに対して、意味深なつぶやきを言っていたことがある。だから、神父様は知っていたのだろう。月の聖女の役目を。
「どういう事をですかね?」
人の良さそうな顔をして平気で人を騙そうとする神父様。
「聖女とは重しだって言われたね。それも聖女とは一人だけだって。いつから月の聖女と太陽の聖女って言われるようになったのかなぁ?」
「え?」
「それはどういうことだ?アンジュ」
ファルとルディは知らなかったようだ。しかし、神父様の表情に変化はない。
「少し休憩をしましょうか。シュテンとイバラキに準備をしてもらっていたので、何か食べましょうか」
これは話が長くなるから、休憩をしながら話そうということか。
いや、神父様は扉の前にいたけれど、酒吞と茨木はその奥で何か作業をしていたので休憩はするつもりだったのだろう。まぁ、ファルもルディも精神的疲れていそうだし、私も妹もどきに晩御飯がシチューだと聞かされたので、小腹がすいてきた。
酒吞と茨木のところに行くと、明かり取りの大きめのランプを中心に、腰掛ける用の椅子が置かれ、魔道式コンロでお湯が沸かされていた。
あれ?酒吞が抱えていた荷物は大きかったけれど、椅子まで入れる余裕があると思わなかった。だって、5日分の食料だけでも相当な量になると思ったからだ。
「酒吞と茨木は何も問題はなかったの?」
何故か私の分の椅子も用意してあるというのに、ルディの膝の上に座らされ、茨木からコップを受け取る。中には温かいお茶が入っていた。
「ええ、あんな目眩まし、引っかかることはないですね」
「雑魚妖怪なみにお粗末だったな」
鬼である彼らにとって、ダンジョンが見せたものは、引っかかる方が馬鹿だと言うような、拙いものだったようだ。
その言葉に、お茶を飲もうとしていたファルがムセている。思いっきり引っかかっていたからね。
「どの辺りが目眩ましと感じたんだ」
茨木からコッブを受け取っているルディが質問する。まぁ、ルディも相当やばい状態だったからね。
「ふふふっ。滑稽だったからですね。あの頼光が……ふふふっ……すみません。ちょっとおかしくて……思い出しただけで……」
茨木は違和感に満ちた幻影が、ツボにはまったらしく、話すこともままならないほど、クツクツと笑い出した。
「俺の配下に腰抜けは居ないっていうのに、逃げようって言い出したヤローが居たからな、クソだと思ったな」
まぁ、二人共何かしらの違和感を感じたということだね。
「では、アンジュはその兄弟に、何を違和感として感じたのですか?」
おお!今度は私にふられてしまった。
「え?まぁ、犬猿の仲と言って良いマロと仲良くしていたからだね」
「アンジュ。マロとは兄弟のことだったのか?」
「え?犬」
「いぬ?」
私の頭上から疑問が投げかけられた。犬って居るよね。私見たことないけど。……あれ?もしかして、青龍をペットにするぐらいなのだから、居ないかもしれない
_________________
いつも読んでいただきまして、ありがとうございます。
そろそろストックがつきそうなので、他の作品と同じ週二回投稿にさせていただきます。
現在三作品同時投稿しておりまして、
月・金が『私の秘密~』
水・日が『番とは~』
なので、火・土を『聖痕の聖騎士』
にさせていただきます。投稿回数が減りますので、進みはその分遅くなります。
申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。
次回23日です。
10
お気に入りに追加
534
あなたにおすすめの小説

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

嫁ぎ先(予定)で虐げられている前世持ちの小国王女はやり返すことにした
基本二度寝
恋愛
小国王女のベスフェエラには前世の記憶があった。
その記憶が役立つ事はなかったけれど、考え方は王族としてはかなり柔軟であった。
身分の低い者を見下すこともしない。
母国では国民に人気のあった王女だった。
しかし、嫁ぎ先のこの国に嫁入りの準備期間としてやって来てから散々嫌がらせを受けた。
小国からやってきた王女を見下していた。
極めつけが、周辺諸国の要人を招待した夜会の日。
ベスフィエラに用意されたドレスはなかった。
いや、侍女は『そこにある』のだという。
なにもかけられていないハンガーを指差して。
ニヤニヤと笑う侍女を見て、ベスフィエラはカチンと来た。
「へぇ、あぁそう」
夜会に出席させたくない、王妃の嫌がらせだ。
今までなら大人しくしていたが、もう我慢を止めることにした。

初めから離婚ありきの結婚ですよ
ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。
嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。
ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ!
ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。

魔法学園のパーティを追い出されたら、「僕と付き合ってくれるならパーティ組んでもいいですよ?」と後輩に迫られました
リコピン
恋愛
魔法学園の三年生メリルは、卒業を間近に学園内のパーティを追い出されてしまう。理由は「うるさい」から。困り果てたメリルに救いの手を差し伸べてくれたのは、一つ年下の男の子ウィルバートだった。ウィルバートは無表情に告げる。「僕と付き合ってくれるなら、パーティ組んでもいいですよ?」

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜
本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」
王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。
偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。
……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。
それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。
いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。
チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。
……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。
3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。

【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~
瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)
ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。
3歳年下のティーノ様だ。
本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。
行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。
なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。
もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。
そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。
全7話の短編です 完結確約です。

もう一度あなたと?
キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として
働くわたしに、ある日王命が下った。
かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、
ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。
「え?もう一度あなたと?」
国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への
救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。
だって魅了に掛けられなくても、
あの人はわたしになんて興味はなかったもの。
しかもわたしは聞いてしまった。
とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。
OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。
どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。
完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。
生暖かい目で見ていただけると幸いです。
小説家になろうさんの方でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる