聖痕の聖騎士〜溺愛?狂愛?私に結婚以外の選択肢はありますか?〜

白雲八鈴

文字の大きさ
上 下
87 / 374

87 死の浄化

しおりを挟む


 食後の後、侍従シャンベランにしつこく守り石が欲しいと言われ続けたので、魔石を用意してくれたのなら作ってあげると言えば、思わぬところから、言葉が降ってきた。

「アンジュ。あのドラゴンの魔石はどうした?」

 隣のルディを仰ぎ見て、首を傾げる。ドラゴンの魔石?私は肉の指示しかしていなかったから捨てられたんじゃない?

「酒吞に聞いてくる」

 いったい何に使うつもりなのだろうと、私は隣の居間兼プレイルームに行ってみる。すると、何やらティオと酒吞が言い合っていた。いや、正確にはティオが酒吞に文句を言っていたのだ。

「何かあったの?」

「こいつら見習いのクセにすっげえー食ってるっすから、文句言ってるっす!」

 ああ、鬼だものね。それは食べるでしょう。

「だから、多めに用意していたのだけど、足りなかった?」

 私は鬼の二人に聞いてみる。茨木は食後のお茶を飲んでいるけれど、酒吞の方はまだ肉を食べていた。

「私は十分でしたよ?」
「この肉うめーな。いくらでも食える」

 ドラゴンの肉をいくらでも食べれるなんて羨ましい。周りを見てみると、シャールは部屋の隅にある長椅子で寝そべっていた。ヴィオとミレーはドラゴンの鱗をテーブルの上に並べて、売る算段をしているようだ。文句を言っているのはティオ一人で、まだ、ドラゴンの肉は皿の上に残っている。量的には問題が無いようだけど、何がいけないのだろう。

「ティオは食べる量が多すぎると言っているの?」

「少しは上官に配慮しろと言っているっす!」

 私は鬼の彼らを見る。うーん。

「無理じゃない?だって、ティオって彼らより弱いもの」

「····弱い。俺、弱いっすか?」

 あ、なんだか凄く落ち込んでしまった。それは仕方がないと思うよ。だって、彼らは常闇から出てきた鬼だからね。
 まぁ、落ち込んだティオは放置して、私は未だに食べ続けている酒吞に話しかける。

「ねぇ、酒吞。解体しているときに、赤い石みたいなの出てこなかった?」

「あ、それありましたよ?」

 酒吞が答えず、茨木が教えてくれた。

「それ、何処にある?」

「何も言われなかったので、穴の中に」

「「「え!穴の中!!」」」

 私ではなく、ティオとミレーとヴィオが反応した。私としては、何も言ってはいなかったので、処分する穴の中にあるかなとは思ってはいた。なぜなら、彼らに魔石の概念はないのだから。

「わかった。ありがとう」

「いえいえ、どう致しまして」

 私は、その足で居間兼プレイルームの外に出る。そして、外に出て屋敷の近くに掘った穴に向かう。
 穴の中を覗き込むと、内臓の毒素が徐々に出てきたのか、紫色の血の池に骨が浮き、皮や鱗が垣間見える正に血の池地獄になっていた。

 さて、ここからどうやって、魔石を取り出すか。腕を組んで下を見ながら考える。赤いドラゴンは火竜だ。ということは火に耐性がある。

 よし。

「『死を浄化する冥府の炎』」

 穴に向って手をかざすと、青白い炎が穴の中を満たした。じーと穴の中を観察してみる。血の池が骨が臓物が次々に青白い炎に飲み込まれていく。

 あ!あった!

 私は青白い炎の中に飛び込んだ。この炎は熱くはない。何故なら、死したモノだけを燃やすものだから。魔物を討伐した後って後始末に困るよねと思って、作った魔術だ。
 普通なら一瞬にして燃えきってしまうけれど、火竜は思っていたように火に耐性があるようで、燃えきるまで時間がかかるようだ。穴の底に転がっている赤い石を手に取り、燃えないように結界を張る。

 そして、穴の外に向って跳躍をして、穴のヘリに右手を掛け、地上に出ようとさらに腕に力を····。
 何故か、首根っこを引っ張りあげられた。

 目の前にはご機嫌ナナメな魔王様がいらっしゃいました。そのまま私は抱えられ屋敷の中に連れ込まれてしまった。

 え····魔石が欲しいって言っていたルディがなんで機嫌が悪いの?
 そして、私は抱えられたままダイニングに連れていかれ、そのままルディの膝の上に鎮座させられた。

 魔王様が何を怒っていらっしゃるのかわからないので、私は無言のまま人の頭部より一回り小さな赤い魔石をテーブルの上に置く。

「で、持って来たけど?」

「アンジュ。お前何をした?」

 ファルが呆れたように言ってきたけれど、何をしたもなにも、魔石を取ってきただけだけど?

「青い火を出していたよな?」

 出していたけど?ふと、横目でダイニングの窓の外を確認してみると、あ····ここから丸見えだった。やっば!青い火って使っては駄目だった。

 私はへらりと笑う。

「アンジュ。なぜ、火の中に飛び込んだ?」

 お怒りの魔王様からのお言葉だ。なぜって、魔石を取りに行くためって言ったらやっぱり怒られるよね。普通の火は燃えるものだからね。
 はぁ、なんだかルディを怒らせてばかりだ。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

初めから離婚ありきの結婚ですよ

ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。 嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。 ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ! ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。

嫁ぎ先(予定)で虐げられている前世持ちの小国王女はやり返すことにした

基本二度寝
恋愛
小国王女のベスフェエラには前世の記憶があった。 その記憶が役立つ事はなかったけれど、考え方は王族としてはかなり柔軟であった。 身分の低い者を見下すこともしない。 母国では国民に人気のあった王女だった。 しかし、嫁ぎ先のこの国に嫁入りの準備期間としてやって来てから散々嫌がらせを受けた。 小国からやってきた王女を見下していた。 極めつけが、周辺諸国の要人を招待した夜会の日。 ベスフィエラに用意されたドレスはなかった。 いや、侍女は『そこにある』のだという。 なにもかけられていないハンガーを指差して。 ニヤニヤと笑う侍女を見て、ベスフィエラはカチンと来た。 「へぇ、あぁそう」 夜会に出席させたくない、王妃の嫌がらせだ。 今までなら大人しくしていたが、もう我慢を止めることにした。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~

瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)  ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。  3歳年下のティーノ様だ。  本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。  行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。  なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。  もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。  そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。  全7話の短編です 完結確約です。

もう一度あなたと?

キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として 働くわたしに、ある日王命が下った。 かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、 ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。 「え?もう一度あなたと?」 国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への 救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。 だって魅了に掛けられなくても、 あの人はわたしになんて興味はなかったもの。 しかもわたしは聞いてしまった。 とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。 OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。 どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。 完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。 生暖かい目で見ていただけると幸いです。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」  王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。  偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。  ……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。  それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。  いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。  チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。  ……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。 3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

処理中です...