上 下
186 / 354

186 雨の日の朝

しおりを挟む
 ふと、意識が浮上した。シトシトという心地よい雨の音が耳に響いてくる。

 ああ、今日は雨が降っているのか。雨の日はとてもいい。あのウキョー鳥が鳴かないのだ。

 昨日は結局あれから色々あり、夜中に王都に戻ってきて、疲れているので今日は雨が降っていた良かった。ウキョー鳥に襲撃されるような起こし方で目覚めたくなかったから。雨の日は朝の訓練が免除されるらしく、他の部隊の人たちも雨の日はゆっくりできると、ロゼが言っていた。

 そう言えば、あれからロゼに文句を言われた。お腹にアザが出来てしまったと。確かに思いっきり殴ったのでアザぐらいはできるかもしれない。そんなことで文句を言われても、それは避けられなかったロゼが悪いと思う。
 しかし、リザ姉にワイバーンで飛んで帰るのに、お腹が痛いと集中できないから治して欲しいと言われたので、薄めれば回復薬を渡したら、ロゼは何も思わずに口に含む姿に、リザ姉は『あっ!』と声を上げ、第12部隊長さんは顔をしかめていた。恐らくルディに脅される第1部隊長さんの現場を見たのだろう。二人して若干顔色が悪かったのだけど、何も知らないロゼに言わなかったのは賢明だと思う。


 はぁ、強制的に起こされる朝より、やっぱり自然に覚醒する朝の方がいい。

「あのウキョー鳥絞め殺す」

「アンジュ。魔鳥が鳴いていても鳴いていなくても、同じことを言っているな」

 ルディがクスクスと笑いながら、額に口づけをしてきた。いや、あれは鳴いていたら苛つくし、鳴いていないと鳴いている日を思い出して苛つく……結局私は苛ついている?!

「おはよう。アンジュ」

「おはよう。ルディ」

 おはようと言いながらもギュウギュウに締め付けてくる。これは私がウキョー鳥に対して絞め殺すと言っているから私もシメられているのだろうか。

 ぐっ!肺から空気が抜けていく……。

「ルディ。苦しい」

 日に日に力が強くなっているのは気の所為ではないと思う。
 私が、身を捩って抵抗すると、力を緩めてくれた。これは私がウキョー鳥を絞め殺すのが先か、私がルディに絞め殺されるのか先かの話になるのだろうか。

「アンジュ。今日は部屋から出なくていいからな」

 え?ぽつんと一軒家すら行かなくていいと?

「何故に?」

「午前中に団長への報告と昼からは陛下が詳細を聞きに来られるからだ」

 あれ?一昨日も聖騎士団にあの白銀の王様って来ていたよね。もしかしなくても暇人!

「王様って暇人?」

 私が聞くと黒目を大きく見開いて、ルディはクスクスと笑いだし、笑いが止まらないのか私の首元に顔を埋める。少しこそばゆいのだけど。

「今まで自由に行動が出来なかったから、その分自由にされているようだ」

 ああ、そうか王様の周りは全て敵だったから、常に行動が監視されていたのか。でも今は、偽物の王様が王様として立っているため本物の白銀の王様は自由を満喫しているということだね。

「アンジュぐらいだ。そう言って兄上に対しても普通に意見を言うのは」

 まぁ、言いたいことは言うからね。……今日はルディが今回の事を報告するのに時間がかかるから、第13部隊の詰め所に行かなくていいと言っている。ということは、散歩に行けるということ!

「ルディ。散歩に行きたい」

「駄目だ」

「散歩」

「駄目だ」

「ルディ。アンジュ、散歩に行きたいなぁ」

 私はヘラリと笑って、散歩に行きたいとゴリ押しをする。

「そう言って、約束した時間を守らなかったよな」

 くっ。やはり、聖女の彼女の尾行したことが、響いているのか。でも、あれも役に立ったはず……はず。
 しかし、このままだと私は今日一日部屋に閉じこもることになってしまう。

「それに雨が降っているのに、散歩を許すはずないだろう?」

 雨が降っていれば、人が居なくていいじゃない。雨の日の散歩もいいものだと思う。

「雨の日の散歩もいつもと違う景色が見れていい」

「駄目だ。段々と寒くなってきたのに、雨に濡れてアンジュが風邪を引いたら、治っても1週間はベッドにくくりつけるからな」

 なんて恐ろしいことを言うのだ。それは私は退屈過ぎて死にそうになってしまう。

「じゃ、ぽつんと一軒家の詰め所に出勤するでいい」

「だから、雨が降っているから部屋にいるように言っているんだ」

 ……これはこれで過保護過ぎるのではないのだろうか。雨が降っているから外に出なくないというのは、会社員であれば認められない休む理由だ。それをルディから出勤しなくていいと言われる私って何?あ、婚約者だった。

 しかし、今日一日部屋に引きこもりかぁ……ん?確かロゼが言っていた。翌日はロゼとリザ姉は休みをもらったと……ということは、リザ姉のところに遊びに行こう!

「だったら、リザ姉のところに遊びに行っていい?今日はお休みだって言っていたから」

「……アンジュ。堂々と俺に浮気宣言をするというとは、わかっているだろうな」

 え?どこが浮気という話になったのだろう?私は同じ4階に住むリザ姉のところに遊びに行きたいと言っただけなのに、瞳孔が開いた目で私を見ないで欲しい。

「ルディ。リザ姉だよ?浮気じゃないよ?」

「そう言ってヴァルトルクスと一緒に夕食を食べていたよな」

 何故に第12部隊長さん限定になっているの!あれは元々リザ姉とロゼが誘ってくれて、荷物を持ってきてくれた第12部隊長さんも一緒にどうかと誘っただけで、その場にはリザ姉もロゼもいたんだからね!
 ぐっ!ルディの魔力が溢れ室内に満ち満ちている。

 ルディの圧迫感に呼吸もままならない私は、私の命を守る為に第四の要望を口にした。

「ルディについていきたいなぁ」

 こうしてウキョー鳥に起こされない朝は、ルディの機嫌を取ることで終わりを告げた。
 いや、朝からとても疲れた私に笑顔で口づけをしてくるルディによって、ファルが呼びにくるまで、ベッドの上に引き止められるのだった。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

悪妃の愛娘

りーさん
恋愛
 私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。  その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。  そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!  いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!  こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。  あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

竜帝は番に愛を乞う

浅海 景
恋愛
祖母譲りの容姿の両親から疎まれている男爵令嬢のルー。自分とは対照的に溺愛される妹のメリナは周囲からも可愛がられ、狼族の番として見初められたことからますます我儘に振舞うようになった。そんなメリナの我儘を受け止めつつ使用人のように働き、学校では妹を虐げる意地悪な姉として周囲から虐げられる。無力感と諦めを抱きながら淡々と日々を過ごしていたルーは、ある晩突然現れた男性から番であることを告げられる。しかも彼は獣族のみならず世界の王と呼ばれる竜帝アレクシスだった。誰かに愛されるはずがないと信じ込む男爵令嬢と番と出会い愛を知った竜帝の物語。

旦那様、離縁の申し出承りますわ

ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」 大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。 領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。 旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。 その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。 離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに! *女性軽視の言葉が一部あります(すみません)

塩対応の公子様と二度と会わないつもりでした

奏多
恋愛
子爵令嬢リシーラは、チェンジリングに遭ったせいで、両親から嫌われていた。 そのため、隣国の侵略があった時に置き去りにされたのだが、妖精の友人達のおかげで生き延びることができた。 その時、一人の騎士を助けたリシーラ。 妖精界へ行くつもりで求婚に曖昧な返事をしていた後、名前を教えずに別れたのだが、後日開催されたアルシオン公爵子息の婚約者選びのお茶会で再会してしまう。 問題の公子がその騎士だったのだ。

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?

氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。 しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。 夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。 小説家なろうにも投稿中

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

処理中です...