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94 新作のお菓子があるのですけどねぇ
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私はルディに抱えられ、森の中を散策中。なぜ、抱えられているかって?勝手な行動の防止らしい。そんなに勝手な行動はしないよ?多分。
しかし、私の前方の視界は不良だ。なぜなら、大太刀を持った巨漢が先頭を歩き、その横を麗人が刀を振って進んでいるからだ。
最初はゴブリンやコボルトが何から逃げるように向かって来ていたようだけど、今は背中に鱗がある熊の熊獣や背中に棘が生えている豚鼠が襲って来ている···らしい。巨漢の所為で、前方不良なので、死骸で判断するしか私にはできない。ここまではいつもの森の深部姿だ。ただ、森の強者に位置する熊獣でさえ、逃げてきているようなので、更に奥には強敵がいるようだ。
しかし、私が普段立ち入らない森の奥まで来たというのに、騎士の姿も冒険者の姿も見かけない。
「ねぇ、こっちの方向であっているの?全然人に会わないけれど?」
「常闇が移動していなければ、合っているはずだ」
「え?ファル様。常闇って移動するの?」
「あ?ここの常闇は移動型だ」
常闇が移動?あの黒い穴が移動する!?
その言葉に私は開いた口が塞がらなくなった。あの穴を一度閉じたからわかる。
あんな深い世界の穴が移動ってあり得ないのだけど?世界に傷をゴリゴリ付けていることに等しいと思う。だけど、ここは近い距離に2つも常闇がある。もし深部でつながっていて、出口が一部だけ開く仕組みだとすれば·····森全体が常闇ということになってしまう。
そんなことを考えてしまって、ぶるりと震えてしまった。何かをきっかけにガダが外れて常闇の全貌が明らかになれば、キルクスの直ぐ側に巨大な常闇が出現するということになってしまう。
「酒吞!茨木!この森の中を自由に行動して魔物を駆逐していって!」
「あ?突然どうしたんだ?」
「まぁ、それは構いませんよ?」
「常闇が移動するよりも、森全体が常闇で出口が所々に開くって言う方が納得いくから」
「じゃ、ちょっと行って暴れてくるかー」
「どちらが多く倒せるか競争しましょう!」
そう言って、鬼の二人は駆けていった。私は視界が良好になって満足だよ。
「アンジュ。今のはどういう事だ?」
「ルディ。ちょっと下ろしてほしいな」
「アンジュ。説明」
くっ。下ろしてもらえないのか。説明って言われてもただ単に
「常闇ってとっても深いんだよね。それが移動するってなると、このあたりの空間の歪みがすごいことになりそうだなって思っただけ、それよりも巨大な常闇の出口が所々に開くっていう方が納得いくかな?」
「いや、それはアンジュが納得するだけだよな」
まぁ、そうなんだけどね。ファル。真実は蓋を開けてみないとわからないけれど、もし蓋が開いてしまったら、それは正に地獄かもしれない。
「それは森の全てが常闇だとアンジュは言っていますか?」
「ふぉ!」
背後から神父様の声が!!幻聴が!とうとう私に悪魔神父の幻聴が聞こえるまでになってしまった。
「「リュミエール神父!」」
ルディが立ち止まって振り返ると、そこには、幻聴でも幻覚でもなく本物の神父様がいた。
「では、常闇が全貌を現すときはいつだと思いますか?」
突然現れた神父様がニコニコと人のいい笑顔で聞いてきた。常闇の全貌?
「いや、私に聞かれてもわからないよ」
「実は、『レメリーゼ』の新作のお菓子があるのですけどねぇ」
私に紙袋を差し出す神父様。『レメリーゼ』はキルクスで一番人気のお菓子屋の名前だ。その紙袋をガシリと私は掴む。けれど、神父様もニコニコとした笑顔のまま紙袋を手放さない。
「考えられるのは大物が出てこようとして、穴を広げるか。ある一定量の魔物を吐き出して、次元を超える穴に至ったときじゃないかな?」
私は紙袋を離さないまま答えた。すると、その答えで良かったのか神父様の手が紙袋から離れる。その紙袋の中を開き、覗き込むと秋の木の実を混ぜ込んだ焼き菓子だった。一つ取ってかぶりつく。柔らかくさっくりとしたクッキー生地に香ばしい木の実が練り込んであり、あっさり風味のクリームがニ枚のクッキー生地でサンドしてあった。
「はっ!レメリーゼの夏の新作を食べそこなった!今年はシャーベットにするって言っていたのに!」
いや、これも美味しいからまあ良い。袋からもう一つ取り出して、かぶりつく。
しかし、なんだか空気が悪い。横目でちらりとファルをみると、青い顔で視線を左右に動かしている。神父様とルディの様子を伺い見ているだようだけど、神父様もルディも胡散臭い笑顔を浮かべていることに変わりはない。
「あ·····あの。それでリュミエール神父は何故こちらの方に?」
ファルが勇気を振り絞って神父様に質問したようだ。
「ええ、森の奥の常闇の確認に来たのですが、森全体が常闇という話だと、これは考えなければならないと思いましてね」
そう言って神父様は私達が目指していた進行方向を指して言う。
「この先で多くの者が戦っているので、この先に常闇があることに間違いはないようですが、森全体でみますと所々で戦っているようですね。その数が多いことが気になっていたのです」
え?神父様ってそんな広範囲のことも把握できるの?それをしようと思えばどうすればいい?
「しかし、森全体が常闇だというのであれば、納得ではありますね。ですが、どこを優先すべきか考えなければなりませんね」
しかし、私の前方の視界は不良だ。なぜなら、大太刀を持った巨漢が先頭を歩き、その横を麗人が刀を振って進んでいるからだ。
最初はゴブリンやコボルトが何から逃げるように向かって来ていたようだけど、今は背中に鱗がある熊の熊獣や背中に棘が生えている豚鼠が襲って来ている···らしい。巨漢の所為で、前方不良なので、死骸で判断するしか私にはできない。ここまではいつもの森の深部姿だ。ただ、森の強者に位置する熊獣でさえ、逃げてきているようなので、更に奥には強敵がいるようだ。
しかし、私が普段立ち入らない森の奥まで来たというのに、騎士の姿も冒険者の姿も見かけない。
「ねぇ、こっちの方向であっているの?全然人に会わないけれど?」
「常闇が移動していなければ、合っているはずだ」
「え?ファル様。常闇って移動するの?」
「あ?ここの常闇は移動型だ」
常闇が移動?あの黒い穴が移動する!?
その言葉に私は開いた口が塞がらなくなった。あの穴を一度閉じたからわかる。
あんな深い世界の穴が移動ってあり得ないのだけど?世界に傷をゴリゴリ付けていることに等しいと思う。だけど、ここは近い距離に2つも常闇がある。もし深部でつながっていて、出口が一部だけ開く仕組みだとすれば·····森全体が常闇ということになってしまう。
そんなことを考えてしまって、ぶるりと震えてしまった。何かをきっかけにガダが外れて常闇の全貌が明らかになれば、キルクスの直ぐ側に巨大な常闇が出現するということになってしまう。
「酒吞!茨木!この森の中を自由に行動して魔物を駆逐していって!」
「あ?突然どうしたんだ?」
「まぁ、それは構いませんよ?」
「常闇が移動するよりも、森全体が常闇で出口が所々に開くって言う方が納得いくから」
「じゃ、ちょっと行って暴れてくるかー」
「どちらが多く倒せるか競争しましょう!」
そう言って、鬼の二人は駆けていった。私は視界が良好になって満足だよ。
「アンジュ。今のはどういう事だ?」
「ルディ。ちょっと下ろしてほしいな」
「アンジュ。説明」
くっ。下ろしてもらえないのか。説明って言われてもただ単に
「常闇ってとっても深いんだよね。それが移動するってなると、このあたりの空間の歪みがすごいことになりそうだなって思っただけ、それよりも巨大な常闇の出口が所々に開くっていう方が納得いくかな?」
「いや、それはアンジュが納得するだけだよな」
まぁ、そうなんだけどね。ファル。真実は蓋を開けてみないとわからないけれど、もし蓋が開いてしまったら、それは正に地獄かもしれない。
「それは森の全てが常闇だとアンジュは言っていますか?」
「ふぉ!」
背後から神父様の声が!!幻聴が!とうとう私に悪魔神父の幻聴が聞こえるまでになってしまった。
「「リュミエール神父!」」
ルディが立ち止まって振り返ると、そこには、幻聴でも幻覚でもなく本物の神父様がいた。
「では、常闇が全貌を現すときはいつだと思いますか?」
突然現れた神父様がニコニコと人のいい笑顔で聞いてきた。常闇の全貌?
「いや、私に聞かれてもわからないよ」
「実は、『レメリーゼ』の新作のお菓子があるのですけどねぇ」
私に紙袋を差し出す神父様。『レメリーゼ』はキルクスで一番人気のお菓子屋の名前だ。その紙袋をガシリと私は掴む。けれど、神父様もニコニコとした笑顔のまま紙袋を手放さない。
「考えられるのは大物が出てこようとして、穴を広げるか。ある一定量の魔物を吐き出して、次元を超える穴に至ったときじゃないかな?」
私は紙袋を離さないまま答えた。すると、その答えで良かったのか神父様の手が紙袋から離れる。その紙袋の中を開き、覗き込むと秋の木の実を混ぜ込んだ焼き菓子だった。一つ取ってかぶりつく。柔らかくさっくりとしたクッキー生地に香ばしい木の実が練り込んであり、あっさり風味のクリームがニ枚のクッキー生地でサンドしてあった。
「はっ!レメリーゼの夏の新作を食べそこなった!今年はシャーベットにするって言っていたのに!」
いや、これも美味しいからまあ良い。袋からもう一つ取り出して、かぶりつく。
しかし、なんだか空気が悪い。横目でちらりとファルをみると、青い顔で視線を左右に動かしている。神父様とルディの様子を伺い見ているだようだけど、神父様もルディも胡散臭い笑顔を浮かべていることに変わりはない。
「あ·····あの。それでリュミエール神父は何故こちらの方に?」
ファルが勇気を振り絞って神父様に質問したようだ。
「ええ、森の奥の常闇の確認に来たのですが、森全体が常闇という話だと、これは考えなければならないと思いましてね」
そう言って神父様は私達が目指していた進行方向を指して言う。
「この先で多くの者が戦っているので、この先に常闇があることに間違いはないようですが、森全体でみますと所々で戦っているようですね。その数が多いことが気になっていたのです」
え?神父様ってそんな広範囲のことも把握できるの?それをしようと思えばどうすればいい?
「しかし、森全体が常闇だというのであれば、納得ではありますね。ですが、どこを優先すべきか考えなければなりませんね」
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