184 / 358
184 だからヤッてない!(酒吞&茨木Side)
しおりを挟む
酒吞&茨木Side
「ふん。アマテラスには言うなよ」
酒吞はまたしても茨木の言葉に答えず、茨木に口止めをしている。
「言いませんよ。アンジュ様は葦原中津国に還したと思っておられますから」
アンジュが還したと思っていることとは、勿論、今回甚大な被害を出した首だけの怨霊と幻覚を見せる霊獣のことだろう。
「あの霊獣は途中から妖気を追うことが出来ず、わかりませんでしたが、坂東の虎は確実にあの底しれぬ闇に食われましたね。そして、鞍馬山の大天狗もです」
「ああ、あのクソジジイも喰われたなぁ。だから、黒狐の祖は人に使役されることを選んだのだろう。しっかし、人ってあんなに飛べるものなんだな」
酒吞は目を細め遠くの空をただ眺めていた。だが、酒吞の言った言葉はとても恐ろしい言葉だった。彼らは確信があるように世界が怨霊と天狗を喰ったと言ったのだ。そして、その喰われることを避けるために、人にひれ伏すことを選んだモノがいると。ただ、その視線の先にはゴマ粒のようになっていく鎧を着た者たちが飛んで行った青い空をを見ていた。その先に何かがあるかのように。
「アンジュ様の技に対して何もしなければ、あのように飛ばされるだけで、別に飛んでいるわけではないですよ」
酒吞の最後の言葉にクスクスと笑っている茨木は、金髪に聖職者を示す神父の衣服をまとった者に何かを言われている銀髪の少女を視界に収めていた。
「ん?あの坊主は空を駆けていただろう?しかし、どこの国も坊主というのは、物騒だな」
「物騒ということは同じ意見ですが、坊主というより景教も聖職者に近い感じですね」
「相変わらず茨木は細けぇな。まぁ、アマテラスに付いていけばいいってことだ」
そう言って、酒吞は歩き出す。それに続き茨木も歩き出した。何処に行くのかと言えば、方向的には銀髪の少女と金髪の男性がもめているところだ。
もめている。いや、銀髪の少女が何か言い訳のような事を言い、それに対して手加減をしなさいと金髪の男性が諭している。その銀髪の少女の側にはイライラとした感じの黒髪の男性が銀髪の少女の腰を抱いていた。
「アンジュ。あれでは受け身を取る取らない関係なく森の木にひかかって終わるだけです。飛ばすのであれば、訓練場内にとどまるようにしなさい」
「神父様。あの人買い貴族と同じ視線を向けられれば、それは飛ばしますよね。一秒でも早く視界から去って欲しいと思うのは、正当防衛の一種だと思います」
何か、二人の論点がおかしいような気がする。
「アンジュが殺らなければ、俺がヤッていた」
そこに黒髪の男性が銀髪の少女の擁護と思える言葉を金髪の男性に放った。
「ルディ。私は殺していないからね。視界から去ってもらっただけだからね」
「どちらでも良いですが、死体は回収してきなさい。魔物の餌になってこの辺りに魔物が増えることがないようにです」
「神父様!だから殺していない!」
銀髪の少女は殺していないと首を横に振っているが、そもそも人は上空から落とされて、無事でいる保証は全く無い。
「あ、それアマテラスの代わりに俺が行ってきていいか?」
突然酒吞が話に割り込んできたことに、その場にいた者の視線が集中した。その視線にも動揺すること無く酒吞は言葉を続ける。
「散歩のついでだ。死体を集めてくればいいのだろう?」
「いいでしょう。昼にはここを立ちますので、それまでに死体の回収をお願いします」
酒吞は散歩に行くと言っているが、そこには別の意図があるのだろう。その意図がわかってかどうかはわからないが、神父は承諾する。
「だから、殺していないって!」
ただ、銀髪の少女の否定する言葉が青い空に響いているが、誰もその言葉に同意する者はいなかった。
木々が葉を落とし、枯れ葉の絨毯が敷き詰められた森の中を爆走する二つの影があった。酒吞と茨木だ。
「思っていたよりも生還率がいいですね」
茨木が以外だと言う感じで、辺りに視線を配らせながら言った。
「あれだろ?あれでも武士の端くれだというヤツだろ?それに、この枯れ葉にも助けられたんだろう?」
二人は進むスピードを落とさずに、会話をしている。
「ん?あれは?」
酒吞が何かを見つけたようだ。
その視線の先には酒吞と茨木と同じ濃い灰色の隊服を着たものが、空を見上げていた。
そして、酒吞と茨木が近づいてきたことに気が付き、彼らと同じ金色の瞳を彼らへと向けてきたが、その瞳には何も感情というものは浮かんでいない。
「よう、黒狐。ここで何をしてんだ?」
酒吞は同じ隊服を着た黒髪に金目で細身の男の前で立ち止まり、声をかけた。その人物は聖騎士団の隊服を着ているものの、酒吞と比べると騎士という体格でではないので、その立ち姿には違和感を感じてしまう。
「酒吞殿に茨木殿。ご主人様の愁いを払うために、黒い鎖が残っていないか確認をしていたのですが、空から人が降ってきたのでどうしたものかと思案していました」
そう言って、黒狐と呼ばれた男は再び空へと視線を向けた。その視線の先には、頭を下にして太い枝と太い枝に器用にも引っかかっている鎧があった。かなり高い木のため、細身の男性が下ろすのはかなり危険だろう。
「放置でいいのか。落として放置がいいのか。始末した方がいいのか」
いや、黒狐の選択肢に助けるというものはそもそも無かった。普通であれば、人命救助は騎士としては当然のことであるのにも関わらず、黒狐は人命をないがしろにする選択肢しか浮かばなかったようだ。
「アンジュ様の足を引っ張る輩など、いっそのこと縊り殺した方が……」
どうもご主人様という人物の足を引っ張ったことが許せないようだ。しかし、それだけで、死という選択肢になるのだろうか。
「ふん。アマテラスには言うなよ」
酒吞はまたしても茨木の言葉に答えず、茨木に口止めをしている。
「言いませんよ。アンジュ様は葦原中津国に還したと思っておられますから」
アンジュが還したと思っていることとは、勿論、今回甚大な被害を出した首だけの怨霊と幻覚を見せる霊獣のことだろう。
「あの霊獣は途中から妖気を追うことが出来ず、わかりませんでしたが、坂東の虎は確実にあの底しれぬ闇に食われましたね。そして、鞍馬山の大天狗もです」
「ああ、あのクソジジイも喰われたなぁ。だから、黒狐の祖は人に使役されることを選んだのだろう。しっかし、人ってあんなに飛べるものなんだな」
酒吞は目を細め遠くの空をただ眺めていた。だが、酒吞の言った言葉はとても恐ろしい言葉だった。彼らは確信があるように世界が怨霊と天狗を喰ったと言ったのだ。そして、その喰われることを避けるために、人にひれ伏すことを選んだモノがいると。ただ、その視線の先にはゴマ粒のようになっていく鎧を着た者たちが飛んで行った青い空をを見ていた。その先に何かがあるかのように。
「アンジュ様の技に対して何もしなければ、あのように飛ばされるだけで、別に飛んでいるわけではないですよ」
酒吞の最後の言葉にクスクスと笑っている茨木は、金髪に聖職者を示す神父の衣服をまとった者に何かを言われている銀髪の少女を視界に収めていた。
「ん?あの坊主は空を駆けていただろう?しかし、どこの国も坊主というのは、物騒だな」
「物騒ということは同じ意見ですが、坊主というより景教も聖職者に近い感じですね」
「相変わらず茨木は細けぇな。まぁ、アマテラスに付いていけばいいってことだ」
そう言って、酒吞は歩き出す。それに続き茨木も歩き出した。何処に行くのかと言えば、方向的には銀髪の少女と金髪の男性がもめているところだ。
もめている。いや、銀髪の少女が何か言い訳のような事を言い、それに対して手加減をしなさいと金髪の男性が諭している。その銀髪の少女の側にはイライラとした感じの黒髪の男性が銀髪の少女の腰を抱いていた。
「アンジュ。あれでは受け身を取る取らない関係なく森の木にひかかって終わるだけです。飛ばすのであれば、訓練場内にとどまるようにしなさい」
「神父様。あの人買い貴族と同じ視線を向けられれば、それは飛ばしますよね。一秒でも早く視界から去って欲しいと思うのは、正当防衛の一種だと思います」
何か、二人の論点がおかしいような気がする。
「アンジュが殺らなければ、俺がヤッていた」
そこに黒髪の男性が銀髪の少女の擁護と思える言葉を金髪の男性に放った。
「ルディ。私は殺していないからね。視界から去ってもらっただけだからね」
「どちらでも良いですが、死体は回収してきなさい。魔物の餌になってこの辺りに魔物が増えることがないようにです」
「神父様!だから殺していない!」
銀髪の少女は殺していないと首を横に振っているが、そもそも人は上空から落とされて、無事でいる保証は全く無い。
「あ、それアマテラスの代わりに俺が行ってきていいか?」
突然酒吞が話に割り込んできたことに、その場にいた者の視線が集中した。その視線にも動揺すること無く酒吞は言葉を続ける。
「散歩のついでだ。死体を集めてくればいいのだろう?」
「いいでしょう。昼にはここを立ちますので、それまでに死体の回収をお願いします」
酒吞は散歩に行くと言っているが、そこには別の意図があるのだろう。その意図がわかってかどうかはわからないが、神父は承諾する。
「だから、殺していないって!」
ただ、銀髪の少女の否定する言葉が青い空に響いているが、誰もその言葉に同意する者はいなかった。
木々が葉を落とし、枯れ葉の絨毯が敷き詰められた森の中を爆走する二つの影があった。酒吞と茨木だ。
「思っていたよりも生還率がいいですね」
茨木が以外だと言う感じで、辺りに視線を配らせながら言った。
「あれだろ?あれでも武士の端くれだというヤツだろ?それに、この枯れ葉にも助けられたんだろう?」
二人は進むスピードを落とさずに、会話をしている。
「ん?あれは?」
酒吞が何かを見つけたようだ。
その視線の先には酒吞と茨木と同じ濃い灰色の隊服を着たものが、空を見上げていた。
そして、酒吞と茨木が近づいてきたことに気が付き、彼らと同じ金色の瞳を彼らへと向けてきたが、その瞳には何も感情というものは浮かんでいない。
「よう、黒狐。ここで何をしてんだ?」
酒吞は同じ隊服を着た黒髪に金目で細身の男の前で立ち止まり、声をかけた。その人物は聖騎士団の隊服を着ているものの、酒吞と比べると騎士という体格でではないので、その立ち姿には違和感を感じてしまう。
「酒吞殿に茨木殿。ご主人様の愁いを払うために、黒い鎖が残っていないか確認をしていたのですが、空から人が降ってきたのでどうしたものかと思案していました」
そう言って、黒狐と呼ばれた男は再び空へと視線を向けた。その視線の先には、頭を下にして太い枝と太い枝に器用にも引っかかっている鎧があった。かなり高い木のため、細身の男性が下ろすのはかなり危険だろう。
「放置でいいのか。落として放置がいいのか。始末した方がいいのか」
いや、黒狐の選択肢に助けるというものはそもそも無かった。普通であれば、人命救助は騎士としては当然のことであるのにも関わらず、黒狐は人命をないがしろにする選択肢しか浮かばなかったようだ。
「アンジュ様の足を引っ張る輩など、いっそのこと縊り殺した方が……」
どうもご主人様という人物の足を引っ張ったことが許せないようだ。しかし、それだけで、死という選択肢になるのだろうか。
10
お気に入りに追加
518
あなたにおすすめの小説
もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。
そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。
そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。
「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」
そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。
かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが…
※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。
ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。
よろしくお願いしますm(__)m
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる
花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
【完結】きみの騎士
*
恋愛
村で出逢った貴族の男の子ルフィスを守るために男装して騎士になった平民の女の子が、おひめさまにきゃあきゃあ言われたり、男装がばれて王太子に抱きしめられたり、当て馬で舞踏会に出たりしながら、ずっとすきだったルフィスとしあわせになるお話です。
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
【完結済】呼ばれたみたいなので、異世界でも生きてみます。
まりぃべる
恋愛
異世界に来てしまった女性。自分の身に起きた事が良く分からないと驚きながらも王宮内の問題を解決しながら前向きに生きていく話。
その内に未知なる力が…?
完結しました。
初めての作品です。拙い文章ですが、読んでいただけると幸いです。
これでも一生懸命書いてますので、誹謗中傷はお止めいただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる