聖痕の聖騎士〜溺愛?狂愛?私に結婚以外の選択肢はありますか?〜

白雲八鈴

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83 肉の解体は···

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 魔王様が降臨されてしまった。私の武器は未だに肩に担いだ戦斧だけだ。戦えるか。

「アンジュ。いったい何をしたのですか?」

 胡散臭い笑顔で、背中に禍々しいオーラを背負わないでほしい。その背後に銀糸も····銀糸?

 思わずルディに駆け寄り、背後に回り込む。私はルディの背後を見て目を見張った。とても美しい人が立っていたのだ。
 白銀の髪に空を写した青い瞳。驚いたように見開いた目を私に向けている。あの白銀の王様にそっくりだけど別人だ。だって彼の足元には血の海はない。

「王様だ。こっちが本物だ」

 私は素直にそう思った。あの血の海の中にいた人物のことは絶対に王様と認めたくないと思っていたけれど、私の目の前にいるこの人が王様なら納得できる。

 一人納得していると私と白銀の人物の間にルディが割り込んできた。私はルディの背に庇われている形だけれども、折れた風の左腕が、がしりとルディに掴まれていた。 

「なぜ、ついて来たのですか」

「それはシュレインが話の途中で消えようとしたからだよね」

 今日はあの聖女様を聖女として承認するから王城に行くって言っていたのに、王様がここにいていいのだろうか。
 あ、影武者がいるからいいのか。

「話すことはもう何もなかったはずです」

「クスッ。ドラゴンが何処に消えたかとかだね」

 白銀の人の言葉に私は慌てて言った。

「ドラゴンのお肉は私の物だからね!」

 私の言葉にルディが振り向きざまに呆れた視線を向けてくる。何?その目。

「もしかして、アンジュはドラゴンの肉が食べたい為にあんな無茶をしたのですか?」

 え?無茶じゃないし。

「何処が?」

 私がルディの言葉に疑問に思っていると、茨木から声を掛けられた。

「アンジュ様。血抜きが大方終わったようですよ」

「よし!解体を始めよ···」

 私は踵を返そうと···はっ!ルディに腕を掴まれていたままだった。
 じっと離して貰えるようにルディを見てみる。
 折れた風の腕を揺すってみる。駄目か。

「ドラゴンの肉は解体が命。内臓の毒が肉に染みるまでに解体すべき」

 真剣な目で訴えるように言うと、ルディから盛大なため息がこぼれ出て、腕を離してくれた。

 私は足取り軽くドラゴンの元に向かっていく。それと入れ違いに、ファルがルディの所に向って行く姿が見えた。

「よし!茨木。ここを鱗ごと皮だけを冷やしながら切って」

 私は横たわったドラゴンのお腹を喉元から尻尾の付け根までを一直線に示しながら、指示をした。

「冷やしながらですか?」

「ん?以前の解体したときのドラゴンの毒袋が火袋と接触して爆発しそうになったのよね」

 あの時は凄く焦った。毒袋から煙が上がっていて何かと思えば隣にあった火袋に接触していたのだった。直ぐに冷やしたからなんとも無かったけれど、気がつくのが遅かったら、猛毒を辺りに撒き散らすところだった。

「取り出した内臓はそこの穴に入れておいて」

 そう言って私は後ろに回り込み、酒吞を手招きする。

「この尾を骨ごと切って」

「いいぞー」

 酒吞によって太いドラゴンの尾がキレイに胴体から離れた。

「ほら、そこの4人もドラゴンのお肉食べたかったら手伝うよ」

 私は遠巻きに見ているティオとミレーとヴィオとシャールにも手招きをする。ドラゴンは大きいから人手がいるのだ。若干腰が引けた4人に切り離された尾を示して

「お肉から骨と皮を取り除いて」

「その言い方、おかしいっす」
「まずは皮を鱗ごと剥がせばいいのかしら?」
「僕まだ腕の骨が折れているのだけど」
「う~。こ···この、うう鱗だけでも売れるのに」

 なんだかんだ言いながらも、四人は手伝ってくれている。ドラゴンの尾の肉はやっぱりスープかな?

「内臓を取り除きましたよ」

 早っ!茨木、仕事が早いよ。私が以前内臓を取り除いたときは体液まみれになったのに、隊服も髪も綺麗なままの茨木の姿が見える。どうやって、取り除いたのだろう。

 私は横たわったドラゴンの腹側に立ち、戦斧を構え、ドラゴンに向ってジャンプする。骨を切らない様にまずは背骨から腹にかけて、なるべく肋骨と平行に一直線に切り目を入れる。1メルメートルほど開けて同じ様に切れ込みを、体全体を使って勢いよく切れ込みを入れる。そして、背骨まで跳躍して、先程いれた切れ込みとは垂直に戦斧の刃をいれ肋骨に刃を沿わすようにしながら、肉をこそげ取る···あ、いや切り取るだった。これで、とても大きな肉の絨毯···肉の塊が出来上がった。

「酒吞、こんな感じで、肉を解体していって」

 と言いつつ、私が持っている戦斧を渡す。『りょーかい』と言って斧を受け取った酒吞を見てみるが、酒吞が巨大な斧を持っていてもなんの違和感もない。普通の感じだ。

 力仕事の肉の解体は酒吞に任せておいて、私は肉の塊を右手で担ぎ、ポツンと一軒家に向って行く。

 やっぱり、味見はすべきだよね。じゅるり。
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