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121 キャンディーと誓約

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 ひび割れた空が大きく裂け、何かが砕け散った。先程まで夕刻の空だったのに今は星空が輝く夜空に変わっている。あれ?時間がおかしい。二人と話していても、そこまでの時間は経っていなかったはず。

 そして、私は後ろに引っ張られ、いつの間にかルディに抱えられていた。

「どういうつもりだ!ヒューゲルボルカ!アストヴィエント!」

 魔王様が激おこだ。辺りは息苦しい程のルディの魔力に満ち溢れている。それも、ルディは二人に向かって抜き身の刀を向けていた。将校オフィシエ同士の私闘は禁止されていなかった?

「ほら、昨日の担当が第6部隊だっただろう?そこで、不可解なことがあったから、アンジュに聞いていたんだ。あの魔力はなんだってね」

 ヒューがこの息苦しい空間の中でも平気な顔をして、ルディに説明している。

「だからといって、空間の切り離すことまで、することはないよな」

 空間の切り離し!それは私達がいた空間とルディがいた空間を完全に切り離していたってこと?だから、時間感覚がおかしかった。
 それって現実的に可能?二重結界で空間断絶して時間遅延させるってこと?これ、意味ある?普通なら時間加速でしょ!

「それね。ヒューはシュレインの行動は読めるけど、アンジュの行動が読めないからね。ほら、アンジュって常識じゃない行動を起こすから、ヒューでも読み取れないんだ。そこはシュレインに止めてもらわないとね」

 私!!私の行動をルディに止めてもらうために時間加速ではなく、時間遅延をさせていたってこと!
 え?私そこまでおかしな行動をとってはいないよ。

「さっきも俺たちを殺そうとしていたけど、その方法が全く持って読めなかったんだ。アンジュ、さっきはどうやって俺たちを殺そうとしていたんだ?」

 ヒューの言葉にルディは圧迫的な魔力を抑え、私に視線を向けてきた。私が、ヒューとアストを殺そうと考えていたことに、きっと驚いたのだろう。
 どうやって殺すかって?それは秘密だよ。
 私は二人に向かってヘラリと笑う。

「という感じのアンジュだ。俺たちが何かする前に、アンジュの方が行動を起こしているだろう?」
「俺たちは不可解な原因が分かれば良かったから目的はとげたよ。ただ、アンジュと話をしていただけ、何もしていないよ」

 確かに話をしていただけだった。それもいつ結界を張られたか全く分からなかった。魔力が動いたようには思わなかったから、あの空間断絶の結界も聖痕の力なのだろう。
 でも、二人の能力は納得できるものだ。彼らはきっと世界に願ったのだろう。他人を拒絶する力を。他人を知ることで、自分たちの心を守る力を。

「アンジュ。それは本当のことか?」

 ルディに聞かれたけれど、本当のことなので、首を縦に振った。ただ、話をしていただけ。

「今回は許すが、次はないと思え」

 ルディが二人に向かって脅して、刀を鞘に収めている。
 はぁ、星が綺麗だね。私は空を見上げて現実逃避をするけど、口止め···どうしようか。同期なら、弱みの一つや二つを握っているけど、ヒューとアストの弱みなんて知らないよ。
 グルグルと思考を回してみるけど、いい解決方法が浮かばない。いや、貴族に手を出すと後がヤバイから、やっぱり自然死に見せかけるように···。

「アンジュ!」

 ヒューに名前を呼ばれて夜空からヒューに視線を向ける。すると呆れたような表情をしたヒューがいた。なに?
 だけど、動いたのはヒューではなくアストが私の方に歩いてきた。

「うんうん。お腹が空くと物騒なことを考えちゃうよね。はい、キャンディーあげる」

 アストはそう言いながら、丸く紙に包まれ両端が捻ってある物を渡してきた。いや、私そこまで子供じゃないし、やっぱりアストの中では私は幼子のままなのだろう。でも、くれるっていうなら、もらうけど。私は飴を受け取るように右手の手のひらを上にして差し出した。

 その手の上に飴を置いてくれると思っていたら、アストに手をくるりと反対に向けられた。それじゃ、飴が貰えないよ!

「ヒューゲルボルカ・エヴォリュシオン。アストヴィエント・エヴォリュシオンは太陽ソールの聖女の意に反することはないと、ここに誓約する」

 そう言って、アストは私の指先に口づけをしてきた。は?

「これで、安心した?」

 アストは再び手のひらを上にして飴を一つ置いて離れていく。
 え?いや、誓約ってそんなに簡単にすることじゃないと思う。というか、高位貴族には太陽の聖痕の持ち主がいるってバレバレってこと!!
 これは由々しき事態!目の中の聖痕は出すべきではなかった。

「シュレイン。アンジュをちゃんと見張っとけよ」

 ヒューはルディに声を掛けて、アストと一緒に去って行った。結局二人は、不可解なあの聖女の魔力の事を私に聞きたかったってこと?

「ルディ。ヒュー様とアスト様が···」

 ルディに視線を向けるとそこには私の右手をガン見して、アストからもらった飴を狙っているルディが居た。飴は私がもらったものだからね。取られない内に、私は飴の包み紙を開け、飴を口の中に突っ込んだ。
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