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80 証拠隠滅のために

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「アンジュ!何をしている!」

 ファルが何故か建物の外にすでにいた。いや、第13部隊の隊員全員が外に出ている。ああ、そうか。ドラゴンの咆哮を聞いて何事かと確認しに出てきたのか。でも、丁度いい。

「肉を狩ってきた。丁度良かった。酒吞。茨木。肉の解体手伝って」

 私はそう言いながら、戦斧をドラゴンの翼に向って思いっきり振り下ろした。先に飛べないようにしておかないとね。

 え?先に首を落すべきだって?そうなんだけど、この戦斧は多分ドラゴンの首を落とそうすると、戦斧の方が壊れると思うんだよね。以前ドラゴンの首を落とそうしたときも私が持っていた剣が私の力とドラゴンの鱗と骨の硬さに耐えきれず、半分まで剣が突き刺さってポキって折れてしまったのだ。

「何を手伝えばいいんだ?」

 目に鮮やかな赤い髪の大柄な人物が、その躯体に合わせたような大きな大太刀を持って近づいてきた。

「酒吞。取り敢えず、首を落としてくれない?鱗と骨が硬いけど」

「いいぞ、少し離れてくれ」

 そう、力技はそれが得意な者に任せればいい。鬼だけれども。····鬼ってドラゴンを斬ることできるのだろうか。

 私はドラゴンの背から降り、皆がいる方に向かった。

「アンジュ!これはドラゴンだ!誰が空を飛んでいるドラゴンに攻撃するバカがいるんだ!」

 皆の近くに来た早々、何故かファルにバカ呼ばわりされた。何で飛んでいるドラゴンを狩るのが駄目なのだろう。

「ドラゴンっていうのは見ればわかるし、あのまま王都が火の海になっても良かったってこと?私が動かなくても誰かが倒してくれたってこと?」

 もし、誰かがドラゴンに向って行っていたなら、絶対に私はその人物より早くドラゴンを倒していたけれどね。お肉の権利は渡すことは絶対にない!

「うっ····いやでもな。アンジュに何かあると色々問題が生じてくるんだ」

「私はこの通り無傷。それに王都も無傷。私はお肉を手に入れられる。何も問題ないよね」

 私がファルに結果として問題ない事を言っていると、酒呑が大太刀をドラゴンの首に向って振り下ろしていた。正に一刀両断という言葉がふさわしい。
 酒呑の大太刀によってドラゴンの頭と胴がキレイに切り離されたが、私は血しぶきが飛び散るだろうと距離を取っていたのに、ドラゴンの首はスルリと地面に落ち、切り口の首からはダクダクと赤い血が流れ落ちるのみだった。
 おお!なんか達人技を見てしまったようだ。

「これでいいのか?」

「いいよ。暫く血抜きのために放置。それにしても鱗と骨が硬いのにキレイに斬れるのね。以前私なんか途中で剣が折れてしまったし」

 私は酒呑がドラゴンを一刀両断できたことを褒めつつ、辺り一帯が血の海にならないように、地面に魔術で穴をあける。ドラゴンから流れ出た血を溜めておくために····これぞまさに血の池だね!

「ちょっとしたコツだ」

 そうかコツか。きっとただの力のゴリ押しじゃ、刃が通らなかったということだね。

「あ、あのー···」

 ヴィオがおずおずと遠慮がちに声をかけてきた。どうしたのだろう?

「あ、あのー。どどどドラゴンの頭部と流れ出ているち···血はどうするのです?」

 ヴィオは深く掘られた穴の底に転がっているドラゴンの頭を指して言った。そんなものもちろん。

「このまま埋めるけど?」

 証拠隠滅のために!

 私は思いついだのだ。外部の人が入ることが許されない、聖騎士団の敷地内のそれも森の中にドラゴンを落とし、さっさとお肉に解体してしまえばいいと。私がドラゴンの肉を確保したという事実を消すために証拠隠滅をすればいい!
 
「な···なんて、ももももったいない。ドラゴンは捨てるところなんて、あ··ありませんのに」

 え?お肉以外私は必要ないけど?それに···

「この血をどうやって保存するの?樽でも用意するの?私はいらないから捨てていいと思うけど?」

「あ···」

 まぁ、欲しい人はいるかもしれないけれど、血液なんてそのうち固まってしまうから、固めないようにするのか、固めてしまっていいのかもわからないしね。もし売るなら以前のように冒険者ギルドに売るよ。買い叩かれる事はないからね。

 私が血抜きをしたあと、内臓を傷つけないように取り出して肉を切り出す作業の説明を酒呑と茨木に説明をしていると、唐突に得も言われぬ悪寒に襲われた。体が思わずブルリと震える。
 すると、黒い腕輪に巻き付けていた干渉しない為の鎖が黒い炎をまとって燃えた。

 え゛?!

「アンジュ!!」

 あ、魔王様が転移してこられてしまった。何故か怒りを顕わにされた魔王様が、いつもの白い隊服でもなく普段着でもなく、淡い青色を基調としたきらびやかな服装だった。それが魔王様の圧迫感を後押ししているようだ。これが普通の感じのルディなら王子様っぽかっただろう。

 いや、王弟殿下だった。
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