上 下
67 / 354

67 青龍と黒龍

しおりを挟む
 なんとか一命は取り留めた。私の指から二匹の蛇がうねうねと出ている。いや、指輪からだった。私はというと手を遠ざけるように伸ばしているのが現状だ。
 呪いの指輪は本当に呪いの指輪だった。まさか、青い指輪から青い蛇が、黒い指輪から黒い蛇が出てくるなんて。

「青龍と黒龍ですか。面白い組み合わせですね」

 優雅に茶を飲み、微笑を浮かべながら言っているのは勿論茨木だ。

「ふぅー。よくやったな。アンジュ」

 ファルがなんで冷や汗を拭っているのか。拭いたいのはこっちの方だ。

 その元凶のルディはと言うと、私を膝の上に乗せてニコニコとご機嫌だ。黒い蛇でよかったのだろうか。

 しかし、妹よ。これのどこがペット枠なのか、お姉ちゃんさっぱりわからないよ。ただ、うねうねしている蛇にしか見えなのだけど?っていうか、指輪から離れないわけ?
 手を振ってみるけど、青い蛇と黒い蛇が一緒になって上下している。
 それにこれってどうしたら消えるわけ?

「ねぇ。いつになったら消えるの?」

 すると、青い蛇と黒い蛇は私の方を見て口をあんぐりと開けて固まってしまった。何?その表情?

「いや、いつまでも指輪にくっついてもらっても困るのだけど?」

 すると、でろーんと二匹が指輪から垂れ下がってしまった。だからそれは何!
 この龍はスチルと全く違う。もう少し威厳という物があったように思うのだけど、これは私には蛇にしか見えない。

「ぶほっ!アンジュ。酷いな。呼び出しておいて、それはないよな」

 笑い上戸が再発したようだ。ファルがお腹を抱えてヒィヒィと言い出した。

「ふふふ。呼び出されて何もさせてもらえないのは、可哀想ですから、雨でも降らせてもらえばいいのではないのでしょうか?」

 茨木が青蛇と黒蛇の姿をみて、おかしそうに笑う。そして、その隣の酒吞もクククッと喉を鳴らして笑いながらお酒を流し込んでいる。

 雨か。

「ふーん。じゃ、雷鳴を轟かせ雨を降らし世界に星の瞬きを映せ」

 すると、蛇のようだった二匹の龍が一瞬にして巨大化し、部屋の壁を抜けて外に飛び出して行った。
 そして、怒号のような雷鳴と共にバケツを引っくり返したような雨が降り、直ぐに止んだ。窓の外は空気中の浮遊物を雨が流し落とし、澄み渡った空が広がり、煌めく星が輝いていたのだった。
 一仕事をやり終えたと言わんばかりの満足そうな顔をした、巨大化した二匹の龍は呪いの指輪に戻っていった。
 なんだ、指輪から離れられるじゃない。

 この事が後日、聖女シェーンの祝福だと言われることになるだなんて、今の私には知る由もなかった。




 翌日の夕方に王都にたどり着くことができた。ファルのワイバーンに3人乗るのは流石にワイバーンの負担になるということで、ジジェル?の第10部隊の駐屯地で、もう一体のワイバーンを借りることにしたのだけど、ここでも聖女シェーンの話題で持ちきりだった。
 別にいいのだけど、いいのだけれども···釈然としない。

 王都に戻る途中でもルディは機嫌が悪そうで、アンジュの魔力を奪っておいてと、怪しいオーラを撒き散らしながら言っているものだから、私は王都に戻ったらデートしようねと言ってご機嫌をとるしかなかった。

 しかし、王都にたどり着いても聖女シェーンの話題でもちきりだった。しかし、その盛り上がりを横目に私とルディは酒吞と茨木を連れて、第13部隊の詰め所であるぽつんと一軒家に向かう。勿論、私の左手は偽装工作のため、包帯でぐるぐるに巻いておくのは忘れてはいない。
 そして、ファルはというと、報告に行くところがあると言って別行動をしているので、ここにはいない。

 第13部隊のリビング兼プレイルームに入ると、何故か他の隊員がまだ残っていた。この時間なら業務時間外なので、もう宿舎の方に戻っているはずなのにどうしたのだろう?

「た、隊長。おおお帰りななさいませ」

 相変わらず言葉を詰まらせているヴィオが代表してルディに挨拶をして敬礼し、その後ろにティオ、ミレー、シャールが倣っている。

「お願いしていたことはできていますか?」

 胡散臭い笑顔のルディがヴィオに聞いている。ルディがお願いしていた?

「は、はい。だだだ大丈夫です」

 ヴィオの方が大丈夫なのかと思ってしまうけれど?

「これ、事務局に言って用意してもらったっす」

 青い顔をしたティオはローテーブルの上に置かれた複数の紙袋を指して言った。何を用意してもらったのだろう。そもそも事務局って色々手続きするところだよね?私、事務局で手続きしたことなんてないよ?大丈夫?

「それは助かりました。もう、宿舎の方に戻ってもらっていいですよ」

「「「「お疲れさまでした」」」」

 帰っていいと言われた4人は頭を下げて、脱兎の如く部屋を出ていってしまった。あ、うん。胡散臭い笑顔に変わりはないけれど、今のルディはご機嫌斜めだからね。黒い何かが漏れ出てるから、それは恐ろしいだろうね。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

悪妃の愛娘

りーさん
恋愛
 私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。  その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。  そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!  いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!  こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。  あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

竜帝は番に愛を乞う

浅海 景
恋愛
祖母譲りの容姿の両親から疎まれている男爵令嬢のルー。自分とは対照的に溺愛される妹のメリナは周囲からも可愛がられ、狼族の番として見初められたことからますます我儘に振舞うようになった。そんなメリナの我儘を受け止めつつ使用人のように働き、学校では妹を虐げる意地悪な姉として周囲から虐げられる。無力感と諦めを抱きながら淡々と日々を過ごしていたルーは、ある晩突然現れた男性から番であることを告げられる。しかも彼は獣族のみならず世界の王と呼ばれる竜帝アレクシスだった。誰かに愛されるはずがないと信じ込む男爵令嬢と番と出会い愛を知った竜帝の物語。

塩対応の公子様と二度と会わないつもりでした

奏多
恋愛
子爵令嬢リシーラは、チェンジリングに遭ったせいで、両親から嫌われていた。 そのため、隣国の侵略があった時に置き去りにされたのだが、妖精の友人達のおかげで生き延びることができた。 その時、一人の騎士を助けたリシーラ。 妖精界へ行くつもりで求婚に曖昧な返事をしていた後、名前を教えずに別れたのだが、後日開催されたアルシオン公爵子息の婚約者選びのお茶会で再会してしまう。 問題の公子がその騎士だったのだ。

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?

氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。 しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。 夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。 小説家なろうにも投稿中

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない

たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。 何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話

処理中です...