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218 容赦無き鉄槌

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 なんかとんでもないことを言われた。魔力を数値化する技術はまだないけれど、私よりルディの方が魔力を持っていると思う。

 それに3歳で大人と同じぐらいとかあり得ないから。
 確かに異世界に転生したとわかってハイテンションで『魔法を極めるよ!』とは思っていた。だけど、現実的に私の魔術への考え方が一般論と食い違っていて、普通の魔術を覚えるのにとても苦労した。
 恐らく神父様は普通の魔術が使えずに、おかしな魔術を使っていた私に過大評価しているのではないのだろうか。

「3歳の子供が大人と同じ魔力量を持つことなんてありえるのですか?ならば今現在の魔力量は如何程になっているのですか」

 第12部隊長も私と同じ考えを持っていた。
 そうだよね。3歳児が大人と同じってあり得ないよね。

「そうですね。アンジュ」

「なんですか?神父様」

 私の名を呼んだ神父様に向かって、返事を返すけれど、イヤイヤ感をわざと醸し出している。

「空中に盾を作って、その上に立ってください」

 そんな簡単なこと神父様でもルディでもできるのに、何故私が指名されなければ、ならないのだろう。しかし、ここで文句を垂れ流そうものなら、10倍の説教が返されるので、渋々言われたとおりにする。

「『スクード』」

 これは一般的に使われる物理防御の結界だ。普通の結界とは違い、小範囲をカバーして身を守るので、魔力の消費が抑えられる魔術だ。

「アンジュ。違いますよね。アンジュがいつも使う盾の方です」

 え?もしかして神父様には私が使っている盾の魔術と一般的に使われている盾の魔術の違いがわかっていたってこと?流石、悪魔神父。侮れない。

 私は先程出した盾の魔術を消して、私が使っている魔術を発動させる。

「『反転はんてんたて!』」

 これは属性を反転させる盾であり、魔術攻撃を受ける時にとても重宝する。例えば火の魔術を受ければ、水の魔術となって相手に跳ね返るのだ。なかなか嫌味な魔術だと思っている。
 形は六角形をしており、並べれば、無限大……とは言い過ぎだけど、大きさは自由自在に変えられる。ここも便利なところだと思っている。

 そして、六角形を二つ作り出し、その上に立った。……で?これのなんの意味があるわけ?

「この無駄に魔力を消費する魔術をどうみますか?」

「神父様、失礼だと思います。これの何処が、無駄と言っているのですか?」

 ここまで組み上げた私を褒めるならまだしも、無駄に魔力を消費する魔術ってどういうこと!
 六角形の形がいびつになれば、並べたときに全体に歪みが生まれるから、形を整えているし、私が乗っても全然揺れもしない安定性も完璧だし、透明なので相手に結界を張っているとは認識されないというところもこだわっているのに、無駄と言われるところなんて、どこもないのだけど?

「リュミエール神父。以前から思っていましたが、アンジュのこの魔術は空中の移動手段ではないのですか?」

 ファルが私の魔術は移動手段の一つに過ぎないのではと言ったけれど、確かにファルの前では空中を駆ける時にしか使っていない。

「ファルークス第13副部隊長。アンジュのこの魔術のえげつなさをわかっていないです。容赦無き鉄槌です」

 ロゼが私の魔術の非難をする。そんな、えげつないことはしていないよ。

「何をしてやられたんだ?」

「あの小さな盾は一つ一つ角度が変えられるのです。ですから、私が攻撃しても私に返されずに、別の人に跳ね返られるのです。それも、属性が変えられて予想外の攻撃を受けるのですよ」

「あれにはやられたわね。皆が一斉にアンジュちゃんに攻撃をすると、その攻撃が主力メンバーに向かって集中的に跳ね返られたのよね。結局、裏をかいたつもりが、こちら側が全滅だったのよ」

 戦いは手の内を知られれば、意味がないことは知っている。だけど、手の内を見られても、その攻撃に対処できなければ、勝てるということ。

「無駄に消費……」

 何かを考えていたらしい第12部隊長が口を開いた。

「魔力量の消費を抑える必要がないか。だから、見た目は一つの魔術に見えるが、複数の魔術を同時に展開している……先程の話だけでも15ぐらいは同時展開しているのか?」

 第12部隊長は大きな独り言のように、自分で疑問を持ちながらも、答えを手繰り寄せようとしている。
 だけど、私は15も魔術を同時展開なんてしていない。そんな面倒なことをすれば、使い勝手が悪すぎて、実用的ではないと思う。

「アンジュはそれを無意識でやっていますからね。魔力の消費なんて気にしていませんよ。そもそも、魔術というものを知らなくても世界の概念を用いれば、意識しなくても、複数の魔術の発動が可能だということを思い知らされましたね」

 神父様。だから一つの魔術に複数の魔術を入れ込むなんて、面倒なことはしていないよ。

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