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140 教えておいてよ!
しおりを挟む「茨木。配下じゃないからね!」
ここはきちんと否定しておかないといけない。
「取り敢えず、名前教えてもらえる?話が進まないし」
私は疲れたと溜息を吐きながら、もう一度名前を尋ねる。
「アレとかソレとかで構いません」
ん?それは名前ではない。確かに王様やルディはそのように言っていたけど、名前があるはずだ。
「貴方を示す名があるよね。まぁ、教えてはいけない風習か何かがあるのであれば、仕方がないけど」
「いいえ、個人の示す名は与えられていません」
呼ぶ名がないと言うこと?!これはあれか、異形の姿で、全身が黒い色をまとっているから、一個人として認められていないということか。よし、わかった!
「『朧《おぼろ》』でどう?その金色の滲んだ感じが朧月みたいだし」
「言われてみれば、妖力が目に宿っていますね」
あ、そういう事。だから揺らめいて見えるのか。やはり、妖怪のことは妖怪に聞くのが一番だ。
「オボロ」
ああ、こちらの言葉ではなかった。でも青嵐も月影もその名を受け入れたから、あちらの言葉でも問題ないはずだ。
私は人差し指に光を宿し、空間に文字を書いていく。月に龍。
「これがおぼろの文字。月に龍と書いて朧。あ、使えないから覚えておいても仕方がないか」
こちらの世界では漢字なんて意味をなさない。そう思っていると、いきなり朧から力が溢れ出てくるように感じ、思わず距離を……ルディの方が動くのが早く、私はルディに捕獲されていた。
「何だ?」
いきなりのことにルディは警戒感を顕わにする。それとは正反対に酒呑と茨木は面白いと言わんばかりに興味津々で朧の方を見ている。
「くくくっ。名付けが行われたな茨木」
「行われましたね。普通の妖怪に名などありはしないのに、アンジュ様は流石ですね」
え?私、何かやらかした?普通は名前無いの?
「アマテラス。どうもないか?」
酒呑が私の何かを心配して声を掛けてきたけど、何がどうかするの?
「何かあるわけ?」
「それは名付けが行われたのですから、一定の妖力……こちらでは魔力でしたか?持って行かれるはずです」
茨木の言葉にルディが慌てて私の様子を伺うが、私は全く持って何も変わらない。
「何も無いけど?」
私は首を傾げながら言う。そんな私に近づく影がある。
肌の色が浅黒い色から肌色と言っていい色合いになり、黒髪から生える三角の耳は変わらないが、背後に見えるしっぽの数が増えたように思える。
「尾が4つですか」
「茨木。天狐だぞ。まさかこの目で天狐を見るとは思わなかったぞ」
テンコ?天狐?なんかすごそうな名前。
その朧が私の前に跪く。正確にはルディに抱えられた私だけど。
「我に名を与えてくださいました。主様に忠誠を誓います。そして、配下の一人に加えていただきたく存じます」
「配下って誰もいないからね!茨木が勝手に言っているだけだかね。それから主でもないし、忠誠もいらないから!」
私がそう言うと絶望の縁に立たされたような表情をされた。
「アマテラス。その言い方は流石に可哀想だぞ」
「そうですよ。名付けておいて、それは無いですよね」
「私が悪いわけ?」
何故に鬼の二人から責められなければならない。しかし、鬼の二人は言葉を事前に決めていたかのように揃えて言った。
「「悪い」ですよ」
悪いのか。何が悪いのかさっぱりわからない。配下が居ないのも本当のことだし、私は主でもないし……あれ?もしかして名付けをするともれなく主という者に成るとかではないよね。
「もしかして、名付けイコール主ってこと?」
すると鬼の二人は揃って首を縦に振った。それならそうと名前を教えて欲しいって言った時点で教えてよ!
「うー。百歩譲って名付け親ってことは認めるけど、配下はいらないから」
私は大きく溜息を吐きながら、言おうと思っていたことを口にする。
「朧、取り敢えず、ここで見たこと聞いたこと。私に関することを口外しないで欲しい。それ以外なら与えられた仕事をしていいから」
「かしこまりました。しかし……」
朧が遠慮がちに言葉を濁す。言いたいことがあるなら言えばいいのに。
「何?」
「この姿の事は頭領から説明するように聞かれると思うのですが、その場合も他言無用なのでしょうか?」
「ああ、それは名を与えられたと言えばいいと思う。それから、耳としっぽを隠せば酒呑と茨木と同じ様に過ごしていいから」
「は?」
え?私の方が『は?』だけど?酒呑も茨木も人の姿をして普通に過ごしいるのから、朧も普通にしていていいよね。
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