聖痕の聖騎士〜溺愛?狂愛?私に結婚以外の選択肢はありますか?〜

白雲八鈴

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214 あれ?私は世界と喧嘩している?

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 翌朝、朝日が顔に当たり眩しさに目が覚めた。目を開けるといつも天蓋が映り込むのに知らない天井だったことに、一瞬困惑した。しかし、ここは第1部隊の駐屯地の宿舎。昨晩、余っているひと部屋を貸してもらったのを思い出し、寝返りを……打てない。

 おかしい。昨日は一人部屋を貸してもらって、久しぶりに一人でベッドに入って寝たはずだった。そう、私は聖女とかいうのはしたくないというのに、新しい武器が欲しいという理由でファルまで私の聖騎士に成り下がった。
 木の枝だった武器を見せあっている光景に腹が立って、昨日は夕食も食べずに借りた部屋に鍵を掛けて引きこもった。そして、そのままふて寝したのに、何故に侵入者がいるのだ。

「ちっ!鍵を掛けていたはずだけど?」

 恐らく起きているだろうと思われる隣にいる人物に言った。すると力が徐々に強められていく。

「リュミエール神父に呼ばれている間にアンジュがいなくなったと探せば、借りた部屋にいるし、夕食の時間になっても出てこないし、夕食を持って部屋に入ってみれば、寝ているし」
「侵入したの間違いだよね」
「俺もこの部屋でいいと言ったら合鍵を渡してくれた」
「ここ一人部屋だけど?」
「問題ない」

 問題あるから!宿舎のベッドって基本的にそんなに大きく無いからね。

「アンジュ、何かあったのか? 俺がいない間に何かあったのかと皆を絞め上げたが、誰も知らないと言うだけだった」

 それは皆は知らないと思う。私が不貞腐れているだけだから。そうか皆、ルディに締められたのか。

「別に何も無かったけど」
「だったら、何故一人になったのだ?あれほど皆がいる場所に居るように言っただろう」

 言われたね。まるで幼子に言い聞かせるように、しつこくルディが戻ってくるまで皆がいる食堂に居るように言われた。

「はぁ。なんか腹が立ったから。私は別に聖女をしたいわけじゃないのに、聖騎士が増えていく状況。私は聖女だって知られたくないのに、現実は……世界は獲物を狩るための武器まで与えたこの状況に嫌気が差す」

 そう世界は己の獲物を得る為に、武器を与えたのだ。聖女の聖痕の力に呼応するように力を得る武器。となれば、その武器を使うには私は太陽ソールの聖痕を頭上に掲げなければならない。

 なんという嫌がらせ。

 世界はきっと私が太陽ソールの聖痕を表に出さないことに苛立っているのだろう。この強制的に私に聖痕を使わそうとする仕様に世界の苛立ちが垣間見える。

 これはもしかして私の意地が勝つか、世界の嫌がらせが勝つかの問題か?いや、私も世界に対して、常闇を広げるという嫌がらせをしたのだから、これは仕返しなのかもしれない。

 ……もしかして、私は世界と喧嘩している状況?そう考えると私が悪い気もする。けれど、聖女として堂々と立つのは嫌だ。

「アンジュ。確かにアンジュが太陽ソールの聖女と知る者は増えているが、ヴァルトルクス第12部隊長を除けば、全てキルクス出身者だ。そのヴァルトルクス第12部隊長もアンドレイヤー公爵家の者だ。こちら側に引き込んでおいた方がいい。誓約で縛られてはいるが、ヴァルトルクスは現当主と仲が悪い。アンドレイヤー公爵にアンジュの存在が知られることはない」

 確かにキルクス出身者だけれども、全ての人が私に優しかったわけじゃない。私に嫌がらをしてきた者の方が多かったのも事実。

 それに第12部隊長の聖痕の力を見た感想からいけば、全てを壊したいほどの衝動が起こる何かがあったということは想像するのは容易だ。聖騎士に成るまでに何かがあったのだろうと。

「キルクス出身者は基本的にリュミエール神父に実直だ。逆らう愚かさを叩き込まれているからな」

 確かに散歩をしているとニコニコと胡散臭い笑みを浮かべた神父様が目の前に現れて、神父様の部屋に連行されたことは何度かあったし、訓練をサボっていると背後から攻撃されたり、教会から逃げ出そうと試みてやっと誰にも発見されずに街を出られたと思えば、首根っこを掴まれて連行されたりとか色々あったね。

「あんな風にリュミエール神父に好き勝手するのはアンジュぐらいだ」

 私! そこまで私は好き勝手していないよ。

「そんなことはないよ」

 ここはきちんと否定しておかないといけない。

「リュミエール神父からお菓子の袋を差し出されて、素直に受け取るのはアンジュぐらいだ。普通は怖くて受け取れないとロゼもリザネイエも言っていた」
「神父様は怖いけど、お菓子に罪はないよ」

 お菓子はお菓子。質問に答えるだけで、タダでお菓子がもらえるのなら、手を出すよね。

「初めてリュミエール神父からもらったお菓子をアンジュから奪って食べた奴らが、死んだのを忘れたのか?」

 忘れていないけど、ルディがそれを覚えていることに驚くよ。

「あれのカラクリはわかったから、別に怖がることもないし、疑心暗鬼に囚われることもないよ」
「あの頃からだ。俺のアンジュを餌付けしやがって……」

 ルディ、ちょっとギリギリと体が締め付けられているのだけど。それから餌付けじゃなくて、ご褒美だからね。

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