聖痕の聖騎士〜溺愛?狂愛?私に結婚以外の選択肢はありますか?〜

白雲八鈴

文字の大きさ
上 下
129 / 374

129 逃げ遅れたのは私だけ!!

しおりを挟む
 お昼ごはんを作ろうとルディから離れようとしたけど、中々離してもらえず、私に食事をさせないとは何事かっと喧嘩腰に睨みつけてやっと解放されたところに、ファルが駆け込んできた。

 もしかして、酒吞と茨木が問題でも起こした?

「シュレイン。最悪な事が起こった」

 やはり、酒吞と茨木は辞退させた方がよかったのではないのだろうか。その肝心の酒吞と茨木の姿がない。あの二人は何をおこしたのだろうか。

「優勝者がシュレインを指名してきた」

 ん?指名?『ご指名入りましたー!』の指名?

「第6部隊長が説得したが、優勝者はあのプルエルト公爵の孫だ」

 ブタ貴族の孫が新人個人戦の優勝者だって?公爵の孫かー。

「それって八百長?」

 私は思わず聞いてしまった。だっておかしすぎる。ゼクトなんたらかんたらは問題を起こしたから出ないかもしれないけれど、ゼクトにつけられたザインも出場したはずだ。はっきり言って、ゼクトもザインも教会にいた頃から普通にその辺にいる騎士シュヴァリエよりも実力がある。だから、第1部隊に配属されたのだろう。

「アンジュ。八百長ってなんだ?」

 あ。八百長も通じないのか。ファルがお前何を言っているのかという顔をしている。

「組み合わせが事前に決まっているのなら、前もって負けるように脅すことも可能だと思って、だってブタ貴族の孫だし」

「ぐふっ!ブタ貴族!」

 ファルの笑いのツボが刺激されたらしい。

「そのブタ貴族の孫って人を見たことないけど、私がここに来る前に聖騎士団に入ったゼクトとザインって同期でも一位二位を争う二人だったから、私はてっきりザインが優勝すると思っていた」

 流石のザインでも酒吞と茨木には勝てないと思うけどね。しかし、酒吞と茨木はどうしたのだろう。

「ツクヨミの旦那。客を連れてきた」

 部屋の入り口にはその酒吞が立っていた。そして、酒吞は何故かルディのことをツクヨミの旦那と呼んでいる。理由を聞けば、怒らすと厄介だからだと言われた。そこは否定しない。

 大柄な酒吞の後ろから、春の新緑を思わせる萌葱色の髪のほっそりとした女性が白い隊服を身につけた出てきた。
 あれ?

 その女性はにこりと笑ってこちらに近づいてくる。

「トーリ姉、生きていたんだ」

 思わず声に出して言ってしまった。トーリは部屋は違っていたけど、ロゼと仲良くしていたので、よく声をかけてもらっていた。
 だけど、聖水の儀式を行ったあと戻ってこなかった一人だった。

「アンジュ。久しぶりだね。噂は色々聞いているよ」

 トーリはそう言いながらクスクスと笑っている。色々な噂って何!そして、少し離れたところでピタリと止まり、姿勢を正して敬礼をする。

「普通であれば、ありえないことなのですが、騎士シュヴァリエユーリスデイカー・プルエルトにより、第13部隊長への対戦が申し込まれました。優勝直後にユーリスデイカーから公の場で発言がされましたので撤回もできず、誠に申し訳ありませんが、ユーリスデイカーにご指導をよろしくお願いします」

 トーリは発言のあと腰を90度に曲げてルディに頭を下げた。

「お断りします」

 私からはルディの表情は見えないけれど、きっと胡散臭い笑顔で断っているのだろう。

「第13部隊は存在しない部隊ですから、私が公の場に出ることはありません」

 すると、トーリは頭を上げて、困ったような顔をした。そして、ポケットから一枚の封筒を取り出す。

「私も隊長もそう説得したのですが、これを第13部隊長に渡すようにと公爵の押印がされた封筒を渡されたのです」

 真っ白な封筒に赤い蝋で封蝋されたものを差し出してきた。恐らく封蝋された印が公爵の印なのだろう。

 その怪しい封筒をルディは受け取り、私からは見えないが、中を読んでいるルディからは、なんとも言えない雰囲気が醸し出されている。逃げようにも私のお腹にルディの左手が回されているため、動くことができない。
 そして、いつの間にか酒吞の姿が消えていた。周りを見渡すと隊員の4人の姿もいつの間にか消えていた。さっきまでいたじゃない!逃げ遅れたのは私だけ!!

 トーリはこれを渡した張本人だから、耐えようとしているけれど、段々と息苦しくなる空気に、足が徐々に移動して行っている。そして、今は完全にファルを盾にしていた。

 ああ、ブタ貴族は何を書いてきたのだろう。完全に魔王様が降臨されてしまった。しかし、これは八百長が確実に行われたようだ。ブタ貴族は何かの意図があって孫とルディを対戦させる構図を作りたかったのだろう。

「そうですか。そういうことですか。これは流石に駄目ですよね」

 言葉は丁寧だけど、魔王様のお言葉は黄泉の国に引きずり込むぞと言っているように聞こえてしまう。

「仕方がありませんから、申し出を受けますよ」

 私はここで魔王様のご出立をお見送りさせていただきます。そして、今日一日が無事でありますようにと、心から願うことにした。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」  王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。  偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。  ……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。  それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。  いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。  チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。  ……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。 3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

もう一度あなたと?

キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として 働くわたしに、ある日王命が下った。 かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、 ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。 「え?もう一度あなたと?」 国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への 救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。 だって魅了に掛けられなくても、 あの人はわたしになんて興味はなかったもの。 しかもわたしは聞いてしまった。 とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。 OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。 どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。 完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。 生暖かい目で見ていただけると幸いです。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

元妻からの手紙

きんのたまご
恋愛
家族との幸せな日常を過ごす私にある日別れた元妻から一通の手紙が届く。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

処理中です...