117 / 374
117 力技で解決?!
しおりを挟む「一つ言っておきたい。アンジュには感謝はしているが、強引な力が技には些か問題だと思っている」
そう言っているのは、淡い金髪で菫色の瞳を持った気だるそうな雰囲気をまとった人物だ。
ああ、この人は見たことある。普段はダルそうにしているのに、訓練中はキリリとした感じになって、そんなに訓練が好きなのかと思ってしまった。後でファルに聞いてみると、神父様に膨大な課題を与えられてから、訓練は真面目に受けるようになったらしい。
この人物がギルらしい。
というか先程から気になるのが、そのギルの斜め後で直立不動になっている人物だ。
まぁ、わかるよ。ルディの機嫌が悪いからね。そう、朝が早すぎたために、キルクスのケーキ屋さんはどこも開いていなかったのだ。しかし、遅くなると王都に着く時間も遅くなるため、北地区にある団長行きつけのリリーマルレーンのお菓子屋さんに行く約束をして、何とか第12部隊の駐屯地まで来たのだった。
だけど、ルディが機嫌が悪いことには変わらない。
「ガゼス兄。久しぶり!」
「おい!俺の話を聞いているのか?」
ギルに何か言われているけど、知っている人がいるなら、挨拶をするべきだ。
私が軽く挨拶をすると『ヒィッ!』と軽く悲鳴を上げ、ギルの背後に隠れてしまった。あれ?もしかして私が原因?
「え?なんで隠れるの?」
私が疑問を口にするとガゼスは床にしゃがみ込み、ギルが座っている長椅子の後ろに隠れてしまい、見えなくなってしまった。そ、そこまで私が嫌われている!何故に!
「なぁ、アンジュ。お前、ガゼスに何をしたんだ?お前への拒否反応が酷すぎるのだが?」
ギルに問われてみたものの、私がガゼスに何かをした?はて?
考えてみてもさっぱりわからない。すると、背後から扉が開く音が聞こえ、誰かが入ってきた。
「それは、アンジュちゃんの暴走の余波をくらったからよー」
後ろの扉から入ってきたのはリザ姉だった。あれ?なんでここにリザ姉がいるんだろう?
「リザ副隊長。余波ってなんだ?」
ギルがリザ姉に聞いているが、私には何が余波なのかわからない。いや、言葉の意味はわかるよ。だけど、ガゼスに何かした覚えはない。
「確か六年前だったかしら?冒険者ギルドでガゼスと数人とで依頼を受けた帰りね。冒険者ギルドに入ると騒ぎが起こっていて、その中心に焦げ茶色の髪の女の子とアンジュちゃんがいて、冒険者たちと言い合っていたのよね」
そ、それは10歳のときにカーラをかばっていたときの話では?
「口で敵わないと思ったのか、相手の冒険者達が、アンジュちゃんに拳を振り上げたのよ。その時私は逃げようって言ったのよ?でも、ガゼスと数人があれはヤバイって言って騒ぎの元に行ったのよ。何がヤバイって、勿論相手の冒険者達がボコボコにされる未来しかないってことね」
あ、うん。その時のことは覚えているよ?カーラのことを馬鹿にしていた冒険者達にカーラの何が悪いのか!人は見た目じゃない!っていい続けていたら、相手が私に向かって殴りかかって来たんだよね。
「案の定。アンジュちゃんは相手の冒険者をボコって、その騒ぎを聞きつけた他の冒険者たちも混じりだして、大乱闘の中に止めようとしていたガゼスたちも混じっていて、死屍累々をアンジュちゃんが生産していったのよ」
まぁ、その後神父様がやってきて、脱兎のごとく逃げ出したけれどね。
しかし、あの中にガゼスが混じっていただなんて知らなかった。向かってくる敵をぶちのめしていただけだったから、全然気づかなかったよ。
「アンジュ。もう少し周りを見ろ、どうせシュレインはお前の暴挙を許しているんだろう?」
いや、全く。色々小言を言われ続けているよ。
「でも、今回の事は神父様の許可がでました。怪我をするほうが悪いと」
私は反論する。恐らくギルが言いたいのは『旋風の静寂』のことなのだろう。今回は常闇から出てくるモノの被害を受けるか、私の攻撃で怪我をするかのどちらかの選択肢だった。
神父様は予測不可能な異界のモノによる被害よりも、私の攻撃でこの辺りに一帯にいる人を排除することを良しとしたのだ。
「いや、わかっているがな。あれを見てしまったからには、それが正しかったと理解してはいるが、納得はできない。もう少し自重しろ。あと···まぁ····なんだ」
ギルは突然歯切れが悪くなった。私に文句を言って、まだ何かを言うつもりなのだろうか。
「アンジュちゃん」
リザ姉が私の名を呼んだ。なんだろう?昨日王都にいたはずのリザ姉がここに居るのと何か関係があるのかな?
「お皿じゃないのね」
「は?」
「ぶぐっ!」
お皿って何?ファルは何故吹き出しているわけ?
リザ姉は手のひらを頭の上に掲げて、もう一度『お皿』って言った。これはまさか!私は思わずリザ姉の側に駆け寄る。
「見たの?」
「見たの」
「え?昨日王都にいたよね」
「ギルフォード副部隊長に呼び出されて丁度キルクスに着いたときだったのよね」
何と!!まさか、天使の聖痕を掲げた姿を他の誰かに見られていたなんて!!
20
お気に入りに追加
534
あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

初めから離婚ありきの結婚ですよ
ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。
嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。
ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ!
ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。

嫁ぎ先(予定)で虐げられている前世持ちの小国王女はやり返すことにした
基本二度寝
恋愛
小国王女のベスフェエラには前世の記憶があった。
その記憶が役立つ事はなかったけれど、考え方は王族としてはかなり柔軟であった。
身分の低い者を見下すこともしない。
母国では国民に人気のあった王女だった。
しかし、嫁ぎ先のこの国に嫁入りの準備期間としてやって来てから散々嫌がらせを受けた。
小国からやってきた王女を見下していた。
極めつけが、周辺諸国の要人を招待した夜会の日。
ベスフィエラに用意されたドレスはなかった。
いや、侍女は『そこにある』のだという。
なにもかけられていないハンガーを指差して。
ニヤニヤと笑う侍女を見て、ベスフィエラはカチンと来た。
「へぇ、あぁそう」
夜会に出席させたくない、王妃の嫌がらせだ。
今までなら大人しくしていたが、もう我慢を止めることにした。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。

【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~
瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)
ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。
3歳年下のティーノ様だ。
本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。
行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。
なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。
もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。
そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。
全7話の短編です 完結確約です。

もう一度あなたと?
キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として
働くわたしに、ある日王命が下った。
かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、
ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。
「え?もう一度あなたと?」
国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への
救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。
だって魅了に掛けられなくても、
あの人はわたしになんて興味はなかったもの。
しかもわたしは聞いてしまった。
とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。
OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。
どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。
完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。
生暖かい目で見ていただけると幸いです。
小説家になろうさんの方でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる