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184 だからヤッてない!(酒吞&茨木Side)

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酒吞&茨木Side


「ふん。アマテラスには言うなよ」

 酒吞はまたしても茨木の言葉に答えず、茨木に口止めをしている。

「言いませんよ。アンジュ様は葦原中津国に還したと思っておられますから」

 アンジュが還したと思っていることとは、勿論、今回甚大な被害を出した首だけの怨霊と幻覚を見せる霊獣のことだろう。

「あの霊獣は途中から妖気を追うことが出来ず、わかりませんでしたが、坂東の虎は確実にあの底しれぬ闇に食われましたね。そして、鞍馬山の大天狗もです」

「ああ、あのクソジジイも喰われたなぁ。だから、黒狐の祖は人に使役されることを選んだのだろう。しっかし、人ってあんなに飛べるものなんだな」

 酒吞は目を細め遠くの空をただ眺めていた。だが、酒吞の言った言葉はとても恐ろしい言葉だった。彼らは確信があるように世界が怨霊と天狗を喰ったと言ったのだ。そして、その喰われることを避けるために、人にひれ伏すことを選んだモノがいると。ただ、その視線の先にはゴマ粒のようになっていく鎧を着た者たちが飛んで行った青い空をを見ていた。その先に何かがあるかのように。

「アンジュ様の技に対して何もしなければ、あのように飛ばされるだけで、別に飛んでいるわけではないですよ」

 酒吞の最後の言葉にクスクスと笑っている茨木は、金髪に聖職者を示す神父の衣服をまとった者に何かを言われている銀髪の少女を視界に収めていた。

「ん?あの坊主は空を駆けていただろう?しかし、どこの国も坊主というのは、物騒だな」

「物騒ということは同じ意見ですが、坊主というより景教も聖職者に近い感じですね」

「相変わらず茨木は細けぇな。まぁ、アマテラスに付いていけばいいってことだ」

 そう言って、酒吞は歩き出す。それに続き茨木も歩き出した。何処に行くのかと言えば、方向的には銀髪の少女と金髪の男性がもめているところだ。

 もめている。いや、銀髪の少女が何か言い訳のような事を言い、それに対して手加減をしなさいと金髪の男性が諭している。その銀髪の少女の側にはイライラとした感じの黒髪の男性が銀髪の少女の腰を抱いていた。

「アンジュ。あれでは受け身を取る取らない関係なく森の木にひかかって終わるだけです。飛ばすのであれば、訓練場内にとどまるようにしなさい」

「神父様。あの人買い貴族と同じ視線を向けられれば、それは飛ばしますよね。一秒でも早く視界から去って欲しいと思うのは、正当防衛の一種だと思います」

 何か、二人の論点がおかしいような気がする。

「アンジュが殺らなければ、俺がヤッていた」

 そこに黒髪の男性が銀髪の少女の擁護と思える言葉を金髪の男性に放った。

「ルディ。私は殺していないからね。視界から去ってもらっただけだからね」

「どちらでも良いですが、死体は回収してきなさい。魔物の餌になってこの辺りに魔物が増えることがないようにです」

「神父様!だから殺していない!」

 銀髪の少女は殺していないと首を横に振っているが、そもそも人は上空から落とされて、無事でいる保証は全く無い。

「あ、それアマテラスの代わりに俺が行ってきていいか?」

 突然酒吞が話に割り込んできたことに、その場にいた者の視線が集中した。その視線にも動揺すること無く酒吞は言葉を続ける。

「散歩のついでだ。死体を集めてくればいいのだろう?」

「いいでしょう。昼にはここを立ちますので、それまでに死体の回収をお願いします」

 酒吞は散歩に行くと言っているが、そこには別の意図があるのだろう。その意図がわかってかどうかはわからないが、神父は承諾する。

「だから、殺していないって!」

 ただ、銀髪の少女の否定する言葉が青い空に響いているが、誰もその言葉に同意する者はいなかった。



 木々が葉を落とし、枯れ葉の絨毯が敷き詰められた森の中を爆走する二つの影があった。酒吞と茨木だ。

「思っていたよりも生還率がいいですね」

 茨木が以外だと言う感じで、辺りに視線を配らせながら言った。

「あれだろ?あれでも武士の端くれだというヤツだろ?それに、この枯れ葉にも助けられたんだろう?」

 二人は進むスピードを落とさずに、会話をしている。

「ん?あれは?」

 酒吞が何かを見つけたようだ。
 その視線の先には酒吞と茨木と同じ濃い灰色の隊服を着たものが、空を見上げていた。

 そして、酒吞と茨木が近づいてきたことに気が付き、彼らと同じ金色の瞳を彼らへと向けてきたが、その瞳には何も感情というものは浮かんでいない。

「よう、黒狐。ここで何をしてんだ?」

 酒吞は同じ隊服を着た黒髪に金目で細身の男の前で立ち止まり、声をかけた。その人物は聖騎士団の隊服を着ているものの、酒吞と比べると騎士という体格でではないので、その立ち姿には違和感を感じてしまう。

「酒吞殿に茨木殿。ご主人様の愁いを払うために、黒い鎖が残っていないか確認をしていたのですが、空から人が降ってきたのでどうしたものかと思案していました」

 そう言って、黒狐と呼ばれた男は再び空へと視線を向けた。その視線の先には、頭を下にして太い枝と太い枝に器用にも引っかかっている鎧があった。かなり高い木のため、細身の男性が下ろすのはかなり危険だろう。

「放置でいいのか。落として放置がいいのか。始末した方がいいのか」

 いや、黒狐の選択肢に助けるというものはそもそも無かった。普通であれば、人命救助は騎士としては当然のことであるのにも関わらず、黒狐は人命をないがしろにする選択肢しか浮かばなかったようだ。

「アンジュ様の足を引っ張る輩など、いっそのことくびり殺した方が……」

 どうもご主人様という人物の足を引っ張ったことが許せないようだ。しかし、それだけで、死という選択肢になるのだろうか。

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