聖痕の聖騎士〜溺愛?狂愛?私に結婚以外の選択肢はありますか?〜

白雲八鈴

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100 私のドキドキを返せ!

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「そうですか。私はアンジュにお礼を言わなければなりませんね」

 神父様のその言葉に彼らから視界を外し、神父様を見る。神父様が私にお礼?!恐ろしすぎるのだけど?

「アンジュに言われなければ、私はこの場にいなかったですからね。アレ程のモノと戦えるとなると第12部隊でもほんの一握。いえ、アレを倒せるとなると部隊長総出するべき相手でしょう」

 え?そこまでのモノなの?あの大天狗って····。ルディとファルしか今ないけど大丈夫なの?

 私が再びルディたちに視線を戻そうとしていると

「ここにアンジュがいてくれたことに感謝を」

 へ?

「恐らく、アンジュが助言をしてくれなければ、第12部隊もシスターたちも冒険者たちも全滅でしたでしょう。そして、街の近くにあのようなモノが出現したとすれば、街はパニックに陥り、全てが後手後手に回っていたことでしょう」

 それは起こり得たかもしれない未来の話だ。そうならないために、私は覚悟を決めなければならない。

「神父様。お願いがあるのですが」

「何ですかね」

 私は大きく深呼吸をする。心臓がドキドキする。もし、神父さまが敵に回れば私に勝ち目がないことは明白だ。

「今から起こることに対して目を瞑ってくれませんかね」

「何をするつもりか聞いても良いですか?」

 何をするつもりか。それは勿論。

「あの異界のモノが行動不能に落ちれば、アレごと常闇を閉じます」

 言った。言ってしまった。ドキドキと煩い心臓を服の上から押さえながら、私は神父様の様子を伺う。
 ···普通だ。私の言葉に驚くこともなく。疑うこともなく。いつもと同じ胡散臭い笑顔を浮かべている。

「ええ、わかりました。いいですよ」

 は?

「え?驚くとかないのですか?」

「知っていましたよ?アンジュが天使の聖痕を持っているぐらい。だから、指輪を渡したのではないですか。いざとなったら使うようにと」

 知っていた?え?何で?私、バレるヘマなんてしてはいない。
 でも、あのときは『どうやら聖痕は2つ持っているようですね』と言っていたはず。だから、聖水の儀で使った茨の聖痕と重力の聖痕のみが知られてしまったと思ったのだ。
 いや、思わされてしまった。そう、神父様が断言するから、一番知られてはいけない天使の聖痕の存在は知られていないと、安心をしてしまった。あのニコニコとした笑顔の裏側を計り知れなかった私の落ち度だ。

「ぐふっ!」

 私は黒く染まった地面にうなだれてしまった。やっぱり、神父様恐いよ。私が教会を抜け出そうとしていたら、目の前に神父様がいることが何度あったことか。私の用いられる知識と魔力を総動員して忍者も真っ青の隠密行動をしてもバレてしまっていたのだ。まさか私が隠していた聖痕すらも知っていたなんて····神父様って何者?
 いや、先々代の大将校グラントフィシエということは最近知った。そして、聖騎士団で未だに異様に権力があることも、本来は王に立つ立ち場であったことも。
 だから、謎過ぎる。なぜ、ここで神父という立ち場で子供たちに聖騎士と成るすべを教えているのかと。
 だから、怖い。笑っている笑顔の奥にはどの様な感情を押し殺しているのだろうか。
 だから、恐ろしい。わからなすぎて恐いのだ。

「黙ってくれるのなら、私に言うことはありません···ん?」

 あれ?ふと、顔を上げて神父様を見上げる。
 あの呪いの指輪は私の立場を貴族から守れるようにくれたってことだよね。ということは···

「あの聖女の子も呪いの指輪を持っているってこと?」

「ふっ。アンジュ、呪いの指輪ではないですよ。レイグラーシアの指輪はアンジュだから渡したのですよ。逃げ道は作っておかないと、無理強いをするとアンジュは強行的な手段を取りそうですからね」

 それは私が暴走すると言っている?いや、確かに私は200年前の聖女と同じ立ち場にされたら、王都に常闇を出現させてやるとはいったものの。神父様は周りの被害を考えて指輪をくれたようだ。ルディへの嫌がらせでもなく、私への嫌がらせでもなかった。
 謎が一つ解けてすっきりした。

「ふふっ」

 珍しく神父様が声を上げて笑みを浮かべた。

「あのシュレインをアンジュはよくあそこまで変えてくれましたね」

「ん?私は変えていないけど?」

 私は決してルディを変えてはいない。ルディは心を閉ざいていただけ。ルディ自身を認めてあげて、周りの環境をぶん殴ってでも変えてあげればよかっただけ。
 変わったのは周りのルディの見る目と、ルディ自身がこれではダメだと思い、変わろうとしたこと。ただそれだけ。私はほんの少し····かなり手を出してしまったけれど、きっかけを作っただけに過ぎない。だというのに、ルディの私への独占欲が強すぎる。

 怖くて視線を向けられないけれど、ビシバシと遠くの方から視線を感じる。戦いに集中して欲しい。

「シュレインから睨まれていますから、そろそろ私も手伝ってきましょう」

 そう言って神父様は結界の外に出ていった。はぁ、私の心臓のドキドキは無意味だった。
 私のドキドキを返せ!あ、違った。これだと違う意味になりそう。


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