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115 双子の聖女
しおりを挟む「最悪ですか」
私が漏らした感想を神父様はニコニコとした笑顔で繰り返して言った。
「この古文書は城の地下の誰も入らないような迷宮の中で見つけたのですよ」
ん?迷宮?お城の地下が迷宮って、もしかしてダンジョンだったりして。
「ですから、一般的には知られていない話ですね」
「陛下を元に戻す方法が無いか王城中を探していたら、地下にダンジョンを見つけたんだ」
ファルが神父様の話に補足を入れてくれたけど、やっぱりダンジョンだった。お城の地下がダンジョンって面白そう!
「ほらダンジョンって普通には手に入らない薬草とかがあるって言うだろ?だから、そのダンジョンを攻略することにしたんだよ」
ファルは王様のために、危険を顧みずにダンジョンの探索をしたみたい。本当に王様が大好きなんだね。
「まぁ、結局スラヴァールを助けることに繋がるものは見つけられませんでしたが、迷宮のあちらこちらには古代に滅びた聖国エトワールのことが書かれた石板がありましてね。我々の考えが根底から覆されることばかりで、流石にあのときは驚きました」
あ、神父様でも驚くことがあったんだ。
「これは、彼らが行ってきたことに何も意味がないという腹立たしいを通り過ぎて、殺意しか出てきませんでしたね」
おっふ!ニコニコした顔で恐ろしいことを言わないでほしいよ。神父様。
ん~?これってもしかして、神父様は婚約者だった公爵令嬢のことが好きだった?
神父様が自分の感情を口にすることって無かったよね。いつもニコニコとした胡散臭い笑顔の仮面の下に感情が隠されてしまっていたから。
「そして、太陽の聖痕を持つものは、月の聖女に力を与えるために、王城に監禁するのが今までの常識です」
いきなり話が飛んでいったよ!!いや、話の流れから高位貴族の常識という話だと言いたい?
「その常識いらない!!監禁は駄目!」
「アンジュを監禁なんてさせませんよ」
私は隣で胡散臭い笑顔を浮かべながらいけしゃあしゃあと言うルディを睨みつける。私に物理的監禁物を付けたのは誰だよ!
あれ?でも、この話からするとおかしな事がある。
「200年前の聖女って誰?聖女メリアって誰のことを指しているの?」
「聖女メリアローズですよ」
神父様。そこの訂正はいいよ。私が名前を聞き取れないの知っているよね。
「聖女メリアローズは太陽の聖女の事です。そして、双子の姉のクレアリリーが月の聖女です。多くの書物に聖女として残されているのが姉のクレアリリーの事ですね」
双子!それは見た目も変わらず入れ替わりが容易だったのかもしれない。
「200年前のことなので書物に残されたことでしかわかりませんが、世界の4分の1を浄化したところで、太陽の聖女の力が枯渇したとありました。それからは、その血を残す役目を与えられましたが、力が枯渇したメリアローズは眠るように息を引き取り、クレアリリーは双子の妹の死と同時に殺されたと記されています。これが二人の聖女の結末です」
枯渇···それは枯渇もするでしょ!あんなに根こそぎ魔力を持っていかれたら身体が保たない。それを8年間も続けられたら、普通に死ぬよ!
いや、私が気づけたのは聖痕を出し入れしているからだ。常時、頭上に掲げたままだと気づかなかったのかもしれない。自分の魔力が空っぽだということに。
私が教えられた聖女の死はメリアのことで、ファルが言っていた殺された話はクレアのことだった。はぁ、これは兄ちゃんも怒るよ。二人の妹は別々に引き離され、同時に守ることもできず、高位貴族共の餌食になる悲鳴を聞き続け、最後には力を搾り取られ死んだ妹と己の未来を悲観し自決した妹の亡骸が視界に映し出されてしまったら、もう怒り心頭だよね。
それは200年経った今でもその怒りは鎮まることはないのだろう。
「はぁ····もう馬鹿ばっかり、ということがわかったよ」
私はため息を吐きながら神父様が話してくれた話の感想を言った。世界の悲鳴が聞こえない者たちばかりで構成された高位貴族がこの国を動かしているとすれば、それは意味のない行動にも気づけないのかもしれない。
「神父様。太陽の聖女は力を搾取されるって言ったけど、私が倒れるの見てわかったよね。魔力を根こそぎ取られ続けたら、それは寿命も縮まるよね」
ルディ。神父様の前で抱きかかえないでよね。今は寝て回復しているから、大げさに慌てないで欲しい。···ブツブツと耳元で『また、おいて逝くのか』とか言わないで欲しい。
「そうですね。あのときアンジュが倒れると言っていた意味がわかりませんでしたが、あそこまで魔力を絞り取られれば、生きているのが不思議だと言い換えたほうがいいでしょうね」
うぐっ!神父様の言葉に反応してルディの腕の力が増した。今食べた果物が出ていきそう。
神父様!それわざと言っています?
私はルディの腕をバシバシ叩きながら、目の前の胡散臭い笑顔を浮かべている神父様を睨みつけるのだった。
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