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141 私に自由の権利を!

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「だって、耳としっぽを隠せば普通の人と変わらないよね。酒呑も茨木も角を隠していれば普通の人に見えるし」

「普通の人……」

 うーん。普通の人と言われても困るって感じなのだろう。私は左手を突き出して、名を呼ぶ。

「青嵐、月影」

『この青嵐、御身の前に』
『月影、御身の前に』

 青蛇と黒蛇をこの場に呼び出した。畏まっているものの、床でうなだれる蛇である事には変わりない。

「ほら。青嵐と月影よりも普通の人に見えるよね」

 この青蛇と黒蛇を引き合いにだして、人の姿をしている分、目立つ耳としっぽを隠せば、人の世界に混じる事が出来る。

 すると、青蛇と黒蛇が口をパカリと開けて固まってしまった。そして、浮いていた身体が床にバタリと落ちていく。

「ひでーな、アマテラス」
「まだ、幼い龍にそのような言葉を言うなんて」

 また、鬼の二人から非難の言葉が出てきた。いや、本当の事だし。

「黒髪の事を気にしているのなら、ここの人たちはそこまで気にしないと思うよ。ルディもいることだし」

 朧は項垂れている蛇二匹に向けていた視線をおずおずと上げ、私とルディを見た。

「朧は朧として居ていいよ。分厚い外套と仮面で個をなくすことはないってこと」

 すると、朧の揺らめいている瞳から、ぼとぼと涙が溢れ出てきた。
 え!私、泣かすつもりは無かったのだけど?もしかして、仮面と外套を被るのが好きだったってこと!
 しまった。そうだったのなら、嫌なことを強制してしまったことになる。

「あ、でも、仮面と外套を被った方がいいっていうなら、そうしてね。泣くほど嫌だったなんて……ごめん」

 私の言葉に声もなく、首を横に振る朧。
 それはどういう意味?主の言葉が絶対とか言わないよね?
 で、なんで、酒呑はニヤニヤと笑っているわけ?

 これはどうすればいいの?床ではさめざめと泣く二匹の蛇。俯いて静かに涙を落とす黒狐。
 私、本当に泣かすつもりは無かったのに!

 そんな困っている私の耳元にクスクスと笑う声が響いてくる。

「アンジュは異形の者でも分け隔てなく接するのだな」

 ルディが私の行動がおかしいと笑う。

「言葉が通じるのなら人も龍も鬼も黒狐も一緒過ごせると思うのだけど?人同士でもいがみ合うこともあるのだから、お互いに譲り合うことは必要だと思うけど」

 私の言葉にルディは納得したのか。人の方が恐ろしいかとポソリと漏らしたあと、朧に向かっていった。

「オボロだったな。ここでなら、アンジュの言う通り、人の姿でなら過ごせばいい。そして、アンジュが勝手な行動をとっているようなら止めろ」

 は?勝手な行動ってなに?私そこまで勝手なことしていない……はず。

「ルディ。それってどういう意味?」

「俺が居ないからと言って、自由に行動しすぎているよな」

 それはルディがお城に行っていたときの事を言っているの?それとも会議でいない間にぶっ飛ばされて、転移で会議室に突っ込んで行ったことを言われている?
 いや、そもそもルディが私を構いすぎだと思う。

「私に自由があってもいいと思う」

「自由を与えたら、腕折って転移で飛ばされて来たのは誰だ?」

「私」

「聖騎士団を離れていた間に死の商人のアルージラルドと会っていたのは誰だ?」

「私」

「俺とファルが戦っている間に『ワカ』という異形に会っていたのは誰だ?」

「私」

「ああ、そう言えばヴァルトルクスとじゃれ合っていたとも耳にしたなぁ」

「え?ヴァルト様には迷惑掛けたぐらいで、じゃれ合っていないよ?」

「ヒューゲルボルカとアストヴィエントが保身の為に教えてくれた」

 ヒュー!アスト!保身ってことはこの前の私を閉じ込めたことで、ルディが怒っていた時のことだよね。ルディに脅されて第12部隊長に関して虚偽を言ったってこと?それは駄目だと思うよ。

「ということだから、俺がアンジュの側に居ない時に見張ってくれればいい」

「はっ!」

 そこ了承しないでよ!私にも自由があっても良いはずだ!

「私には自由行動の権利はあるはず!」

 私はルディを睨んで抗議する。すると、ルディはニヤリと笑って答えた。

「だから、見張っているだけで、行動の阻害はアンジュがおかしな事をしなければ、されない。散歩も今まで通りしても、背後にオボロが付いているというだけで、何も問題ない」

 問題あるから!!私は蛇二匹のように心の中でさめざめと涙を流したのだった。

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