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200 ならば私は聖騎士とは何と聞きたい
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私はもう一本矢を番える。属性で言えば闇。
“遠見”の魔術で捉えた空から落ちていく……丸い?まん丸な物体に羽が付いたがモノに照準を合わす。
全然何かさっぱり分からないけれど、恐らく雪を降らせる上昇気流を引き起こしていた存在だろう。
「闇の矢よ。天風に乗りて標的に向かい、その力を喰らい尽くせ《生者必滅!》」
闇の矢を放ってしまってから思ってしまった。魔物はこれで命の力を奪って倒せたけど、妖怪に効くのだろうか。しかし、今の雷嵐とそこに投じられた水蒸気爆発で地面に落ちて行っているのだから、時間稼ぎはできただろう。
そして、黒き矢が丸い物体を貫いて、取り込むように巻き付いた。普通であれば徐々に生命力を奪いながら、締め付けていく。ゴブリンであれば、捉えられた瞬間に絶命していたけれど、あの丸い物体はどうだろう?
「あ、鎖に捕らえられた」
「アンジュ!行動を起こす前に何をするかぐらい言え!」
黒い鎖にも絡みつかれたのを確認したら、足元からファルの怒声が聞こえてきた。下に視線を向けると、雪まみれになったファルが四つん這いになっていた。
「あれぐらいの衝撃波で倒れるなど情けないですね。アンジュがおかしな動きをした時点で構えておきなさい」
神父様。私はおかしな動きなんてしていないからね。ただ弓矢モドキを放っただけ!
私は情けないと言いながら周りに視線をめぐらしている神父様を睨みつけた。
「うー。この感覚は久しぶりだ」
「本当だねヒューゲル。昔はアンジュが手を上げると速攻二人で逃げていたのにね」
ヒューとアストはそう言いながら雪を払いながら立ち上がっている。
あ、いつも二人は離れたところで見ているなと思っていたら、私は距離を取られていたらしい。
「相変わらずエゲツない魔術だよね」
「あらあら、建物の雪が吹き飛んで、久しぶりの青空だわ」
第12部隊長とリザ姉はロゼの結界の中で青い空を見上げている。しかし、ロゼ。エゲツないってそこまで酷い魔術じゃないけど?
「青空もこの一瞬だけでしょうね。あちらから、黒い雨雲が湧いて来ていますね」
「この雪に雨が降るなんてやばくねぇか?」
茨木が酒吞を盾にしてその脇から丸いモノが落ちていった方向を見ている。超上空で冷やされず雪にならなくなった水分は、王都のような大雨を降らすことになるだろう。
ただ、酒吞が懸念しているように、まだ本格的な冬になっていない時期だ。この雪に雨が降ってしまえば、雪と雨が混じり排水が追いつかず、洪水を引き起こす可能性があるだろう。
どちらにしろ時間がないのだから、このまま現地に行けばいい。
「それでアンジュは何を勝手なことをしたのだ?」
ええ、聞こえていましたよ。何をしたって聞かれこと。だって、あのとき答えると絶対に駄目だって言われるのをわかっていたし、終わってから怒られればいいので……はい、ごめんなさい。
魔王様が降臨されたルディが私を見下ろしていた。
「雪が邪魔だなぁと」
私はへらりと笑いながら答える。しかし、私を見下ろす黒い瞳に変化は見られない。あ、うん。説明不足だよね。
「今回の異形は龍神と水神はどちらも水を扱うもの。私は始めは雪を扱う異形だと思っていたのだけど、ここには雪が降って王都には雨が降るのなら、ここには雨を雪に変える別の存在がいるのだろうと思ったわけ、それを雪雲と一緒に吹き飛ばしたの」
私は悪い事はしていないと、胸を張って答える。
「だったら、何故行動を起こす前に説明をしない」
「ルディは直に駄目っていうから、この雪の量は流石に死人が出ると思ったから、早めに対処した方が良いよねという判断だね」
「アーンージュー!前から思っていたが集団組織を何だと思っているんだ?」
今度はファルも私を見下ろしてきた。
集団組織ね。ふん!そんなものなんの意味がある。私を縛り付ける組織に私は何も意味を見いだせない。
そして、本当に苦しんでいるのはこの地に住まう者たちだ。優先度は組織ではなくここに住まう者たちの命。ここに来たときから不可解に思っていた。なぜ、現状では足手まといでしかない見習い騎士たちが駐屯地の雪かきをしているのだろうと。なぜ、この街の除雪をしていないのだろうと。
我々が守るべきものたちは何なのか。組織なのか。民なのか。
「集団組織が何?一番困っているのは誰?一番助けを求めているのは誰?なぜ、聖騎士は自分たちの場所を守ることに必死で街を守ろうとしていないの?ここに来て一番に優先させることは聖騎士である在り方というのなら、聖騎士とは何と私は問いたい」
私は二人を睨みつけるように言い切った。半分関係がない第1部隊の事も混じっていたけれどね。
“遠見”の魔術で捉えた空から落ちていく……丸い?まん丸な物体に羽が付いたがモノに照準を合わす。
全然何かさっぱり分からないけれど、恐らく雪を降らせる上昇気流を引き起こしていた存在だろう。
「闇の矢よ。天風に乗りて標的に向かい、その力を喰らい尽くせ《生者必滅!》」
闇の矢を放ってしまってから思ってしまった。魔物はこれで命の力を奪って倒せたけど、妖怪に効くのだろうか。しかし、今の雷嵐とそこに投じられた水蒸気爆発で地面に落ちて行っているのだから、時間稼ぎはできただろう。
そして、黒き矢が丸い物体を貫いて、取り込むように巻き付いた。普通であれば徐々に生命力を奪いながら、締め付けていく。ゴブリンであれば、捉えられた瞬間に絶命していたけれど、あの丸い物体はどうだろう?
「あ、鎖に捕らえられた」
「アンジュ!行動を起こす前に何をするかぐらい言え!」
黒い鎖にも絡みつかれたのを確認したら、足元からファルの怒声が聞こえてきた。下に視線を向けると、雪まみれになったファルが四つん這いになっていた。
「あれぐらいの衝撃波で倒れるなど情けないですね。アンジュがおかしな動きをした時点で構えておきなさい」
神父様。私はおかしな動きなんてしていないからね。ただ弓矢モドキを放っただけ!
私は情けないと言いながら周りに視線をめぐらしている神父様を睨みつけた。
「うー。この感覚は久しぶりだ」
「本当だねヒューゲル。昔はアンジュが手を上げると速攻二人で逃げていたのにね」
ヒューとアストはそう言いながら雪を払いながら立ち上がっている。
あ、いつも二人は離れたところで見ているなと思っていたら、私は距離を取られていたらしい。
「相変わらずエゲツない魔術だよね」
「あらあら、建物の雪が吹き飛んで、久しぶりの青空だわ」
第12部隊長とリザ姉はロゼの結界の中で青い空を見上げている。しかし、ロゼ。エゲツないってそこまで酷い魔術じゃないけど?
「青空もこの一瞬だけでしょうね。あちらから、黒い雨雲が湧いて来ていますね」
「この雪に雨が降るなんてやばくねぇか?」
茨木が酒吞を盾にしてその脇から丸いモノが落ちていった方向を見ている。超上空で冷やされず雪にならなくなった水分は、王都のような大雨を降らすことになるだろう。
ただ、酒吞が懸念しているように、まだ本格的な冬になっていない時期だ。この雪に雨が降ってしまえば、雪と雨が混じり排水が追いつかず、洪水を引き起こす可能性があるだろう。
どちらにしろ時間がないのだから、このまま現地に行けばいい。
「それでアンジュは何を勝手なことをしたのだ?」
ええ、聞こえていましたよ。何をしたって聞かれこと。だって、あのとき答えると絶対に駄目だって言われるのをわかっていたし、終わってから怒られればいいので……はい、ごめんなさい。
魔王様が降臨されたルディが私を見下ろしていた。
「雪が邪魔だなぁと」
私はへらりと笑いながら答える。しかし、私を見下ろす黒い瞳に変化は見られない。あ、うん。説明不足だよね。
「今回の異形は龍神と水神はどちらも水を扱うもの。私は始めは雪を扱う異形だと思っていたのだけど、ここには雪が降って王都には雨が降るのなら、ここには雨を雪に変える別の存在がいるのだろうと思ったわけ、それを雪雲と一緒に吹き飛ばしたの」
私は悪い事はしていないと、胸を張って答える。
「だったら、何故行動を起こす前に説明をしない」
「ルディは直に駄目っていうから、この雪の量は流石に死人が出ると思ったから、早めに対処した方が良いよねという判断だね」
「アーンージュー!前から思っていたが集団組織を何だと思っているんだ?」
今度はファルも私を見下ろしてきた。
集団組織ね。ふん!そんなものなんの意味がある。私を縛り付ける組織に私は何も意味を見いだせない。
そして、本当に苦しんでいるのはこの地に住まう者たちだ。優先度は組織ではなくここに住まう者たちの命。ここに来たときから不可解に思っていた。なぜ、現状では足手まといでしかない見習い騎士たちが駐屯地の雪かきをしているのだろうと。なぜ、この街の除雪をしていないのだろうと。
我々が守るべきものたちは何なのか。組織なのか。民なのか。
「集団組織が何?一番困っているのは誰?一番助けを求めているのは誰?なぜ、聖騎士は自分たちの場所を守ることに必死で街を守ろうとしていないの?ここに来て一番に優先させることは聖騎士である在り方というのなら、聖騎士とは何と私は問いたい」
私は二人を睨みつけるように言い切った。半分関係がない第1部隊の事も混じっていたけれどね。
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