聖痕の聖騎士〜溺愛?狂愛?私に結婚以外の選択肢はありますか?〜

白雲八鈴

文字の大きさ
上 下
211 / 368

211 木の枝は所詮木だ

しおりを挟む
「あの……その剣が本当にこの木の枝なのですか?」

 ファルが持っているただの木の枝と相対する剣と見比べて聞いている。それは疑問にも思うよね。

「そうですよ。ただ力が不安定で下手に使うと暴走しそうになるので、普段には使えませんね」

 ああ、それで二人して危険だと言っていたのか。剣の力が暴走するということね。
突然まばゆい光が視界の端に映り込み、光の元をたどれば、そこには第12部隊長さんがいた。

「こういうことか」

 そう言っている第12部隊長さんの手には、夜空と明けの空の狭間のような暁の空の色の剣身を手にしていた。掲げるように持たれた剣は光を受けると微妙に赤く染まっている。不思議な剣だ。

 私は心なしか誇らしげな顔をしている第12部隊長さんの元に浮遊しながら向う。

「ヴァルト様。この度も来ていただいてありがとうございました。第12部隊の方もまだ落ち着いていないと思いますが、とても助かりました」

 そう言ってニコリと笑いかけます。すると突然ピキリと第12部隊長さんが固まってしまいました。

「い……いや、大してお役に立てず、すまなかった」

 なんとか振り絞ったような声で謝って来たけれど、そもそも他の部隊長がここにいる時点でおかしいのだ。第12部隊の被害は第9部隊や第4部隊ほどでもないけれど、私が吹き飛ばした所為でけが人が出たことは本当のことだ。

私がフォローの言葉を言おうとすれば、別の声が被さってきた。

「そうですね。雪女で手間取っているようでは駄目ですよね」

 茨木がグサッとくる言葉を言っている。確かに見た目は美人な女性と幼女だったから戸惑うかもしれないよね。

「それは私も同じ意見ですね。聖騎士団の弱体化は重要視すべきです。フリーデンハイドに言って一度、絞め上げたほうがいいですね」

 なんかついでに侍従シャンベランも絞められそうだけど、一応外部の人の扱いの神父様がそこまで口出し?手出し?してもいいのだろうか。

「そういうことは、王都に戻ってからでいいんじゃない?それでそろそろ私は倒れていいかな?」

 難しいことはお偉方で話し合って欲しい。それに、私は第1部隊の駐屯地に戻るまでに“天使の聖痕”を隠さなければならない……あれ?今思ったら、ここに第1部隊長がいなかった?
 ふと第1部隊長に視線を向けると、木の枝をガン見していた。まぁ、あとは神父様に任せておけば、説教と共に口止めしてくれるだろう。

 私は頭の上の光輝く輪を手にとって右目の虹彩の中に戻す。……あれ?あまり魔力が減っていない。

「あ……今は謹慎しているから、力を使っていないのか」

 私は意識を失うことなく宙に立っていた。やっぱり月の聖女が問題か。

「アンジュ、大丈夫なのか?」

 ルディが抱き寄せて聞いてきた。

「多分、彼女が何もしようとしていなかったのかな?私の魔力は私が使った分しか減っていない」

 しかし、抜身の剣を片手に持ったまま私を抱き寄せないで欲しい。その剣、魔剣と言っていいほど、力が溢れているのだけど、これ普通に持っていて大丈夫なのかな?
 あ……これは

「ファル様。まだ大木の残骸がその辺に散らばっているよね。それで鞘を3つ作ってくれない?」

 大木自体は常闇に呑まれしまったけれど、所々に枝の残骸が残っているので、鞘ぐらい作れると思う。

「アンジュ。簡単に言ってくれるが、直ぐにできるようなものじゃない。っていうか。何で俺の枝は何も変化しないんだ?ヴァルトルクス第12部隊長、どうやって剣に変化したんだ?」

 ファルは簡単にできないと言っているけれど、恐らく一振りごとに微妙に調整が必要なのだろう。ルディの剣と神父様の剣は微妙に形と大きさが違う。これは各自の一番使いやすい形になっているのかもしれない。

 それから、先程からファルが唸っていると思ったら、木の枝を剣にできないか頑張っていたようだ。しかし、木は所詮木だ。それが剣になるなんて非現実的なことを、するなんて無駄な努力だと思う。

「ファル様。木は所詮木ですよ。ただ、世界の力と神の力を得て成長した木というだけです。ファル様の手にあるのはなんですか?よく見てください」

「木の枝だ。見ればわかるし、俺の聖痕の力で創られて、神の力を栄養にしたというのも理解している。だが……」

 ファルはルディの剣を指して言った。

「神の力が宿った剣って欲しいじゃないか!」

 ああ、なんとか心をくすぐられるという物ってことか。私は諦めきれないでいるファルにトドメの一言を言う。

「ファル様。よく言うではないですか。剣は斬るものを選びませんが、持ち手を選ぶと」
「ぐふっ!」

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

今夜で忘れる。

豆狸
恋愛
「……今夜で忘れます」 そう言って、私はジョアキン殿下を見つめました。 黄金の髪に緑色の瞳、鼻筋の通った端正な顔を持つ、我がソアレス王国の第二王子。大陸最大の図書館がそびえる学術都市として名高いソアレスの王都にある大学を卒業するまでは、侯爵令嬢の私の婚約者だった方です。 今はお互いに別の方と婚約しています。 「忘れると誓います。ですから、幼いころからの想いに決着をつけるため、どうか私にジョアキン殿下との一夜をくださいませ」 なろう様でも公開中です。

【完結】何回も告白されて断っていますが、(周りが応援?) 私婚約者がいますの。

BBやっこ
恋愛
ある日、学園のカフェでのんびりお茶と本を読みながら過ごしていると。 男性が近づいてきました。突然、私にプロポーズしてくる知らない男。 いえ、知った顔ではありました。学園の制服を着ています。 私はドレスですが、同級生の平民でした。 困ります。

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

出生の秘密は墓場まで

しゃーりん
恋愛
20歳で公爵になったエスメラルダには13歳離れた弟ザフィーロがいる。 だが実はザフィーロはエスメラルダが産んだ子。この事実を知っている者は墓場まで口を噤むことになっている。 ザフィーロに跡を継がせるつもりだったが、特殊な性癖があるのではないかという恐れから、もう一人子供を産むためにエスメラルダは25歳で結婚する。 3年後、出産したばかりのエスメラルダに自分の出生についてザフィーロが確認するというお話です。

処理中です...