聖痕の聖騎士〜溺愛?狂愛?私に結婚以外の選択肢はありますか?〜

白雲八鈴

文字の大きさ
上 下
202 / 368

202 何を心配しているのだろう

しおりを挟む
 私達は狼型の騎獣に乗って移動している。先頭は頬を赤く腫らした第1部隊長だ。あの後答えられず、思いっきり神父様に殴られていた。
 その第1部隊長に案内される形で移動している。しかし、妹よアレのどこが良かったのか未だにお姉ちゃんは理解できない。

 第1部隊長の後ろには双子が続き、その後にルディに抱えられた私が騎獣に乗っており、並走するようにファルがいる。その後ろには第12部隊長さんとリザ姉とロゼがいる。そして、鬼たちの二人はここには居ない。

「ところどころによくわからない生き物の死骸があるな」

 ルディが雪の中にあるモノに視線を向けて言っているけれど、私には黒い鎖にぐるぐる巻にされている物体としかわからないので、ルディの言葉に答えることはできない。

「アンジュ。シュテンとイバラキを先行させているが大丈夫なのか?」

 人の声よりも雨の音の方が大きく聞こえる状況でファルは『響声レトノ』を使って話しかけてきた。

 そう、酒吞と茨木には先に行って、今回の討伐対象である龍神と玄武の場所を探してもらっている。

 彼らも私と同じく集団行動は無理な鬼たちだ。だから、先に行ってもらっているのだけど、どうやら、その辺りにいる異形の露払いもしてくれているらしい。私にはわからないけれどね。

「ファル様。大丈夫だから。酒吞は退屈しなければいいと言っていたし」

「いや、その大丈夫じゃない。二人だけ先に行かせても問題がないのかという意味だ」

 ファルは何を心配しているのだろう。二人は言うなれば、将校オフィシエと遜色ないほどの力を持っている。いや、まだ私は彼らの本気を見ていないのでそれ以上だろう。

「アンジュ。ファルークスは誓約で縛らない者たちを自由にさせていいのかと言っているのですよ」

 ファルの反対側から神父様の声が聞こえてきた。いい笑顔で第1部隊長を殴った神父様が。そして何故か私はルディにフードを深くかぶらされ、神父様の方を見ないようにされていた。

 誓約ね。多分彼らをそんな物で縛ろうものなら、その信頼関係は破綻すると思う。彼らは私と一緒だ。何もかも自由なのだ。だから、今の関係性が一番いい。

「神父様。私でわかっていると思ったのですけど?」

 すると神父様はクスクスと笑い始めた。そして、私のお腹がギリギリと締め付けられていく。
 ルディ。ただ神父様と話しているだけなのに絞め殺さないで欲しい。

「だそうですよ。ファルークス」

「はぁ。あの二人が俺には未だによくわからない」

 ファルが項垂れながら言っている。一応上官として彼らを管理する側だから、彼らの扱いに困っているのかもしれない。だけど、比較対象が側にいる。王家で管理されている黒狐の者たちだ。
 彼らに掛けられた誓約は歪みに歪み、その呪は彼ら自身を苦しめている。彼らの自由への渇望と王家への忠誠。あの偽物の王様の本物の王様への異常な忠誠もそう在らなければならないと思わされている可能性がる。そう在らなければ、呪いのように変質した血の海に苦しめられると。

 だから、私は酒吞も茨木も朧にも基本的に自由に過ごしてもらっている。特に私からは何も言わない。

「ファル様。深く考えすぎ。それからルディ、力を緩めて欲しい」

 まぁ、遠くの方で爆音が聞こえているけど、気にするほどのことじゃない。
 そして、目的地に近づいてきたからか、前方にいる第1部隊長とヒューとアストが魔術を使い出した。雨で視界が悪いのと三人の影で何が起こっているのか私には確認できない。

「ヴァルトルクス第12部隊長。リザネイエ、ロゼ。散開して来る敵を始末しなさい」

 神父様の命令で、後ろにいた三人が、騎獣を促して左右に別れていった。しかし、私達の進む速度は変わらない。
 私達のすべきことは雨を一刻も早く止ませること。騎獣だからこの様に進めているけれど、人はこの雪と雨の混じった地面を思うように進めないだろう。そして、その雪混じりの水が街を襲わないようにしなければならない。

『キャハハハハ』

 突然、笑い声が聞こえてきた。それも甲高い子供のような声だ。

『当たれ。当たれ。当たれ。アハハハハ』

『ほら、ほら、逃げ惑え』

 ん?何が起こっているのだろう。前方三人が攻撃をしているから、攻撃してくるモノを倒しているものと思っていたけど、何か違う?
 どちらかと言えば、狩られている側が私達のような言葉だ。

「貴方達は見た目で敵を判断するのですか?女子供の姿をしていようと、そのモノたちは異形ですよ!」

 神父様から怒声が響き渡った。
 黒狐たちを間近で見ている神父様からの言葉だ。異形の姿が本来の姿では無いことを理解しているのだった。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

今夜で忘れる。

豆狸
恋愛
「……今夜で忘れます」 そう言って、私はジョアキン殿下を見つめました。 黄金の髪に緑色の瞳、鼻筋の通った端正な顔を持つ、我がソアレス王国の第二王子。大陸最大の図書館がそびえる学術都市として名高いソアレスの王都にある大学を卒業するまでは、侯爵令嬢の私の婚約者だった方です。 今はお互いに別の方と婚約しています。 「忘れると誓います。ですから、幼いころからの想いに決着をつけるため、どうか私にジョアキン殿下との一夜をくださいませ」 なろう様でも公開中です。

【完結】何回も告白されて断っていますが、(周りが応援?) 私婚約者がいますの。

BBやっこ
恋愛
ある日、学園のカフェでのんびりお茶と本を読みながら過ごしていると。 男性が近づいてきました。突然、私にプロポーズしてくる知らない男。 いえ、知った顔ではありました。学園の制服を着ています。 私はドレスですが、同級生の平民でした。 困ります。

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

出生の秘密は墓場まで

しゃーりん
恋愛
20歳で公爵になったエスメラルダには13歳離れた弟ザフィーロがいる。 だが実はザフィーロはエスメラルダが産んだ子。この事実を知っている者は墓場まで口を噤むことになっている。 ザフィーロに跡を継がせるつもりだったが、特殊な性癖があるのではないかという恐れから、もう一人子供を産むためにエスメラルダは25歳で結婚する。 3年後、出産したばかりのエスメラルダに自分の出生についてザフィーロが確認するというお話です。

勇者は獲物を逃がさない

中田カナ
恋愛
王宮職員寮の雑用係の娘は、なぜか宰相閣下から魔王討伐に出た勇者パーティのサポート役に指名された。 ※ 小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

処理中です...