聖痕の聖騎士〜溺愛?狂愛?私に結婚以外の選択肢はありますか?〜

白雲八鈴

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98 大天狗

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 私は体内にある魔力を解放する。普段は使わないように体内の奥に押し込めた魔力を身体の外に出す。それは視覚化出来るほど白く溢れ出し、黒き霧さえも霞むほどに。

 それを森全体に広がるほどに一気に拡散させる。

「『旋風せんぷう静寂せいじゃく』」

 動と静は共存することができず、私を中心に同心円状の衝撃波が走った。その規模は森全体に起こり、土を剥がし、木々をなぎ倒し魔の物も動物も人も何もかもを吹き飛ばした。
 残ったのは荒れ果てた荒野と私と私の周りにいた5人のみ。

 少しやりすぎたかな?まぁ、後でファルに直して貰えばいいか。

「ファル様、あとで直してね」

「アーンージュー!!手加減というものを知らないのか!俺を便利に使おうとするな!」

 えー?別にそこまで本気じゃないし、ファルの緑の手って便利じゃない。自然破壊しても直ぐに元通り、素晴らしいよね。

 ん?あ····やばい。

「アマテラス!かなり近いぞ!」

「すぐそこまで来ているようです!」

 大天狗の『若ー!!』の声がすぐそこで聞こえてきた。空間が軋みだす。まるで世界が悲鳴を上げているようだ。ギギギギギと空間が渦を巻きはじめた。

 その空間から距離をとるように5人が一斉に走り出す。あのー、私を下ろしてもらえない?だめ?

 空間の歪みが大きくなり、それと伴うように黒い霧の量が増えてきた。歪みが大きくなり、膨らみ、歪に蠢き出す。まるで空間から何か生み出されるように見えてしまう。

 そして、空間に亀裂が入る。亀裂から覗くのは深淵を映しているかのような深い闇だった。

「来る」

 私がそう言葉を漏らした瞬間、亀裂が大きく裂け、闇が世界を侵食した。いや、私達が常闇に飲まれたのだ。

『若ー!!じぃが迎えに来ましたぞー!どこにいるのですじゃー!!』

 その闇を切り裂くような叫声が響き渡った。声が大きすぎて煩い。

『若ー!』

 世界の穴を通り、空間を切り裂いて出てきた者は10メルメートルはあるだろうか。山伏の衣装を身にまとい、背中に黒い翼を生やし、赤ら顔の鼻の長いモノが存在していた。昔話に出てくる天狗と呼ばれるモノの姿だった。

 黒き闇が足元を覆い、黒い霧が視界を濁し、森であった場所が全て常闇に侵食されてしまった。その中にいるのは私達6人と大天狗だけだ。
 だから必然的にその大天狗の目は私達を捉えた。

『おお!そこにおるのは、赤鬼と青鬼ではないか!』

 視界に捉えられる距離にいるというのに大声で大天狗は酒吞と茨木に声をかけてきた。面識があるのは偽りではなかったようだ。いや、その前に声が大きすぎて耳が痛い。

『若を見かけんかったかのぅ!』

「若って誰のことだ?大天狗のじじぃ」

『若は若じゃ!』

 酒吞と大天狗の会話が微妙に噛み合っていない。若という者が牛若丸(仮)であっているのか確認をしたいというのに、大天狗の中では若の存在は誰でも知っているだろうという固定概念があるようだ。

「恐らく、その若という者は鞍馬山に帰ったと思われますよ」

 茨木が若という者は帰ったからお前も帰れと匂わせたけれど、大天狗は目をカッと見開きその言葉を否定をした。

『そんなはずはない!きっと若は迷子になって泣いておられるはずじゃ!』

 いや、牛若丸(仮)は拗ねていただけで、泣いてはいなかったよ。はぁ、こういう人の話を聞かずに決めつける人を納得されることは一筋縄ではいかないよね。
 私がどうしたものかと首を捻っていると、大天狗はなぜだかワナワナと震えだした。

『若の····若の···ワカー!!』

 空をつんざくような叫声が響き渡る。

 何!何があったの?大天狗の手には何かを握っているようだ。あまりにも巨体すぎて何を持っているのかわからないけど、何かを指先につまんでいるように見える。そして、ハラハラと空から落ちてくるものがある。黒い羽だ。

 先程私が森ごとぶっ飛ばすときに、地面をもめくりあげて、カラス天狗だった羽が上空に舞い上がったものが、今落ちて来たのだろう。

 ん?落ちてきた黒い羽の元は確か牛若丸(仮)の翼だったような····?
 なんだか凄い勘違いをしてしまっているような気がする。

 大天狗は私達をギッと睨みつけ、声とも音とも言えない喊声かんせいが世界を震えさせた。

『貴様らが!貴様らが!若を!!』

 思いっきり勘違いしているようだ。私はちらりと酒吞と茨木を見てみる。顔見知りの君たちが何とか説得をして欲しいという視線を投げかける。

 しかし、酒吞は大太刀を大天狗に向かって構えており、茨木は私の視線を感じてこちらを見たものの首を横に振った。

 彼らは初めから大天狗を説得するつもりはないようだ。なんとなくはわかってはいた。
 人の話を聞かない頑固じじぃっているよね!私はため息を吐きながら、ルディの腕と叩いた。いい加減に下ろして欲しいと。
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