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122 公開演習があるらしい
しおりを挟む「痛い」
「シュレイン、いい加減やめたらどうだ?」
ファルがルディの行動を諌めている。
今の状況がどういう状況かといえば、部屋に戻ってきた早々、ルディに右手をスポンジで洗われ、消毒液を掛けられ、今現在タオルでこすり続けられている。すでに皮膚が擦れて赤くなってしまっている。そこに、夕食を持ってきたファルが呆れたようにルディに声をかけたのだ。いい加減にしろと。
だけど、ルディの手が止まる様子がない。
ここは仕方がない。このままでは私の皮膚がめくれてしまいそうだ。
私はルディに向かってヘラリと笑いながら言う。
「ルディ。アンジュ、お腹すいたなぁ」
すると、ルディの手がピタッと止まった。何とか私の皮膚がタオルによって剥がれ落ちることを阻止することができた。
「そうだな。先に食事にしようか。その後もう一度「これ以上擦ったら皮膚が剥がれるよ!」···わかった」
ルディは諦めてくれたようだ。夕食を食べようとダイニングテーブルに向かおうとすれば、横から『もう一度洗って消毒を』という言葉が聞こえてきた。それ絶対にヒリヒリするやつだし。
「シュレイン。団長から説明に来るようにと連絡があった。まだ、第12部隊長が戻って来ていないから、シュレインから説明を受けたいそうだ。食事が終わってからでいいと言われた」
ダイニングテーブルに一人座ってさっさと食事を始めているファルからの言葉だ。一人だけ食べだしているなんてズルい!
私も夕食を食べるべく、自分の席につく。あれ?今日はいつもと違うメニューがある。
「団長からか」
「リュミエール神父と口裏を合わせたことを言えば大丈夫だろう。リュミエール神父がいるところで良かったな。そうじゃなかったら、偽装工作が難しかったぞ」
偽装工作?私がしでかしたことを隠蔽してくれたってこと?まぁ、あの場にいて現場を目撃した人が少なかっただろうし、何があったか知っている人が少なかったから、事実を捻じ曲げたってことかな?常闇は広がっておらず、今まで通り小さな常闇が森の中にあるだけと。
そう思いながら、私は目の前の白い物を見る。なんだか、俺は麦だぜという縦の線が見えるのは気の所為だろうか。
「ねぇ、これなに?」
私は麦だけの麦飯を指して言った。これ何で食べるわけ?絶対にパサパサしているでしょ。
「なんでも『聖女様』が食べたいと言ったらしい」
麦だけの麦飯を?何で、平皿に盛られた物がここにあるのだろう。聖女様に持って行けばいいじゃない。
「私、いらないけど?」
「いや、今日のメニューに入れられているんだ。聖女様の食べたい物を食べたいという要望に答えたらしい」
いらないよ。お米と混ぜるのなら美味しいかもしれないけれど、何をおかずに食べるの?だって、いつも通り切ってあるバケットがテーブルの上にあるし、麦飯の必要がない。
「アンジュ。この前作ったカレーだったか?それにこの様な物を食べていたのに、いらないのか?」
ルディが聞いてきたけど、ご飯と麦飯は違う。
「全然違うし、パンがあるなら、パンでいい。もち麦ならもう少しもちもちして、スープに入れるといいかもしれないけれど、麦飯だけなら、私は遠慮するよ」
あの聖女様は何を思って麦飯を食べたいって思ったのだろう?もしかして、王都から離れた村から来たって言っていたから、そこの村では普通に食べられているのかもしれない。うん!故郷の味は大切にしないといけないよね。
「話は変わるが、アンジュ」
ファルが私に話しかけてきた。何か言われるのだろうか?何か私やらかした?ここ2日程のことを思い返してみる。
神父様に喧嘩ふっかけて、酒吞と茨木の行動を勝手に変更させて、牛若丸(仮)を餌付けして、森を破壊して、大天狗を常闇に還した。···最後以外は怒られても仕方がないかもしれない。心を決めてルディの向かい側に座るファルを見る。
「3日後に公開演習がある」
ん?公開演習?初めて聞いた言葉だ。
「明後日は招待された外部の人達がこの聖騎士団の本部に入ることが許される。大体が家族を招待して、自分の成長を見てもらうという意味もあるが、貴族からすれば、結婚相手を探す場でもある」
何となくわかった。これはその日は外に出るなってことだね。いや、それは第13部隊も出るってことだよね。私にどうしろと?
「この公開演習に第13部隊は出ることはない」
出ないのか!じゃ、待機しておけってことだね。
「だが、入団して1年目の者は強制参加だ。そこで入団1年目の者たちの中で一番強い者を決める催しがある。ここで問題になるのが、アンジュは一年で将校になっているということだ。だから、序盤で敗退することは出来ないだが、優勝すると目立つ」
こ···これは勝つのも駄目、負けるのも駄目ってこと!最悪じゃない。で、どうするって?
「しかも、優勝者は挑戦したい部隊長を指名して対戦できる形式だ」
「え?部隊長と新人が戦うの?そんなの見世物でもなんでもないでしょ」
これはイジメに見えるほど、手足もでないのではないのだろうか。
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