聖痕の聖騎士〜溺愛?狂愛?私に結婚以外の選択肢はありますか?〜

白雲八鈴

文字の大きさ
上 下
82 / 368

82 『私がドラゴンを倒しましょう』(玉座の間 Side)

しおりを挟む
玉座の間 Side

 歓声が沸き起こっている。その大きさは割れんばかりだ。耳が痛くなると、白銀の王は思わず顔をしかめる。

 隠し部屋は玉座の間の全体が見える高いところに配置してあった。眼下を見下ろすと、一人の少女を中心として、きらびやかな人々が囲い込み、まるで彼女に向って褒め称えているようだ。

 白銀の王は意味がわからず、首を傾げ隠し部屋から言葉を送る。己の弟であり、この場の事を見聞きしていたはずのフリーデンハイドにだ。

『フリーデンハイド。何があった』

 白銀の王は念話を使ってフリーデンハイドに語りかけた。彼は生ける屍となりながらも、己の言葉を他人に伝えるために、もがき苦しみから生み出した方法だった。

 その言葉が聞こえたフリーデンハイドは顔を上げ、隠し部屋の方を見て、一つ頷いてから、人々の目を盗んで玉座の間から姿を消した。

 暫し待つと、扉のない部屋の壁が開き、水色の髪の人物が入ってきた。それも珍しく笑いを押し殺したような、顔をしながら入って来たのだ。

「私には理解不能なことが起きていまして、どうしたものかと、ふふふ」

 いや、笑いが漏れていた。

「それで何かあった?」

 白銀の王はフリーデンハイドに尋ねる。尋ねられたフリーデンハイドは白銀の王の背後にいた己のもうひとりの兄を見た。

「シュレイン兄上。あのドラゴンに張り付いていたのは、兄上の婚約者の将校オフィシエアンジュで間違いないですよね。ふふふ」

「ああ」

 シュレインは機嫌が悪そうに一言で答えた。その返事にフリーデンハイドは、更に笑いが堪えられなくなったのか、肩を揺らして笑いだした。

「ふふふふ。まさかドラゴンに蹴りを入れるなんてね」
「フリーデンハイド。私の質問に答えていないが?」

 フリーデンハイドの笑う姿を諌めるように、白銀の王が目を細めて彼を見る。

「はっ!申し訳ございません。ドラゴンが飛来したことで、玉座の間が騒然となったのですが、そこで聖女シェーンが言ったのです。『私がドラゴンを倒しましょう』と」

「「······」」

 フリーデンハイドの二人の兄は意味がわからないという顔をしていた。

「私はその間もドラゴンの行動を、よく見えるようになった目で注視していたのですが、バットルアックスを担いた者が蹴りを入れることで、王都が火の海になることがさけられたと見えました。しかしその間、聖女シェーンは祈りの姿をとっていただけで、貴族達はその姿をみているだけでした。そして、火の雨が空を満たしたあと、ドラゴンの姿が消えていたため、あのような騒ぎになっておりました」

 白銀の王は更に困惑した顔をしていた。その背後にいるシュレインは不機嫌が更に増し怒っているようにも見える。

「私には全て一人の人物がドラゴンに対して武器を使わずに対処したようにしか見えなかったけれどね」

 白銀の王はこの度聖女に任命される少女の行動が理解できないという困惑が表れていた。

「私にも同じ様に見えましたが、肝心のドラゴンとアンジュがどこに消えたのでしょうか。シュレイン兄上?」

 黒い何かが漏れ出ているシュレインを見て、フリーデンハイドの顔が思わず引き攣る。
 そのシュレインはというと、己の左手にある銀色の腕輪に絡みついた鎖を引き千切ろうと指が触れると同時に、鎖が黒い炎によって燃え、シュレインの姿はこの場から消え去った。



その頃シストヴァ商会前では

「うわぁー。本気でドラゴンを連れ去っていったな。相変わらずアンジュは食べ物の事になるとがめついな」

 アルージラルドは己の店の前で今は青い色だけが広がっている空を仰いでいた。

「アルージラルドの旦那。さっきの聖騎士様と知り合いなのか?」

 武器屋の主であるアルージラルドの顔は広い。そんなアルージラルドならドラゴンと一騎打ちができる聖騎士とも知り合いかもしれない。道行く人が未だに空を見上げているアルージラルドに尋ねた。

「ああ、聖騎士になる前からの知り合いだな。俺の上客だ」

 アルージラルドとしては取り引き相手としてはいい客だという意味だ。彼女の思考は普通からは逸脱していた。

 冒険者について回っている変わった子供がキルクスにいる事は噂では聞いていた。その子供と知り合ったことで、色々アイデアをもらい。ここまで商会を大きくできたと言っていい。
 やはり一番の売上は教会の聖水で清められた魔石を武器に埋め込んだ、魔武器の存在だろう。
 数日に一度は魔石を聖水につけ込んで清めなければならいが、今までの使用直前に聖水を武器に掛けて使うという面倒な事がなくなり、冒険者たちからの反響がよく、今では商会のメイン商品と言っていいだろう。


 アルージラルドから先程のドラゴンに向かっていった聖騎士が『上客』という言葉を聞いた者が····いや、アルージラルドの周りで先程の聖騎士がどういう者か気になっていた者たちが、一様に思った。

 シストヴァ商会は聖騎士ですら御用達しにするほどの商会だと。流石、シストヴァ商会だと。

 そして、更にシストヴァ商会の名が上がり、売上の貢献をするのだった。


しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

今夜で忘れる。

豆狸
恋愛
「……今夜で忘れます」 そう言って、私はジョアキン殿下を見つめました。 黄金の髪に緑色の瞳、鼻筋の通った端正な顔を持つ、我がソアレス王国の第二王子。大陸最大の図書館がそびえる学術都市として名高いソアレスの王都にある大学を卒業するまでは、侯爵令嬢の私の婚約者だった方です。 今はお互いに別の方と婚約しています。 「忘れると誓います。ですから、幼いころからの想いに決着をつけるため、どうか私にジョアキン殿下との一夜をくださいませ」 なろう様でも公開中です。

【完結】何回も告白されて断っていますが、(周りが応援?) 私婚約者がいますの。

BBやっこ
恋愛
ある日、学園のカフェでのんびりお茶と本を読みながら過ごしていると。 男性が近づいてきました。突然、私にプロポーズしてくる知らない男。 いえ、知った顔ではありました。学園の制服を着ています。 私はドレスですが、同級生の平民でした。 困ります。

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

出生の秘密は墓場まで

しゃーりん
恋愛
20歳で公爵になったエスメラルダには13歳離れた弟ザフィーロがいる。 だが実はザフィーロはエスメラルダが産んだ子。この事実を知っている者は墓場まで口を噤むことになっている。 ザフィーロに跡を継がせるつもりだったが、特殊な性癖があるのではないかという恐れから、もう一人子供を産むためにエスメラルダは25歳で結婚する。 3年後、出産したばかりのエスメラルダに自分の出生についてザフィーロが確認するというお話です。

処理中です...