聖痕の聖騎士〜溺愛?狂愛?私に結婚以外の選択肢はありますか?〜

白雲八鈴

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180 貴方達の枷です(とある騎士Side)

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とある騎士シュヴァリエSide


「あと一時間程で元の状態に戻りますから、辛抱してくださいね」

 無事だった人たちが倒れている俺たち一人ひとりに声を掛けてくれいる。それも憐れみの視線を向けて。

「なんですかね。この状態は……」

 という言葉が耳に入ってきたと思うと、俺に声を掛けてくれていた副部隊長の顔色が一瞬にして変わった。絶望の色にだ。
 あの何があっても冷静で笑みを絶やさない副部隊長がだ。

 そして、脱兎のごとく俺の側を離れ、姿が見れなくなった。何だ?何が起こったんだ?

 今日は理解不能なことばかりが起きている。恐らく部隊長と副部隊長は何かを知っている。この状態異常が解除されたら、部隊長と副部隊長に聞けばいいと思っていた。
 この時点で俺はよくわからない状況に思考がついていかず、もう考える事を放棄して、お腹が鳴り、小腹がすいたなぁと気楽な事を考えて、目を閉じたのだった。


 ……が、俺の希望は何一つ叶わずにいた。

 何故か夜通しで走ることとなり、足を止めると、何処からか攻撃をされる。そう、攻撃されるのだ。それも複数方向からだ。この攻撃をしているのは一人ではないのか?

 最初は文句を言っていたヤツらも口数が徐々に少なくなり、よろめきながらも足を前に出しているという感じだ。

 ちょっと待って欲しい。俺たちは少し前まで戦っていて、鎧を着たままだ。
 鎧を着たまま夜通し走るとか有り得ないだろう!

 部隊長たちはいつの間には鎧を脱いでおり、隊服のまま走っている。ズルいと思う。

「ふ……ふく……ぶたいちょう……よろい……を脱い……でいる……なんて……ズルい……で…す」

 俺はこの理不尽な差を丁度、何周差かをつけられ、俺を追い抜かそうとしている副部隊長に悪態をついた。

「ズルくはないですよ。あの光の矢を避けられなかった貴方達の枷です。まぁ、己の未熟さを痛感しなさいということになりますね」

 俺よりも走っているはずの副部隊長は余裕な感じで、俺を追い抜いていった。

 その苦行が終わったのは朝日が昇るかという時間だった。先に訓練場にたどり着いていた部隊長から休憩していいという言葉が出てきたことから、俺は再び地面に倒れた。キツイ、キツ過ぎる。もう、心臓が壊れるのではないのかと思うほどだ。

 そして、普通の訓練を始める部隊長と副部隊長……と将校オフィシエクオーレ。俺の憧れている3人はやはり普通ではなかった。しかし、気になるのが副部隊長が顔色を変えた声の持ち主だ。俺の記憶にはあのような声の人は居なかった。

 だが、その人物の姿を直に見ることとなった。

 着替えるのも億劫なほどクタクタな体を引きずりながら、フルフェイスは外しているものの鎧のまま食堂に行き、やっとありつけた食事を口に運び、これで休めると思っていたときだ。

 あのときの声が食堂に響き渡った。と、同時に十数人の人たちが起立する。
 それも将校オフィシエとしてよく名が挙がる方々と、もうすぐ将校オフィシエに昇格すると噂の騎士シュヴァリエたちだ。

 俺の隣に座っていた将校オフィシエクオーレもその場に起立してとても緊張しているように思える。どうしたのだろう?

 声の主は元大将校グラントフィシエと名乗ったが、姿を見る限り、どこでもいるような教会の神父にしか見えない。そもそも大将校グラントフィシエという地位なんて存在しない。
 それを聞いて鼻で笑っているものもいるし、部外者が口出す場じゃないという無言の視線を送っている者もいる。

「なんでわからないのだ?俺はとばっちりは嫌だ」

 という小声が隣から聞こえ、視線を向ければブルブルと震えている将校オフィシエクオーレがいる。部隊長の様子も副部隊長の様子もおかしく、俺は首を傾げていたところに、手を叩く音が響いた途端、視界がぶれ俺が座っていた椅子の感触がなくなり、床に吸い寄せられるように尻もちをつく。しかし、鎧を着ていたため、衝撃の痛みはなかった。

 そして、カツカツという床を鳴らす足音が近づいてきて俺の前で音が止まる。

「そこの者、聖騎士とは何かを答えなさい」

 え?おれ?教会の神父の格好をした人物が床に腰を下ろしたままの俺を見下ろしていた。その青い目は冷たく、まるで価値のないモノを見るような視線だ。俺はその視線に耐えきれずうつむいてしまう。

「クオーレ。答えなさい」

「はっ!我々聖騎士は天の日を掲げる聖女様の剣であり、盾であります。しかし、我々の背後には多くの民がおり、民の命を脅かす脅威を討ち滅ぼす為にその力を奮う者であります」

 俺の代わりに隣りにいた将校オフィシエクオーレが指名され答え、その答えに満足したのか神父の格好をした人物は、またカツカツと足音を立て歩き始める。
 俺は本能でわかってしまった。
 あの人物には決して逆らってはならないと。

 震える膝を叱咤し俺は立ち上がった。


(補足)
リュミエール神父は上空から周辺を調査しつつ、サボっている者たちを追い立てていました。流石、悪魔神父ですね(笑)
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