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221 それって、凄く怖い
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私が太陽の聖痕を発現させると、聖女の彼女は月の聖痕が受け皿のように私の魔力を使って、彼女の思う通りの現象を引き起こす。ここまでは、太陽と月の関係のようにそういうものだと受け止められる。
しかし、一番の問題が彼女は魔力の扱い方が全くできていないのだ。
彼女の護衛についていた女性の騎士が、何度か魔術の扱い方を教えたらしい。だけど、元々彼女は魔力が無いので、全く理解してくれなかったという結果に終わった。
それはそうだ。魔力を使い切れば、死ぬなんて思いもよらないだろうし、魔力をこう扱うのだと言われても魔力を感知することができなければ、意味がわからないことを言われていると思ってしまうだろう。
結局、上層部は彼女に魔力の扱い方を教えるのは断念したらしい。
「追加で報告すべきかわかりませんが、本日目覚めた、あの者が……『サイアク。セカイニコロサレルセンタクシシカノコッテイナイ』と理解不能な独り言を呟いていたのですが、これは報告は必要でしたでしょうか?」
「バッドエンドまっしぐら!」
朧の言葉を聞いて、思わず叫んでしまった。私の叫び声で一斉に視線が突き刺さる。
え?何でそんな言葉が出てくるわけ?
聖女の彼女は雨の上がった朝を迎えて、そんな独り言を言ったってことだよね。これでは解決になっていないってこと?
「アンジュ。あの者は何と言ったのですか?」
表面上はニコニコと人の良さそうな笑顔を浮かべている神父様だけど、その声は緊張感を持ったかのように硬い。
「世界に殺される選択肢しか無いって言ったみたい」
でも、殺されるとすれば、私かもしれない。常闇を強引に2回もこじ開けて、悲鳴を上げさせたし、世界のエサとして呼び込んだモノを元の世界に還してしまったからね。
それで、今回は還されないように世界の手というべき黒い巨大な手が穴から出てきて、獲物を常闇に引きずりこんだ。
うん。私は完璧に世界に喧嘩を売ったね。
「物騒なことを口にしますね。その世界という存在が、聞いているかもしれないというのに」
……それって、凄く怖い。
でもある意味、神父様が言いたいことも理解できる。
世界は飢えている。元々、この世界の力ある者に死期が迫ったとき、獲物を見つけたと言わんばかりに黒い鎖で絡め取り、いつでも常闇に、その魂と共に力を取り込もうとしている。
ならば、監視の目というモノが存在している可能性もあってもおかしくはない。
「世界が殺してくれるのであれば、それでいいじゃないか」
ルディ。口には出さないけれど、殺されるのは私の方だと思う。それに対になった聖痕の片方が失われて何も影響がないのかわからない。
恐らく月の聖痕のみ存在することがあるから、太陽の聖痕を持つものがいなくても、何も問題はないのだろう。けれど、受け皿としか思ってない月の聖痕に私の知らない能力があった場合は予想が不可能だ。
「取り敢えず、あの者には誰かしら監視の目を付けておきましょう。太陽の聖女に害をもたらすのであれば、排除しなければなりませんからね」
……神父様。太陽の聖女の為に月の聖女を捨てるのは、聖女信仰の神父として駄目だと思う。
「一つ質問なのだが」
ワイバーンを騎獣舎に戻したいけれど、ルディと神父様が邪魔で身動きが取れない第12部隊長が口を開いた。
「そもそも隔離されている聖女の者を、なぜ王族の側に置いていないのだ?」
ああ、あれね。聖女の伴侶が王になるっていう神父様の実体験。聖女至上主義国だからこそ起こる王位の略奪。
「おや?アンドレイヤー家の貴方がそれを口にするのですか?」
神父様がとても嫌味な言い方をした。
これはあれだ。白銀の王様毒殺事件。死んでいないけれど。
やりすぎた白銀の王様を誅殺しようとして、毒を盛って生きた屍化にした公爵家の者が王族に管理しろと、よく口にできたよね、と神父様は言いたいのだろう。
「シュレインはアンジュに構っているので、無理なのは見てわかりますよね。フリーデンハイドは王族の籍から抹消しています。理由は言わなくても理解できますよね」
ルディが私に構っているのは、幼い頃からなので、今更わざわざ言う事ではないし、侍従は聖女の女性の子で間違いはないけれど、父親は誰か不明だ。だから、王族ではないと言っているのだろう。
「私はあんな者を月の聖女とは認めませんよ」
神父様は絶対に口にはしないだろうけど、婚約者の公爵令嬢のことを好きだったのだろうと私は思う。
きっと比べてしまうのかもしれない。
月の聖女としての立ちふるまいや、その姿を比べて違うと思ってしまうのだろう。
「王族は月の聖女に対して、監視はしますが、管理下には置きませんよ。代わりにヴァルトルクス・アンドレイヤー、貴方があの者を管理下に置きますか?」
「断る!」
第12部隊長は神父様の言葉に考える間もなく、速攻で断った。それも眉間にシワを寄せて嫌そうな顔をしているのだった。
しかし、一番の問題が彼女は魔力の扱い方が全くできていないのだ。
彼女の護衛についていた女性の騎士が、何度か魔術の扱い方を教えたらしい。だけど、元々彼女は魔力が無いので、全く理解してくれなかったという結果に終わった。
それはそうだ。魔力を使い切れば、死ぬなんて思いもよらないだろうし、魔力をこう扱うのだと言われても魔力を感知することができなければ、意味がわからないことを言われていると思ってしまうだろう。
結局、上層部は彼女に魔力の扱い方を教えるのは断念したらしい。
「追加で報告すべきかわかりませんが、本日目覚めた、あの者が……『サイアク。セカイニコロサレルセンタクシシカノコッテイナイ』と理解不能な独り言を呟いていたのですが、これは報告は必要でしたでしょうか?」
「バッドエンドまっしぐら!」
朧の言葉を聞いて、思わず叫んでしまった。私の叫び声で一斉に視線が突き刺さる。
え?何でそんな言葉が出てくるわけ?
聖女の彼女は雨の上がった朝を迎えて、そんな独り言を言ったってことだよね。これでは解決になっていないってこと?
「アンジュ。あの者は何と言ったのですか?」
表面上はニコニコと人の良さそうな笑顔を浮かべている神父様だけど、その声は緊張感を持ったかのように硬い。
「世界に殺される選択肢しか無いって言ったみたい」
でも、殺されるとすれば、私かもしれない。常闇を強引に2回もこじ開けて、悲鳴を上げさせたし、世界のエサとして呼び込んだモノを元の世界に還してしまったからね。
それで、今回は還されないように世界の手というべき黒い巨大な手が穴から出てきて、獲物を常闇に引きずりこんだ。
うん。私は完璧に世界に喧嘩を売ったね。
「物騒なことを口にしますね。その世界という存在が、聞いているかもしれないというのに」
……それって、凄く怖い。
でもある意味、神父様が言いたいことも理解できる。
世界は飢えている。元々、この世界の力ある者に死期が迫ったとき、獲物を見つけたと言わんばかりに黒い鎖で絡め取り、いつでも常闇に、その魂と共に力を取り込もうとしている。
ならば、監視の目というモノが存在している可能性もあってもおかしくはない。
「世界が殺してくれるのであれば、それでいいじゃないか」
ルディ。口には出さないけれど、殺されるのは私の方だと思う。それに対になった聖痕の片方が失われて何も影響がないのかわからない。
恐らく月の聖痕のみ存在することがあるから、太陽の聖痕を持つものがいなくても、何も問題はないのだろう。けれど、受け皿としか思ってない月の聖痕に私の知らない能力があった場合は予想が不可能だ。
「取り敢えず、あの者には誰かしら監視の目を付けておきましょう。太陽の聖女に害をもたらすのであれば、排除しなければなりませんからね」
……神父様。太陽の聖女の為に月の聖女を捨てるのは、聖女信仰の神父として駄目だと思う。
「一つ質問なのだが」
ワイバーンを騎獣舎に戻したいけれど、ルディと神父様が邪魔で身動きが取れない第12部隊長が口を開いた。
「そもそも隔離されている聖女の者を、なぜ王族の側に置いていないのだ?」
ああ、あれね。聖女の伴侶が王になるっていう神父様の実体験。聖女至上主義国だからこそ起こる王位の略奪。
「おや?アンドレイヤー家の貴方がそれを口にするのですか?」
神父様がとても嫌味な言い方をした。
これはあれだ。白銀の王様毒殺事件。死んでいないけれど。
やりすぎた白銀の王様を誅殺しようとして、毒を盛って生きた屍化にした公爵家の者が王族に管理しろと、よく口にできたよね、と神父様は言いたいのだろう。
「シュレインはアンジュに構っているので、無理なのは見てわかりますよね。フリーデンハイドは王族の籍から抹消しています。理由は言わなくても理解できますよね」
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きっと比べてしまうのかもしれない。
月の聖女としての立ちふるまいや、その姿を比べて違うと思ってしまうのだろう。
「王族は月の聖女に対して、監視はしますが、管理下には置きませんよ。代わりにヴァルトルクス・アンドレイヤー、貴方があの者を管理下に置きますか?」
「断る!」
第12部隊長は神父様の言葉に考える間もなく、速攻で断った。それも眉間にシワを寄せて嫌そうな顔をしているのだった。
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