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233 これは意趣返し
しおりを挟む「あまり、縛り付けるとリュミエール神父が施した誓約なんて、簡単に引きちぎって何処かに行ってしまいますよ」
“誓約なんて”……いや、神父様の誓約は簡単には引きちぎれない。まだ、ルディとの誓約の方が、どうにかできる。
多分だけど、シスター・マリアって神父様のこと嫌いだったりする?
「それから、ヴァルトルクス。アンジュの見ている世界は別の世界だと思っておきなさい。私の目に、その剣は闇に落ちる寸前のようにしか見えないのですから」
第12部隊長さんの剣身の色は、夜空と明けの空の狭間のような暁の空の色には変わりはなかった。けれど、剣自体に剣身と同じ様に二色の色が混じったオーラを纏っていた。
うん。怪しさが醸されている。
「しかし、アンジュは『アカツキのミョウジョウ』と言いました。『アカツキ』は世界の夜明けを意味する言葉です。『ミョウジョウ』の意味はわかりませんが」
あっ!しまった思わず日本語で言ってしまったけれど、金星は無かったよ。だから、低い位置で輝く惑星の光は空には存在しない。暁は以前、夜明け前の空の色の話をシスター・マリアとしたときがあったから、それを覚えていたらしい。
「ですが、シュレインの剣でもなく、リュミエール神父の剣ではなく、まさか貴方の剣が先に覚醒を迎えるとは、アンジュも罪な子ですね」
……その言い方。私が悪いということになっていない?二人からの視線がブスブスと突き刺さる。
「よかったですね。姉の聖騎士になれずに、教え子の聖騎士になれて」
ん?これは神父様に言っている?確か、伴侶と成れば強制的に聖女に仕える聖騎士となるんだったよね。それが、王の役目と言わんばかりに。
婚約者であったのなら、聖騎士としての役目を負わされていたから個人間での契約はされていなかったってことだね。そして、聖女の公爵令嬢は、第1王子を選んだために、神父様が聖騎士に成ることはなかったと。
「ご自分は楽しそうに役目をこなし、私には雑務を押し付けるのですね」
なんだか副音声が聞こえてきた。所々にチクチクという言葉が入っていると思えば、神父様が一人で王都に出てきた嫌みが入っていたのだろう。
「聖女の護衛任務がしたいのであれば、この役目を終えれば、させてあげますよ。ひと月後……3週間後ですかね。パーティーが開かれる予定があるのですよ」
「かしこまりました!3週間できっちり仕上げてみせます」
そう言ってシスター・マリアは敬礼を神父様に向かって行った。……あれ?これはもしかして、ただ単にシスター・マリアは聖騎士として剣を振るいたかったと言っている?
しかし、悪魔神父はやはり悪魔だった。その護衛、私と一緒に聖女の彼女の護衛するってことだよね。そして、隙をみせて攫われようという作戦。結局シスター・マリアは聖騎士としての役目をこなすことができないということだ。
これは神父様の意趣返しだったりする?
老眼をバラされるし、公爵令嬢が好きだったのだとバラされるし、神父様の誓約にそこまで力がないと言われるし、最後にはなにやらチクチクと言われたからね。
シスター・マリアはご機嫌でこの場を去っていった。もう、背後には花畑が見えるような機嫌の良さだ。
きっと微妙に仲が悪いのは、こうやって神父様に騙されているからなのかもしれない。
そして、私の目の前には高い位置から見下ろす視線が二つ。
一つは魔王様の機嫌が悪そうな視線。もう一つはニコニコと人の良さそうな笑みを浮かべながら、目が笑っていない神父様の視線。
「アンジュ。聖剣の名前」
「私のも名付けて欲しいものですね」
だから、突然言われても無理なんだけど……。
これは先延ばしにしても、いい案件だと思う。
「考える時間がほしいなぁ」
そう言って私はへろりと笑う。考えてもわからないのだけどね。
「お腹が空いたから、アンジュは朝ごはんが食べたいなぁ」
「それなら、食事の間に考えておくように」
「お腹が満たされれば、いい名も浮かぶでしょうからね」
そう言って両腕を二人から掴まれてしまった。長身の二人から引きずられるように連れて行かれる私。
これは連行される宇宙人の姿を模してはいないだろうか。
「歩く!歩くよ!」
私は自力で歩くと言っても、耳が聞こえていないのか、叔父と甥の関係の二人は息が揃っているように進んでいる。
「アンジュ様。妖刀の名付けなど思いつきでいいのですよ」
「そうだぞ、頼光のヤローの膝切なんて、大蜘蛛を切ったからっていうだけで、蜘蛛切っていう名をつけられたんだからな」
後ろから鬼の二人が適当でいいと言うけれど、適当につけたほうが、後が恐ろしい。
なぜなら、魔王様と悪魔神父の剣だからね。
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