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192 もうこれって詰んでない?
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騎士の四人が翌日行って、戻ってきたのは3日後だった。早いね。流石仕事ができる4人だと心の中で称賛していると、私が来てから初めて火が入った暖炉の前で3人が震えている。3人を背にしたミレーのみが平気な顔をして報告をしてくれた。
「無理ですわ。探索が出来る状況ではなくなっています」
どういうことだろう?
「視界不良ですわ。直ぐ目の前でさえも見えず、我々はロープで結い、互いの位置を確認しながら行動をしていましたが、それすらも限界を感じました」
ホワイトアウトか。一寸先も前方が見えず、互いをロープで繋いで行動していたけれど、一人が動かなくなればそれでアウト。他の3人が道連れになってしまうと。
「ただ丸一日の探索でわかったことは、雪が重かったのですの」
雪が重かった?
「この国の雪はサラサラとした軽い雪ですわ。ですが、帝国に降る雪のように水分を多く含んだ雪だったのです。重く身体に纏わりつく体温を奪う雪だったのですわ」
ミレーの言葉からその雪はこの国に降る普通の雪ではないことがわかった。だけど、これだけでは何もわからないのと同じ。
「あ、あと僕が吹雪の合間に見たモノが白くて胴が長い犬ほどの大きさの獣だった。それがいきなり魔術を放ってきたんだよ。でもアレは雪を操っているものじゃないと思うよ」
シャールが白い獣を見たらしい。けれど、胴が長い犬ほどの大きさ?ダックスフンド?いや、ダックスフンドは魔術を放ったりはしない。
「かまいたちか」
「それ一匹だけでした?」
酒吞がその獣の正体を予想してきて、茨木がその数に疑問を呈してきた。
「うーん?僕が見つけたのは一匹だったけれど、雪に紛れていたらわからないね」
確かに白い獣が雪の中で擬態していれば、わからない。
「シュテン。そのカマイタチというのは何だ?」
ファルが酒吞に“かまいたち”というのは何かと聞いてきた。異形のことは異形に聞くのが一番だということなのだろう。
「ただの雑魚妖怪だ」
……説明が終わってしまった。酒吞に説明を求めたファルが悪い。こういうことは茨木に意見を求めるべきだ。
すると茨木がクスクスと笑い始めた。
「確かに雑魚妖怪ですが、いたずら好きのイタチですよ。切り傷のような風爪を扱うモノで、大抵は三匹で行動しているのです。それが一匹だけというのは少々疑問に思ったのですよ」
「ちょっとそれはおかしいっす!あの攻撃は切り傷ぐらいで済むようなものじゃなかったっす!」
テオは茨木を言葉を否定してきた。恐らくこの4人が分が悪いと感じて逃げ帰ってくる程だったのだろう。普通に戦うのであれば戦えるけれど、視界不良の吹雪の中で戦えば、同士討ちの可能性が出てくる。
ならば撤退の一択しかないとミレーは判断して戻ってきたのだろう。
「これは何も分からなかったというのと同じだよな」
ファルは天井を仰ぎ見た。お手上げだという感じなのだろう。
でも少しはわかった。一つは天候を操る存在がいること。
この国は海から離れているため、湿気の多い雪が降ることはないということ。山脈を超えてキルクスには雪が降らず、からっ風が吹くことからもわかる。
そして一匹だけのかまいたち。これが騎士たちを悩ませていたどこからともなく攻撃されるという原因の存在ということ。
ここで問題は水分の多い雪。行動を不能にさせる程のホワイトアウト。
この異常気象の原因を排除することが課題ということだよね。
ん?湿気った雪?今日は大雨……。
「ねぇ。キルクスは冬はそんなに雨は降らないのだけど、王都は今日のような大雨って降るの?」
私は振り返ってルディに聞いてみる。するとルディは胡散臭い笑顔を浮かべて教えてくれた。
「そうですね。降らないことはありませんが、4日も続くことは無かったですね」
そう王様がこの聖騎士団の本部に来てからの4日間の間、絶え間なく雨が降り続いているのだ。初日はシトシトという感じだったのに、今日は土砂降りと言っていい雨だ。
「なんだ?アンジュもしかしてこの雨もおかしいと言っているのか?」
ファルが聞いてきたけど、私は別のことで頭がいっぱいだ。雨、こんなに雨を降らし続ける存在が普通の妖怪であるはずはない。
雨。雨……水……青龍……。
私は左手を前に突き出して喚び出した。
「青龍 青嵐、黒龍 月影、出てきて」
『青龍 青嵐。御前に参上仕りました』
『黒龍 月影。御前に参上仕りました』
青い蛇と黒い蛇が呪いの指輪から出てきた。彼らならわかるだろうか。
「この雨は何?」
『玄武の力を感じまする』
『龗神の力を感じまする』
もうこれって詰んでない?神獣と神がタッグを組んているって言われちゃったよ!
「無理ですわ。探索が出来る状況ではなくなっています」
どういうことだろう?
「視界不良ですわ。直ぐ目の前でさえも見えず、我々はロープで結い、互いの位置を確認しながら行動をしていましたが、それすらも限界を感じました」
ホワイトアウトか。一寸先も前方が見えず、互いをロープで繋いで行動していたけれど、一人が動かなくなればそれでアウト。他の3人が道連れになってしまうと。
「ただ丸一日の探索でわかったことは、雪が重かったのですの」
雪が重かった?
「この国の雪はサラサラとした軽い雪ですわ。ですが、帝国に降る雪のように水分を多く含んだ雪だったのです。重く身体に纏わりつく体温を奪う雪だったのですわ」
ミレーの言葉からその雪はこの国に降る普通の雪ではないことがわかった。だけど、これだけでは何もわからないのと同じ。
「あ、あと僕が吹雪の合間に見たモノが白くて胴が長い犬ほどの大きさの獣だった。それがいきなり魔術を放ってきたんだよ。でもアレは雪を操っているものじゃないと思うよ」
シャールが白い獣を見たらしい。けれど、胴が長い犬ほどの大きさ?ダックスフンド?いや、ダックスフンドは魔術を放ったりはしない。
「かまいたちか」
「それ一匹だけでした?」
酒吞がその獣の正体を予想してきて、茨木がその数に疑問を呈してきた。
「うーん?僕が見つけたのは一匹だったけれど、雪に紛れていたらわからないね」
確かに白い獣が雪の中で擬態していれば、わからない。
「シュテン。そのカマイタチというのは何だ?」
ファルが酒吞に“かまいたち”というのは何かと聞いてきた。異形のことは異形に聞くのが一番だということなのだろう。
「ただの雑魚妖怪だ」
……説明が終わってしまった。酒吞に説明を求めたファルが悪い。こういうことは茨木に意見を求めるべきだ。
すると茨木がクスクスと笑い始めた。
「確かに雑魚妖怪ですが、いたずら好きのイタチですよ。切り傷のような風爪を扱うモノで、大抵は三匹で行動しているのです。それが一匹だけというのは少々疑問に思ったのですよ」
「ちょっとそれはおかしいっす!あの攻撃は切り傷ぐらいで済むようなものじゃなかったっす!」
テオは茨木を言葉を否定してきた。恐らくこの4人が分が悪いと感じて逃げ帰ってくる程だったのだろう。普通に戦うのであれば戦えるけれど、視界不良の吹雪の中で戦えば、同士討ちの可能性が出てくる。
ならば撤退の一択しかないとミレーは判断して戻ってきたのだろう。
「これは何も分からなかったというのと同じだよな」
ファルは天井を仰ぎ見た。お手上げだという感じなのだろう。
でも少しはわかった。一つは天候を操る存在がいること。
この国は海から離れているため、湿気の多い雪が降ることはないということ。山脈を超えてキルクスには雪が降らず、からっ風が吹くことからもわかる。
そして一匹だけのかまいたち。これが騎士たちを悩ませていたどこからともなく攻撃されるという原因の存在ということ。
ここで問題は水分の多い雪。行動を不能にさせる程のホワイトアウト。
この異常気象の原因を排除することが課題ということだよね。
ん?湿気った雪?今日は大雨……。
「ねぇ。キルクスは冬はそんなに雨は降らないのだけど、王都は今日のような大雨って降るの?」
私は振り返ってルディに聞いてみる。するとルディは胡散臭い笑顔を浮かべて教えてくれた。
「そうですね。降らないことはありませんが、4日も続くことは無かったですね」
そう王様がこの聖騎士団の本部に来てからの4日間の間、絶え間なく雨が降り続いているのだ。初日はシトシトという感じだったのに、今日は土砂降りと言っていい雨だ。
「なんだ?アンジュもしかしてこの雨もおかしいと言っているのか?」
ファルが聞いてきたけど、私は別のことで頭がいっぱいだ。雨、こんなに雨を降らし続ける存在が普通の妖怪であるはずはない。
雨。雨……水……青龍……。
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青い蛇と黒い蛇が呪いの指輪から出てきた。彼らならわかるだろうか。
「この雨は何?」
『玄武の力を感じまする』
『龗神の力を感じまする』
もうこれって詰んでない?神獣と神がタッグを組んているって言われちゃったよ!
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