80 / 358
80 証拠隠滅のために
しおりを挟む「アンジュ!何をしている!」
ファルが何故か建物の外にすでにいた。いや、第13部隊の隊員全員が外に出ている。ああ、そうか。ドラゴンの咆哮を聞いて何事かと確認しに出てきたのか。でも、丁度いい。
「肉を狩ってきた。丁度良かった。酒吞。茨木。肉の解体手伝って」
私はそう言いながら、戦斧をドラゴンの翼に向って思いっきり振り下ろした。先に飛べないようにしておかないとね。
え?先に首を落すべきだって?そうなんだけど、この戦斧は多分ドラゴンの首を落とそうすると、戦斧の方が壊れると思うんだよね。以前ドラゴンの首を落とそうしたときも私が持っていた剣が私の力とドラゴンの鱗と骨の硬さに耐えきれず、半分まで剣が突き刺さってポキって折れてしまったのだ。
「何を手伝えばいいんだ?」
目に鮮やかな赤い髪の大柄な人物が、その躯体に合わせたような大きな大太刀を持って近づいてきた。
「酒吞。取り敢えず、首を落としてくれない?鱗と骨が硬いけど」
「いいぞ、少し離れてくれ」
そう、力技はそれが得意な者に任せればいい。鬼だけれども。····鬼ってドラゴンを斬ることできるのだろうか。
私はドラゴンの背から降り、皆がいる方に向かった。
「アンジュ!これはドラゴンだ!誰が空を飛んでいるドラゴンに攻撃するバカがいるんだ!」
皆の近くに来た早々、何故かファルにバカ呼ばわりされた。何で飛んでいるドラゴンを狩るのが駄目なのだろう。
「ドラゴンっていうのは見ればわかるし、あのまま王都が火の海になっても良かったってこと?私が動かなくても誰かが倒してくれたってこと?」
もし、誰かがドラゴンに向って行っていたなら、絶対に私はその人物より早くドラゴンを倒していたけれどね。お肉の権利は渡すことは絶対にない!
「うっ····いやでもな。アンジュに何かあると色々問題が生じてくるんだ」
「私はこの通り無傷。それに王都も無傷。私はお肉を手に入れられる。何も問題ないよね」
私がファルに結果として問題ない事を言っていると、酒呑が大太刀をドラゴンの首に向って振り下ろしていた。正に一刀両断という言葉がふさわしい。
酒呑の大太刀によってドラゴンの頭と胴がキレイに切り離されたが、私は血しぶきが飛び散るだろうと距離を取っていたのに、ドラゴンの首はスルリと地面に落ち、切り口の首からはダクダクと赤い血が流れ落ちるのみだった。
おお!なんか達人技を見てしまったようだ。
「これでいいのか?」
「いいよ。暫く血抜きのために放置。それにしても鱗と骨が硬いのにキレイに斬れるのね。以前私なんか途中で剣が折れてしまったし」
私は酒呑がドラゴンを一刀両断できたことを褒めつつ、辺り一帯が血の海にならないように、地面に魔術で穴をあける。ドラゴンから流れ出た血を溜めておくために····これぞまさに血の池だね!
「ちょっとしたコツだ」
そうかコツか。きっとただの力のゴリ押しじゃ、刃が通らなかったということだね。
「あ、あのー···」
ヴィオがおずおずと遠慮がちに声をかけてきた。どうしたのだろう?
「あ、あのー。どどどドラゴンの頭部と流れ出ているち···血はどうするのです?」
ヴィオは深く掘られた穴の底に転がっているドラゴンの頭を指して言った。そんなものもちろん。
「このまま埋めるけど?」
証拠隠滅のために!
私は思いついだのだ。外部の人が入ることが許されない、聖騎士団の敷地内のそれも森の中にドラゴンを落とし、さっさとお肉に解体してしまえばいいと。私がドラゴンの肉を確保したという事実を消すために証拠隠滅をすればいい!
「な···なんて、ももももったいない。ドラゴンは捨てるところなんて、あ··ありませんのに」
え?お肉以外私は必要ないけど?それに···
「この血をどうやって保存するの?樽でも用意するの?私はいらないから捨てていいと思うけど?」
「あ···」
まぁ、欲しい人はいるかもしれないけれど、血液なんてそのうち固まってしまうから、固めないようにするのか、固めてしまっていいのかもわからないしね。もし売るなら以前のように冒険者ギルドに売るよ。買い叩かれる事はないからね。
私が血抜きをしたあと、内臓を傷つけないように取り出して肉を切り出す作業の説明を酒呑と茨木に説明をしていると、唐突に得も言われぬ悪寒に襲われた。体が思わずブルリと震える。
すると、黒い腕輪に巻き付けていた干渉しない為の鎖が黒い炎をまとって燃えた。
え゛?!
「アンジュ!!」
あ、魔王様が転移してこられてしまった。何故か怒りを顕わにされた魔王様が、いつもの白い隊服でもなく普段着でもなく、淡い青色を基調としたきらびやかな服装だった。それが魔王様の圧迫感を後押ししているようだ。これが普通の感じのルディなら王子様っぽかっただろう。
いや、王弟殿下だった。
11
お気に入りに追加
518
あなたにおすすめの小説
もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。
そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。
そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。
「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」
そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。
かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが…
※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。
ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。
よろしくお願いしますm(__)m
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる
花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
【完結】きみの騎士
*
恋愛
村で出逢った貴族の男の子ルフィスを守るために男装して騎士になった平民の女の子が、おひめさまにきゃあきゃあ言われたり、男装がばれて王太子に抱きしめられたり、当て馬で舞踏会に出たりしながら、ずっとすきだったルフィスとしあわせになるお話です。
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
【完結済】呼ばれたみたいなので、異世界でも生きてみます。
まりぃべる
恋愛
異世界に来てしまった女性。自分の身に起きた事が良く分からないと驚きながらも王宮内の問題を解決しながら前向きに生きていく話。
その内に未知なる力が…?
完結しました。
初めての作品です。拙い文章ですが、読んでいただけると幸いです。
これでも一生懸命書いてますので、誹謗中傷はお止めいただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる