上 下
78 / 358

78 束縛の腕輪を外すことは?

しおりを挟む

「それで、アルーさん。ここに来た理由は見ての通り人生計画に失敗しましたので、今まで振り込んで貰っていたお金をここの口座に振り込んでください」

 私は右手が今現在、脅しのためにふさがっているため、偽装工作している左手で口座番号が書かれた紙をアルーに差し出す。

「いや、俺は元々失敗すると思っていたぞ」

「ああ?!」

 何それ!アルーは教会の誓約を知っていると?

「そもそもリュミエール様から逃れようとする自体、バカのすることだ。それで、俺のアンジュにこんな馬鹿げた物を付けたのは何処のどいつだ?金のなる木のアンジュに!!」

 ああ、悪魔神父から逃れられないということか。
 しかし、本音を言いすぎだ。左手で拳を作り思いっきり腹をぶん殴ろうとするけど、ひらりとかわされてしまった。金のなる木ってなに!

「これ束縛の腕輪だろ?」

 束縛の腕輪!!それが本来の名前ってこと!まぁ、確かに束縛だ。

「で?誰に付けられたんだ?」

「答えたら、これ取ってくれる?」

「ムリムリムリムリ。そんな事をして貴族と事を構えるのは面倒だろ?」

 面倒ってことは、外せる方法があるってことだね。

「貴族じゃなかったら?」

「ん?出来ないこともない」

 現金な奴。貴族じゃなかったらできるのか。

「じゃ、お金払うから、これを外して欲しい」

 私は左腕をアルーに突きつける。正確には黒く染まった腕輪をだ。

「····その前にこれをアンジュに付けたのには誰だ?」

「ルディ」

「····ちょっと待て、お前確か人の名を覚えられなかったよな。ルディという人物の家名は何だ?」

 チッ!そのまま騙されなかったか。私はすっと左手を下げた。

「その指輪、嫌な予感がするんだが、それも2つってどういうことだ?」

 流石、アルーだね。指輪のことも知っているようだ。私はアルーに向ってへらりと笑う。

「お前、また俺を騙そうとしたのか?」

「え?騙してはいないよ?貴族じゃないのは本当のこと」

「王族ってことだろう!その腕輪を外していたら俺の首がぶっ飛んでいたってことだろうが!それもルディって、あの王弟のシュレイン・ルディウス・レイグラーシアのことだろう」

 おお、ルディの長い名前をスラスラ言えるなんてすごいね。商人ともなれば人の名前を覚えるのも仕事なんだね。

「流石、アルーだね。で、外す方法ってなに?」

「言うはずないだろう!いいか?よく聞けアンジュにこれを付けたお方はな「あ、ルディは私が3歳の時からの知り合いだから、その説明はいらない」····」

 そう言うとアルーは何故か天井を仰いでしまった。そして、『相変わらず天使な顔して中身は悪魔だ』なんて事を口に出しているので、右手に持っている戦斧を振り下ろす。
 しかし、すっと横に避けられてしまった。

 絶対回避。彼が死神と言われる由縁だ。依頼されればどんな場所にでも武器を届けるのが彼のモットーだ。それが僻地でも、どんな凄惨な戦場でもだ。しかし、彼は商品を届けて無傷で帰ってくる。戦場を悪化させながらも一人無傷のままの姿を見て、いつしか彼は死神と言われるようになった。

「アルーさん。取り敢えず振り込みの口座の変更をお願いします。それに最近良く儲けているそうじゃないですか、『守り石』で。ですから、良質な魔石いくつかもらえません?」

「俺が儲けているのと、アンジュに魔石を渡すのは何か違うよな」

 違わなくないと思うけど?私の取り分がもう少しあってもいいと思う。

「じゃ、ドラゴンの肉」

「そんな物があるのなら、高い値段で貴族に売りつけている!」

 そうか、お肉はないのか。残念。

「じゃ、そのバットルアックスで手を打とうじゃないか」

 別にそこまで気に入っているわけではないのだけど。これはアルーの商人魂をぶった切る為に手にしている。そうでないと、私からいいアイデアが出てくるまで、尋問してくるのだ。一度、あまりのしつこさに教会まで全力で帰った事があった。
 因みに私は私の太刀は置いてきている。

「それは、この斧が売れなくて困っているってことだよね」

「流石、俺のアンジュだ。よくわかっているな」

 よくわかっているっていうか見ればわかるよね。場所だけとって邪魔だと。

「見ればわかるじゃない。誰が、こんな大きな斧を振り回すのかわからないね」

「軽々と振り回しておいて、それはないよな」

 40歳手前のおっさんと、長年の友達のような軽いじゃれ合いの会話をしていると、突如として、空気を震わす大きな咆哮が耳をつんざいた。突然の事に右手がふさがっている私は耳を押さえることができずに、キーンという音が耳の中で鳴り響いている。

 一体何が起こったのだろう。店の外を見ると行き交う人々が空に何かがいるのか、視線を上に向け、手を空に向け指し示していた。

「何だ?」

 アルーも耳が痛くなる咆哮に顔を歪め、外に向かって足を進める。私も戦斧を携えたままアルーの後を追い、外に向かっていった。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。 そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。 そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。 「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」 そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。 かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが… ※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。 ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。 よろしくお願いしますm(__)m

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる

花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

【完結】きみの騎士

  *  
恋愛
村で出逢った貴族の男の子ルフィスを守るために男装して騎士になった平民の女の子が、おひめさまにきゃあきゃあ言われたり、男装がばれて王太子に抱きしめられたり、当て馬で舞踏会に出たりしながら、ずっとすきだったルフィスとしあわせになるお話です。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

【完結済】呼ばれたみたいなので、異世界でも生きてみます。

まりぃべる
恋愛
異世界に来てしまった女性。自分の身に起きた事が良く分からないと驚きながらも王宮内の問題を解決しながら前向きに生きていく話。 その内に未知なる力が…? 完結しました。 初めての作品です。拙い文章ですが、読んでいただけると幸いです。 これでも一生懸命書いてますので、誹謗中傷はお止めいただけると幸いです。

処理中です...