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176 なんて恐ろしい聖痕
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「隠したかった?」
神父様がニコニコとした笑顔のまま私の言葉を繰り返した。私はスープを飲みながら、左手を前に差し出す。そこにはルディと神父様がゴリ押しで付けた指輪が指にはめられていた。そして、今まで存在しなかった人差し指に緑色の輪がある。茨の聖痕を移動させたのだ。
「《解除》」
すると、左手の人差し指に一重に輪があっただけだったのが、一気に全身に広がった。突き出した手の甲にも隊服から見える首筋にも顔にもだ。一度鏡で見たことがあるけど、妖術使いの中ボスの雰囲気だった。まぁ、怪しいということだ。
普通なら神父様の隣にいるファルのように、椅子を後ろに倒しながら、距離を取りたくなる状態だ。
そして、その状態から聖痕を動かしていき、先程あった左手の人差し指の先程あった位置に戻した。
「とういう感じです」
「無茶苦茶だ。有り得ない。聖痕を移動させるなんて……」
ファルが椅子を元に戻し、項垂れるように腰を下ろした。
「そこまでの聖痕であれば、ひと都市ぐらいは茨で覆うことができそうですね。それを、力をもたない聖痕のように偽るですか……」
そう言って神父様が考え込んでいると、神父様の金髪の色が徐々に薄れてきた。そして、あの王様と同じ銀髪に……いや白髪?神父様は歳だものね。
「ああ、この色は子供のとき以来ですね」
神父様は手鏡で自分の髪の色を確認していた。そして、前髪の一筋だけが金色になっていた。その表情は愁い満ちている。
そもそもが銀髪だったようだ。それは王家が聖女と同じ銀髪の人物を取り入れようとした結果なのだろう。だから、神父様は言っていたのだ。ア…アリ?……ファルの叔母に当たる人物が聖女でも、そうでなくても王位は確実だったと。
「シュレイン、いつまでそこに立っているのですか?座りなさい」
横を見ると信じられないモノをみてしまったかのように固まっているルディがトレイを持って立っていた。いや、ファルも第12部隊長さんも神父様を見る目は、驚きに満ちていた。
「私のこの髪の色を知るのはごく一部の者たちだけでしたから、仕方がありませんね」
そう言った神父様は銀髪から金髪に戻し、いつものニコニコとした笑顔を向けてきた。
ルディはその姿にため息を吐き、私の横に腰を下ろす。
「そうですよね。はぁ。先代の国王も先々代の国王も銀髪でした。ならば、王となるべくあった貴方も銀を持つ者だったということですか」
ここで銀髪の先代というのはきっとあの王様とルディの父親のことではなく、神父様の父親の事なのだろう。ルディの父親の王太子は王として立たなかったのだから。
「私は幼い頃に、この『天上天下』の聖痕を発現してから、金髪ですからね。今では知るものは皆墓の下でしょう」
「ひぃぃぃ!なんて恐ろしい聖痕!」
私は思わずその名前に悲鳴を上げてしまった。何!天上天下って!
言わば、全ては神父様の思うがまま。それはなんでもありだ。
「何ですか?アンジュ。その反応は」
だって天地の間ということは世界の力と言っていいのではないのだろうか。これはもっと正義感のある主人公が持つべき力だ。決して悪魔神父が持つべき力ではない。
口には決して出さないけれど。
「なんでも無いです」
「なんでも無いという態度ではないですよね」
「アンジュ」
これは答えないと、シメられるパターンだ。
「私の聖痕と同じで、神父様に似合わない聖痕だと思っただけです」
「ほぅ。理由を聞いてもいいですか?」
私は若干椅子を引く。いつでも動けるようにだ。
「人をどれだけ困難に陥れようかということをしている神父様に天上天下って怖すぎますよね」
と告げて、天井に張り付く。下を見ると私の座っていた椅子は存在していなかった。
「人聞きの悪いことを言わないで欲しいものですね」
「言わないでおこうとしたのに、聞いてきたのは神父様だからね!」
私が神父様に文句を言っていると、ざわざわと雑音が聞こえだし、人が入ってくる気配を感じた。恐らく朝の訓練が終わって、朝食を食べにきたのだろう。
私は天井から身をはがし、床に降り立つ。
「アンジュ。ご飯食べ終わった?」
若干乱れたローズ色の髪を直しながら、ロゼが声をかけてきた。
「今、食べ始めたところ。ロゼ姉、用意してくれてありがとう」
私がお礼を言うとロゼは大したことじゃないと言って、小声で何かを言っていたけど、よく聞き取れなかった。聖騎士として仕事をしてもらう下準備は万全だからね……とか聞こえたけど、ちょっと意味がわからなかった。
普通に食堂に歩いて入って来た人たちは十数人だけで、後は誰かに支えられているとか、剣を杖のようにしているとか、よろめきながら入ってくる人たちばかりだった。神父様の命じた訓練が酷かったのだろう。
皆が一言も雑談もなく異様な雰囲気の食堂で食事を取っており、私はルディの分の果物を押し付けられ断っているところに、神父様の声が響いてきた。視線を上げるといい笑顔でその場に立った神父様が目の前にいた。
あ、これ説教されるやつだ。
神父様がニコニコとした笑顔のまま私の言葉を繰り返した。私はスープを飲みながら、左手を前に差し出す。そこにはルディと神父様がゴリ押しで付けた指輪が指にはめられていた。そして、今まで存在しなかった人差し指に緑色の輪がある。茨の聖痕を移動させたのだ。
「《解除》」
すると、左手の人差し指に一重に輪があっただけだったのが、一気に全身に広がった。突き出した手の甲にも隊服から見える首筋にも顔にもだ。一度鏡で見たことがあるけど、妖術使いの中ボスの雰囲気だった。まぁ、怪しいということだ。
普通なら神父様の隣にいるファルのように、椅子を後ろに倒しながら、距離を取りたくなる状態だ。
そして、その状態から聖痕を動かしていき、先程あった左手の人差し指の先程あった位置に戻した。
「とういう感じです」
「無茶苦茶だ。有り得ない。聖痕を移動させるなんて……」
ファルが椅子を元に戻し、項垂れるように腰を下ろした。
「そこまでの聖痕であれば、ひと都市ぐらいは茨で覆うことができそうですね。それを、力をもたない聖痕のように偽るですか……」
そう言って神父様が考え込んでいると、神父様の金髪の色が徐々に薄れてきた。そして、あの王様と同じ銀髪に……いや白髪?神父様は歳だものね。
「ああ、この色は子供のとき以来ですね」
神父様は手鏡で自分の髪の色を確認していた。そして、前髪の一筋だけが金色になっていた。その表情は愁い満ちている。
そもそもが銀髪だったようだ。それは王家が聖女と同じ銀髪の人物を取り入れようとした結果なのだろう。だから、神父様は言っていたのだ。ア…アリ?……ファルの叔母に当たる人物が聖女でも、そうでなくても王位は確実だったと。
「シュレイン、いつまでそこに立っているのですか?座りなさい」
横を見ると信じられないモノをみてしまったかのように固まっているルディがトレイを持って立っていた。いや、ファルも第12部隊長さんも神父様を見る目は、驚きに満ちていた。
「私のこの髪の色を知るのはごく一部の者たちだけでしたから、仕方がありませんね」
そう言った神父様は銀髪から金髪に戻し、いつものニコニコとした笑顔を向けてきた。
ルディはその姿にため息を吐き、私の横に腰を下ろす。
「そうですよね。はぁ。先代の国王も先々代の国王も銀髪でした。ならば、王となるべくあった貴方も銀を持つ者だったということですか」
ここで銀髪の先代というのはきっとあの王様とルディの父親のことではなく、神父様の父親の事なのだろう。ルディの父親の王太子は王として立たなかったのだから。
「私は幼い頃に、この『天上天下』の聖痕を発現してから、金髪ですからね。今では知るものは皆墓の下でしょう」
「ひぃぃぃ!なんて恐ろしい聖痕!」
私は思わずその名前に悲鳴を上げてしまった。何!天上天下って!
言わば、全ては神父様の思うがまま。それはなんでもありだ。
「何ですか?アンジュ。その反応は」
だって天地の間ということは世界の力と言っていいのではないのだろうか。これはもっと正義感のある主人公が持つべき力だ。決して悪魔神父が持つべき力ではない。
口には決して出さないけれど。
「なんでも無いです」
「なんでも無いという態度ではないですよね」
「アンジュ」
これは答えないと、シメられるパターンだ。
「私の聖痕と同じで、神父様に似合わない聖痕だと思っただけです」
「ほぅ。理由を聞いてもいいですか?」
私は若干椅子を引く。いつでも動けるようにだ。
「人をどれだけ困難に陥れようかということをしている神父様に天上天下って怖すぎますよね」
と告げて、天井に張り付く。下を見ると私の座っていた椅子は存在していなかった。
「人聞きの悪いことを言わないで欲しいものですね」
「言わないでおこうとしたのに、聞いてきたのは神父様だからね!」
私が神父様に文句を言っていると、ざわざわと雑音が聞こえだし、人が入ってくる気配を感じた。恐らく朝の訓練が終わって、朝食を食べにきたのだろう。
私は天井から身をはがし、床に降り立つ。
「アンジュ。ご飯食べ終わった?」
若干乱れたローズ色の髪を直しながら、ロゼが声をかけてきた。
「今、食べ始めたところ。ロゼ姉、用意してくれてありがとう」
私がお礼を言うとロゼは大したことじゃないと言って、小声で何かを言っていたけど、よく聞き取れなかった。聖騎士として仕事をしてもらう下準備は万全だからね……とか聞こえたけど、ちょっと意味がわからなかった。
普通に食堂に歩いて入って来た人たちは十数人だけで、後は誰かに支えられているとか、剣を杖のようにしているとか、よろめきながら入ってくる人たちばかりだった。神父様の命じた訓練が酷かったのだろう。
皆が一言も雑談もなく異様な雰囲気の食堂で食事を取っており、私はルディの分の果物を押し付けられ断っているところに、神父様の声が響いてきた。視線を上げるといい笑顔でその場に立った神父様が目の前にいた。
あ、これ説教されるやつだ。
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