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106 死にそうだ(ギルフォードSide)
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第12部隊 ギルフォード副隊長 Side4
何とかガゼスを説得して戦線に戻ってもらった。ヤバかった。いくらリュミエール神父が来てくれようが、それまでこの均衡しつつ危うい状況が保てなくなるところだった。
それだけ将校の力というものは普通の騎士とは比べ物にならないほどの力を持っているのだ。
「ギルフォード。手伝いに来たぞ」
背後からは突然俺に声をかけてきたのは、ニヤニヤと笑みを浮かべる第13副部隊長のファルークスだった。その隣にはいつもなら人の良さそうな笑みを浮かべているのだが、今は何故か機嫌が悪そうな第13部隊長のシュレインがいる。
流石アンジュってことか。よくも悪くもシュレインの硬い臥城を切り崩してしまったのか。
「ファルークス。助かった。流石にこの数はきつかったんだ。しかし、シュレイン。アンジュが見当たらないようだが、側に置いていなくていいのか?」
俺は勝てる希望が見えて来たことで、軽口を叩いてしまった。
「どういう意味ですかねぇ」
「近くまでリュミエール神父が来てくださっているのだろう?アンジュってリュミエール神父のお気に入りだから····」
あっ、俺いらないことを言ってしまったのか?シュレインの機嫌の悪さが一気に悪化した。ファルークスを見ると『今その話をするんじゃない』という顔をしている。
もしかして、ここに来るまで何かあったのか?
「ギルフォード。お気に入りとはどういうことですかね」
笑っていない笑顔を浮かべていると、シュレインとリュミエール神父はよく似ていると思ってしまった。流石、曲者ぞろいの王族の血筋だ。
「ん···まぁ···あれだ。つい最近までリュミエール神父の腕を掴んで、街の中を歩いているアンジュを見かけたし、森の中で追いかけっこしてリュミエール神父に捕獲されているアンジュを見かけたし····リュミエール神父があれ程構うのはアンジュぐらいだろう?」
おぅ。ヤバいな。話さない方が良かったのか?ファルークスを見ると頭を抱えていた。
あと付け加えておくが、この間も魔術攻撃の手を止めてはいない。
「そうですか。それはさっさとこの場を片付けましょうか」
そう、シュレインが言葉を発した瞬間、地面から黒い槍が生えてきた。その黒槍に次々と刺さっていく漆黒の鳥共。
何だ?これは?こんなもの逃げ場なんて空に逃げるしかない。
流石にこれには敵わないと感じたのか、漆黒の鳥は空に向かって飛び、どこかに消え去ってしまった。そして、黒い槍に突き刺さった漆黒の鳥は不思議なことにバラバラと崩れていく。いや、鳥だったモノがただの羽となってしまった。
いったい何なのだ?異形のモノとはこういうものなのか?
「さて、ギルフォード。先程の話を詳しく教えてもらいましょうか」
敵がいなくなったとわかれば、恐いぐらいの笑顔を浮かべたシュレインが俺に詰め寄ってきた。周りでは喜びの勝鬨を上げているのいうのに、俺だけが背中に悪寒を感じ引き笑いを浮かべていた。
「何の話だ?シュレイン。悪いが俺は職務を全うしなければならない。他のところにも異形のモノがいるかもしれないからな。悪いが今度にしてくれ」
そうだ。けが人を引き上げさせて、死者を連れて帰らなければならない。今回の被害は甚大だ。
それに、他の場所にも異形のモノがいるかもしれない。ガゼスと動けるものを連れてこの森の中をくまなく探さないといけない。
シュレインが『それは仕方がないですね』と諦めてくれたとき、森中に声が突如として響き渡った。
『即刻撤退せよ!撤退だ!常闇が地面から漏れ出ている。動けない者を担いで撤退せよ!常闇に飲まれるぞ!』
アンジュの声だ。慌て地面を見るが、そんな様子は見られない。俺がアンジュの”撤退”という言葉に思案をしていると、ガゼスの声が辺り一帯に響き渡った。
「撤退だ!整列する必要はない!動ける者はけが人を背負って走れ!死んだ者はタグだけ持って帰れ!時間がないぞ!」
ガゼスが俺の代わりに命令を出していた。ガゼスには俺には見えない漏れ出ている常闇が見えているのだろうか。シュレインはどうなんだ?と問いかけようとして、シュレインがいた方に視線を向けて見たが、シュレインもファルークスもいなかった。
ああ、アンジュのところに向かったのか。
「ギルフォード副隊長!何ぼーっとしているのです!」
「ガゼス。俺には何も見えないのだが、お前には漏れ出ている常闇が見えるのか?」
俺は疑問に思っていることをガゼスに聞いてみた。
「そんなものは見えませんよ」
見えないのか!!じゃ、あの命令をなぜ出したんだ!俺は何も指示をしていないぞ。
「ギルフォード副隊長。あのアンジュが言ったのです。きっと碌でも無いことが起きるに決まっているじゃないですか」
おい、ガゼス。お前、本当にアンジュに何をされたんだ?まるで、決まっているかのように言い切ったよな。
まぁいい。こちらは死者もけが人も出ているので、敵がこのあたりに居ないのであれば一旦引くべきだ。
「ガゼス。この辺りに先程の敵は居ないのか?」
「いませんよ。本当に一体も存在しておりません」
一体もいないのか?あの漆黒の鳥は何だったんだ?意味がわからなすぎる。
しかし、撤退をするのであれば、早いことに越したことはない。
「殿は俺が勤めよう」
「お供します。先程の騎士ヨランダに先頭を駆けるように言っておきましたので」
いつの間にそんな指示を出したんだ。ガゼスのアンジュ拒否反応が酷すぎるという話か?
周りを見渡すと人影はまばらで、殆どの者達が駐屯地に向かって行ったようだ。いや、残っている彼らはここで使命を果たし命を落とした者たちだった。
連れて帰ってやりたいが、不確定要素が多すぎて彼らを連れて帰る余裕はない。漏れ出る常闇は俺の目にはわからないが、空気がピリピリしているのは感じ取れている。何かが起こる前兆のようだ。
俺とガゼスは一番最後に駆け出した。動けないほど怪我を負った者もいたが、誰かが担いで行ったのだろう。生きているものはこの辺にはいなさそうだ。
重い甲冑を身につけながら、身体強化を酷使し森を駆け抜けるのは、めっちゃつらい。普通は騎獣に乗って移動するのだ。だが、少数で騎獣で駆けるのであれば、この森の形状は問題ないのだが、大隊規模で動くには木々が密集しすぎて一定速度が維持できないため、森の外に騎獣を置いてきてしまったのが、痛手となってしまっていた。
けが人を運んでいる者達が遅れ始めた。交代で運んでいるものの少々きつい。いや、本当にここまで急ぐ必要があるのか?そう考えがよぎった瞬間、背後から強大な魔力が襲ってきた。その感覚に並走しているガゼスと顔を見合わせてしまった。顔を見合わせてもフルフェイスを被っているため、ガゼスの表情は伺いしれないが、これは知っている感覚だとお互い無言で示し合わせたのだ。
俺はすぐさま『響声』を施行する。
「『皆に告げる!背後からの衝撃に備えよ!着地に失敗すると死ぬぞ!受け身を取るのを忘れるな!繰り返す!背後からの衝撃に備えよ!!』」
その時背後から暴力的な力に背中を押され、空へと巻き上げられてしまった。アンジュ!!何事も力技で解決しようとするな!!いくらこの甲冑が耐衝撃、耐攻撃の魔術がかけられているとはいえ、何事にも限度はある。
そんな事を考えながら飛ばされている状況を確認するために周りに視線を向けると、後方にいた俺とガゼスと数人がかなりの高さまで巻き上げられてしまったようだ。だからこそ、上空から何も無くなった森の中央に亀裂が入っているのを目にしてしまった。常闇が開く、そんな瞬間を俺は目にしようとしているのだ。
なんて、なんて深い闇が亀裂の奥にあるのだ。まるでこれは声無き世界の悲しみが怒りが憎しみが愁いが満たされているかのようだ。
そして、世界は闇に侵食されてしまった。
闇が迫って来る。暴力的な力に煽られ、上空高く飛ばされれば、その後地面に落ちるしかない俺の背中に衝撃が走った。なんだ?地面と接触するにはまだ距離があったはずだ。
「ギルフォードか?」
その言葉に振り返ると、ワイバーンに乗ったまま飛ばされている俺を受け止めた隊長の姿があった。
「隊長。早くても夕刻に到着されるとばかりに思っていたのですが」
助かった。地面と激突することから助かったこともあるが、ここまで大事になってしまった事態を収拾するのは俺には荷が重すぎる。
「まずは状況把握をしたい。この場で報告しろ」
「はっ!」
取り敢えず俺は隊長の後に移動してもいいですか?隊長に抱えられているこの状況に俺の心が耐えられそうにない。
____________
ギルフォードって誰だよって思われた読者様、アンジュのドラゴンのトカゲ宣言を聞いた人です(笑)
長かったギルフォード視点終わりです。アンジュの評価が危険物扱いになっていますね。
そして、ルディはアンジュと神父の仲の良さを聞いて、ますます機嫌が悪くなった原因がここにありました(草)
何とかガゼスを説得して戦線に戻ってもらった。ヤバかった。いくらリュミエール神父が来てくれようが、それまでこの均衡しつつ危うい状況が保てなくなるところだった。
それだけ将校の力というものは普通の騎士とは比べ物にならないほどの力を持っているのだ。
「ギルフォード。手伝いに来たぞ」
背後からは突然俺に声をかけてきたのは、ニヤニヤと笑みを浮かべる第13副部隊長のファルークスだった。その隣にはいつもなら人の良さそうな笑みを浮かべているのだが、今は何故か機嫌が悪そうな第13部隊長のシュレインがいる。
流石アンジュってことか。よくも悪くもシュレインの硬い臥城を切り崩してしまったのか。
「ファルークス。助かった。流石にこの数はきつかったんだ。しかし、シュレイン。アンジュが見当たらないようだが、側に置いていなくていいのか?」
俺は勝てる希望が見えて来たことで、軽口を叩いてしまった。
「どういう意味ですかねぇ」
「近くまでリュミエール神父が来てくださっているのだろう?アンジュってリュミエール神父のお気に入りだから····」
あっ、俺いらないことを言ってしまったのか?シュレインの機嫌の悪さが一気に悪化した。ファルークスを見ると『今その話をするんじゃない』という顔をしている。
もしかして、ここに来るまで何かあったのか?
「ギルフォード。お気に入りとはどういうことですかね」
笑っていない笑顔を浮かべていると、シュレインとリュミエール神父はよく似ていると思ってしまった。流石、曲者ぞろいの王族の血筋だ。
「ん···まぁ···あれだ。つい最近までリュミエール神父の腕を掴んで、街の中を歩いているアンジュを見かけたし、森の中で追いかけっこしてリュミエール神父に捕獲されているアンジュを見かけたし····リュミエール神父があれ程構うのはアンジュぐらいだろう?」
おぅ。ヤバいな。話さない方が良かったのか?ファルークスを見ると頭を抱えていた。
あと付け加えておくが、この間も魔術攻撃の手を止めてはいない。
「そうですか。それはさっさとこの場を片付けましょうか」
そう、シュレインが言葉を発した瞬間、地面から黒い槍が生えてきた。その黒槍に次々と刺さっていく漆黒の鳥共。
何だ?これは?こんなもの逃げ場なんて空に逃げるしかない。
流石にこれには敵わないと感じたのか、漆黒の鳥は空に向かって飛び、どこかに消え去ってしまった。そして、黒い槍に突き刺さった漆黒の鳥は不思議なことにバラバラと崩れていく。いや、鳥だったモノがただの羽となってしまった。
いったい何なのだ?異形のモノとはこういうものなのか?
「さて、ギルフォード。先程の話を詳しく教えてもらいましょうか」
敵がいなくなったとわかれば、恐いぐらいの笑顔を浮かべたシュレインが俺に詰め寄ってきた。周りでは喜びの勝鬨を上げているのいうのに、俺だけが背中に悪寒を感じ引き笑いを浮かべていた。
「何の話だ?シュレイン。悪いが俺は職務を全うしなければならない。他のところにも異形のモノがいるかもしれないからな。悪いが今度にしてくれ」
そうだ。けが人を引き上げさせて、死者を連れて帰らなければならない。今回の被害は甚大だ。
それに、他の場所にも異形のモノがいるかもしれない。ガゼスと動けるものを連れてこの森の中をくまなく探さないといけない。
シュレインが『それは仕方がないですね』と諦めてくれたとき、森中に声が突如として響き渡った。
『即刻撤退せよ!撤退だ!常闇が地面から漏れ出ている。動けない者を担いで撤退せよ!常闇に飲まれるぞ!』
アンジュの声だ。慌て地面を見るが、そんな様子は見られない。俺がアンジュの”撤退”という言葉に思案をしていると、ガゼスの声が辺り一帯に響き渡った。
「撤退だ!整列する必要はない!動ける者はけが人を背負って走れ!死んだ者はタグだけ持って帰れ!時間がないぞ!」
ガゼスが俺の代わりに命令を出していた。ガゼスには俺には見えない漏れ出ている常闇が見えているのだろうか。シュレインはどうなんだ?と問いかけようとして、シュレインがいた方に視線を向けて見たが、シュレインもファルークスもいなかった。
ああ、アンジュのところに向かったのか。
「ギルフォード副隊長!何ぼーっとしているのです!」
「ガゼス。俺には何も見えないのだが、お前には漏れ出ている常闇が見えるのか?」
俺は疑問に思っていることをガゼスに聞いてみた。
「そんなものは見えませんよ」
見えないのか!!じゃ、あの命令をなぜ出したんだ!俺は何も指示をしていないぞ。
「ギルフォード副隊長。あのアンジュが言ったのです。きっと碌でも無いことが起きるに決まっているじゃないですか」
おい、ガゼス。お前、本当にアンジュに何をされたんだ?まるで、決まっているかのように言い切ったよな。
まぁいい。こちらは死者もけが人も出ているので、敵がこのあたりに居ないのであれば一旦引くべきだ。
「ガゼス。この辺りに先程の敵は居ないのか?」
「いませんよ。本当に一体も存在しておりません」
一体もいないのか?あの漆黒の鳥は何だったんだ?意味がわからなすぎる。
しかし、撤退をするのであれば、早いことに越したことはない。
「殿は俺が勤めよう」
「お供します。先程の騎士ヨランダに先頭を駆けるように言っておきましたので」
いつの間にそんな指示を出したんだ。ガゼスのアンジュ拒否反応が酷すぎるという話か?
周りを見渡すと人影はまばらで、殆どの者達が駐屯地に向かって行ったようだ。いや、残っている彼らはここで使命を果たし命を落とした者たちだった。
連れて帰ってやりたいが、不確定要素が多すぎて彼らを連れて帰る余裕はない。漏れ出る常闇は俺の目にはわからないが、空気がピリピリしているのは感じ取れている。何かが起こる前兆のようだ。
俺とガゼスは一番最後に駆け出した。動けないほど怪我を負った者もいたが、誰かが担いで行ったのだろう。生きているものはこの辺にはいなさそうだ。
重い甲冑を身につけながら、身体強化を酷使し森を駆け抜けるのは、めっちゃつらい。普通は騎獣に乗って移動するのだ。だが、少数で騎獣で駆けるのであれば、この森の形状は問題ないのだが、大隊規模で動くには木々が密集しすぎて一定速度が維持できないため、森の外に騎獣を置いてきてしまったのが、痛手となってしまっていた。
けが人を運んでいる者達が遅れ始めた。交代で運んでいるものの少々きつい。いや、本当にここまで急ぐ必要があるのか?そう考えがよぎった瞬間、背後から強大な魔力が襲ってきた。その感覚に並走しているガゼスと顔を見合わせてしまった。顔を見合わせてもフルフェイスを被っているため、ガゼスの表情は伺いしれないが、これは知っている感覚だとお互い無言で示し合わせたのだ。
俺はすぐさま『響声』を施行する。
「『皆に告げる!背後からの衝撃に備えよ!着地に失敗すると死ぬぞ!受け身を取るのを忘れるな!繰り返す!背後からの衝撃に備えよ!!』」
その時背後から暴力的な力に背中を押され、空へと巻き上げられてしまった。アンジュ!!何事も力技で解決しようとするな!!いくらこの甲冑が耐衝撃、耐攻撃の魔術がかけられているとはいえ、何事にも限度はある。
そんな事を考えながら飛ばされている状況を確認するために周りに視線を向けると、後方にいた俺とガゼスと数人がかなりの高さまで巻き上げられてしまったようだ。だからこそ、上空から何も無くなった森の中央に亀裂が入っているのを目にしてしまった。常闇が開く、そんな瞬間を俺は目にしようとしているのだ。
なんて、なんて深い闇が亀裂の奥にあるのだ。まるでこれは声無き世界の悲しみが怒りが憎しみが愁いが満たされているかのようだ。
そして、世界は闇に侵食されてしまった。
闇が迫って来る。暴力的な力に煽られ、上空高く飛ばされれば、その後地面に落ちるしかない俺の背中に衝撃が走った。なんだ?地面と接触するにはまだ距離があったはずだ。
「ギルフォードか?」
その言葉に振り返ると、ワイバーンに乗ったまま飛ばされている俺を受け止めた隊長の姿があった。
「隊長。早くても夕刻に到着されるとばかりに思っていたのですが」
助かった。地面と激突することから助かったこともあるが、ここまで大事になってしまった事態を収拾するのは俺には荷が重すぎる。
「まずは状況把握をしたい。この場で報告しろ」
「はっ!」
取り敢えず俺は隊長の後に移動してもいいですか?隊長に抱えられているこの状況に俺の心が耐えられそうにない。
____________
ギルフォードって誰だよって思われた読者様、アンジュのドラゴンのトカゲ宣言を聞いた人です(笑)
長かったギルフォード視点終わりです。アンジュの評価が危険物扱いになっていますね。
そして、ルディはアンジュと神父の仲の良さを聞いて、ますます機嫌が悪くなった原因がここにありました(草)
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