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138 そう言うことじゃない

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 腕は胴体と一緒に茨に巻かれ、両足も同様にぐるぐる巻になった芋虫のような物体が出来上がった。

「侵入者さん。何か用?」

 念の為、何か用があるのか尋ねてみる。顔の部分には目の穴が開いているだけの黒い仮面に覆われているため、その表情は伺いしれない。だが、口は押さえていないため、話せるはずだ。

 しかし、声が聞こえてきたのは、目の前の芋虫からでは無く、背後からだった。

「アンジュ~」

 地獄の亡者がうめいているような、呪われそうな声が狭い天井裏に響いてきた。そして、狭い天井裏に四つん這いになってる私の右足首に何かひやりとする物が絡まった。
 恐る恐る振り返ると漆黒の鎖が絡まっており、私が開けた穴に続いていた。

 その鎖が私の足を穴に引きずり込むように、引っ張られる。

「ひっ!」

 思わず、私が作り出した茨の鎖を掴む。だけど、茨の鎖は侵入者に繋がっているだけなので、私が穴に引きずり込まれることを防ぐものではなく、私は侵入者ごと穴に引きずり落とされてしまった。

 ダイニングの高い天井から落ち、下にいるルディの腕の中に収まった私。そのまま床にべちゃりと落ちた侵入者の芋虫。

 ぐふっ!視線を合わせられないほど、ごきげん斜めな魔王様に捕まってしまった。

「アンジュ。何をした?」

 ブスブスと痛い視線が突き刺さってくる。
 何をした?あれのことかなぁ。

「侵入者を排除するために、そのまま動くと気取られそうだから、幻影を作り出して、その幻影と位置を交換しただけ」

 私はルディに説明をしているけれど、視線は合わしていない。そんな恐ろしいことをする勇気は私にはない。

「そこに、俺に説明するという手順を省いたのは何故だ?」

 え?だから、説明すると侵入者にモロバレになるじゃない。私は芋虫のようにウゴウゴ動いている侵入者に視線を向ける。えー。なんだか血の池の中でうごめいているようにしか見えない。どう見ても偽物の王様とは違う人っぽいけど、血の海は本当に受け継ぐものらしい。ただこの人は血の海の中に蠢くモノは見られなかった。

「アンジュ」

 名を呼ばれ、頬をささえられ強制的にルディの方に顔を向けさせられた。そこには瞳孔が開いた目を向けてくるルディを私の視界が捉える。コワイ。

「はぁ、せめてどういう行動をするか事前に言って欲しい。一瞬で抜け殻のようなアンジュなってしまったときの俺の気持ちがわかるか?」

「ごめん?」

 ここは私が謝るべきなのだろうか。でもさぁ、私の手の内をルディに全て晒すって、ちょっと釈然としない。いや、信用していないというわけではなく、全てを晒すと行動の自由度が更に下がるような気がするだけだ。

「でも……」

 私が否定の言葉を言うと、更に圧迫感が増えた。しかし、ここは負けじと続きを言う。

「監視はいらないよ。これ以上私のこと知られる人を増やしたくない」

 何がきっかけで大勢の人の前で暴露されるかわからない。そうなると私の未来は真っ暗だ。

「黒狼にその必要はないが、心配であれば、誓約をかければいい。アンジュに付くのはそいつと決まったのだろうから」

 ルディは血の海で溺れているようにもがいている芋虫を視線で指し示した。

「で、先程の魔術はなんだ?」

 そのまま瞳孔が開いた視線を私に向けてきたルディに、私は思わず視線を反らす。私、そんなに責められるような事をした?普通なら侵入者を成敗したと褒めてもらわなくても、良いことをしたと認めてもらえるところではないのだろうか。

「最近というか、以前からルディが私を捕獲してくるから、その対策として編み出した魔術。『空蝉の術』でニンニンという感じ」

 私はニンニンと言いながら、悪くなった空気を誤魔化すために、両手を上下に組んで人差し指を立てて忍者のポーズを取る。だけど、その空気は悪化の一途をたどっていっている。

「ほぅ。その対策で作り出した魔術はどれぐらいあるのだ?」

 しまった!本音が漏れ出てしまっていた!普通に『空蝉の術』と言えば良かった。私は誤魔化す為にヘラリと笑う。

「秘密」

 私は組んていた手を離して、右手をそのまま口元に持っていった。私が作り出した魔術の開示なんてしないからね。
 そこに諦めたようなルディのため息が降ってきた。

「はぁ。居なくなるのだけは本当にやめて欲しい」

「神父様の誓約がある限り私はここにいるよ」

 私の居場所は何があろうと、聖騎士団になるのだろう。私がそう答えるとルディは私を抱きしめて言う。

「そう言うことじゃない」

 何が違うと!!

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