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131 私に生贄になれと?

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「アンジュ!助けて!」

「無理」

 助けを求めてきたロゼの言葉を直ぐ様否定する。いや、伝説の剣でもあれば、魔王様に立ち向かえるかもしれないけれど、私には自作の太刀しかない。

「全12部隊長総出で止めに入って、ファルークス様も止めに入っているけど、もう保ちそうにないの」

 え?そんなところに私に魔王様を止めに入れと?それ確実に死ぬじゃない。正にヒノキの棒を片手に魔王に立ち向かう勇者の心境だね。

「ロゼ姉。ルディを怒らせた原因の首でも生贄に捧げたら、怒りが収まるかもよ?」

 見たことないけど、ブタ貴族の孫っていう人。

「あの聖女様の首は流石に出せないと思う」

 そっちー!!どこから、聖女が出てきたわけ?そもそも、今日って聖女も参加していたの?
 私は頭が痛いと言わんばかりにこめかみをグリグリしなから、ロゼに聞いてみる。

「ロゼ姉。そもそもどこから聖女様?が出てきたの?ブタ貴族の孫って言うのが原因じゃないわけ?」

「詳しくは私もわからないのだけど、騎士シュヴァリエユーリスデイカーは第13部隊長に手足も出すことなく、ボコボコにされて、第6部隊長が止めに入って、それはそれで終わったんだけど····」

 まぁ、その辺りは大体予想はしていた。ルディを怒らせたのだから、ただではすまないだろう。
 しかし、ロゼはその後の言葉を出して良いのかと迷っているように、目をオドオドさせている。ロゼにしては珍しい態度だ。
 ん?ああそうか。私は私とロゼを囲むように結界を張った。

「ロゼ姉。結界を張ったから、喋っていいよ」

すると、ほっとした表情をして話しだした。恐らく、誓約に引っかかるか不安だったのだろう。

「その聖女がね。闘技場の方に降りてきてさぁ、何か話していて、私のところに聞こえてきた言葉が『流石、私の婚約者様です』····」

 は?それを言ったわけ?あの魔王様に?

「もう、私は死んだと思ったよ。直ぐ側にいた第6部隊長が聖女の胸ぐら掴んで観客席の方に投げていなければ確実に死んでいたよね」

 第6部隊長!聖女の扱い方が雑過ぎる!それ、先日の聖女の暴言に対する仕返しも入っていない?

「その後はもう、私には理解不能。怒りの矛先が恐らく第6部隊長に移ったんだと思うけど、天が闇に覆われたかと思ったら、全12部隊長対第13部隊長の構図ができあがっていたわけ。それで、私はアンジュを呼んでこいと命令されてここに来たのだから、アンジュにはコロッセオの方に来てもらうよ」

「ロゼ姉は私に生贄になれと?」

 酷くない?あの聖女が怒らせたのなら責任をとって欲しい。

「そんなこと言っていない。第13部隊長を止められるのはアンジュだけってこと」

 それが、生贄になれっていうことだし。私は大きくため息を吐いて、結界を解除する。

「行くけどさぁ。止められるかどうかはわらかないよ?」

「アンジュなら、大丈夫」

 他人事だから、そんなに軽く言えるのだ。
 私は渋々、足を動かして部屋の扉から出ていく。
 そのまま玄関ホールを通り抜け、玄関扉を開けて、そのまま何も見なかったと閉じた。
 え?あそこに私単独で突っ込めと?

「アンジュ?」

「ロゼ姉。お腹が痛くなってきたから、寝てきていい?」

「アンジュにこの国の命運がかかっているの!」

 そんな物を掛けない欲しい。私は玄関扉を開けて木々の隙間から見えるものを指さして言った。

「絶対に突っ込んで行ったら死ぬじゃない!」

 ここからはかなり距離があるはずなのに、暗闇の空には雷光が走り、炎がほとばしり、風の渦が立ち上っているのが見える。ここからそれだけの物が見えるということは現地はどうなっているかは想像に難くない。

 すると、ロゼは私の両肩に手を置いて一言いった。

「あんなのアンジュの魔術に比べたら可愛らしいものだから」

 何処が!!
 私は少し考えて、左手の指輪を見る。青い指輪と黒い指輪の二つの呪いの指輪だ。

「青龍 青嵐。黒龍 月影」

 二つの名を呼ぶと私の腕と同じぐらいの太さになった青蛇と黒蛇が出てきた。長さは私の身長ほどだ。その二匹の蛇が空中をうねうねとしながら、漂っている。

『お呼びか?主様』
『何をすれば良いのか?主様』

 少しは威厳という物がでてきたのだろうか。だけど、地べたに項垂れている姿を見ている私からすれば、いつまで経っても青蛇と黒蛇だろう。

「ちょっと、空に黒雲をこの王都一面に作ってくれる?」

 私は、暗闇の空を更に暗くするために、雲を作ってくれるように頼んだ。すると『お安い御用』と言って空に登っていく二匹の蛇。
 そして、私も重力の聖痕を使ってふわりと浮く。

「ロゼ姉。もうすぐ本当に真っ暗になるから、光の魔術で光を灯しながら戻ってね」

 振り返りながら、ロゼに言うと、ロゼは呆れた顔をしていた。

「なんかさぁ、納得だよね。そのめちゃくちゃなところがないと、国は救えないってことだね」

 何故か、すっごく貶されたような気がする。それに私は国を救うつもりは全くないから。いや、これは私を聖女と言えない事を別の言葉で言い換えただけかもしれない。そんな、ロゼを置いて、私は二匹の蛇を追いかけるように空を飛んでいった。

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