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62 人に化けるオーガ?(シュレイン Side)
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シュレイン Side
アンジュが意識を失うように眠ってしまった。アンジュが言っていたように、アンジュの中の残存魔力は殆ど空に近い状態だ。
天使の聖痕を使ったからか?
いや、以前常闇を閉じた時はこのような事はなかった。以前と違うことといえば、目の前に倒れているオーガの変異種がいるぐらいだろう。
今回は流石に慌てた。
かなりの高度を飛んでいるワイバーンから飛び降りるなんて、誰が思うだろうか。普通はそのまま地面に激突して、死を迎えるしかない。
しかし、アンジュは『常闇から出てきた魔物だ』と言って飛び降りたのだ。正に肝が冷えるとはこのことだろう。
自由落下よりも速い速度で落ちていくアンジュに追いつくことはできず、その後をワイバーンで追いかけるしかできなかった。
追いついたと思えば、オーガの変異種だと思われるモノ達と理解できない言葉を話して、楽しそうにじゃれているのを見ると流石に頭にきた。
そして、オーガの変異種が逃げ去っていくのをアンジュは追いかけて行く。仲が良すぎるのではと疑うと、アンジュは否定しつつも、じゃれ合う始末だ。その姿に目の前が真っ暗になる。
アンジュはいつもそうだ。振り返ることなく、俺を置いて行ってしまう。
俺ではアンジュの隣に立てないのだろうか。心が寒い。ただ一人で生きるには、この世界は俺には厳しい世界だ。
暗闇の中、一人立ち竦んでいると、王宮のの奥の聖女の間に飾られている200年前の聖女様が俺の目の前に顕れた。神々しくなんて美しい姿なのだろう。
聖女様は何か言葉をおっしゃっているが、聞き取る事ができない。だが、その言葉は春の日差しの様に暖かく、冷えた俺の心の闇を照らしてくれた。
これが、聖女様の力なのだろう。頭を下げ、地に伏す。俺ごときが同じ地に立つべきではない。
アンジュが気分が悪くなったのかと問うてきたがそうではない。どちらかと言えば、感動に打ち震えている。
····アンジュ?
ふと視線を上げると、黄金の輪を頭上に掲げたアンジュが目の前にいた。先程の聖女様はアンジュ?
俺に不審げな視線を向けていたが、オーガの変異種から声をかけられて視線を外された。また、理解できない言葉だ。
そのオーガの変異種共もアンジュに向けて頭を下げていた。魔物でも聖女に敬意を払うものなのだろうか。
突然アンジュが倒れて慌てたものの、魔力の枯渇が原因だったことに、安堵する。また、怪我をしたのでは?と焦ったが、これぐらいなら、寝れば回復できる。しかし、ここまでの魔力の枯渇することになった原因が不可解ではある。
そして、アンジュはその魔物達に一滴の水滴を与えた。その後、苦しむ素振りもなく意識を失ったが、アンジュ曰く『毒の聖痕』の何らかの効力を受けたのだろう。
『毒の聖痕』その紋様は一瞬しか見ることが出来なかったが、あれは恐らく···いやそれよりも、オーガの変異種が目を覚ました。
「あったまイテー」
赤い髪と角が目を引く巨体が頭を押さえて体を起こした。先程と違い言葉が理解できる。
「鈍器で頭を殴られた痛さですね。酒吞」
白い髪に角が生えたオーガの変異種も目を覚ましたようだ。こちらも言葉が理解できる。しかし、こちらの変異種はオーガにしては小柄のタイプのようだ。
「お前たち、俺の言葉がわかるか?」
オーガの変異種に声をかけてみる。先程まで理解できなかったが、恐らくアンジュが先程与えたモノによって言葉が理解できるようになったのだろう。
「お!わかるぞ!」
「わかりますね」
やはり、俺の言葉を理解できるようだ。本当にアンジュからは目を離せない。普通は魔物との意思の疎通はできないのに、いとも簡単に言葉が理解できるモノを与えるなど、他の者たちには絶対言えないことだ。もし、そのような事が他の者たちに知れ渡れば、アンジュから引き離されてしまうことは目に見えている。
「アンジュがお前たちは人の姿を取ることができると言っていたんだが、そんなこと出来るのか?」
「あんじゅ?誰だ?それは?」
大柄なオーガが考えるように首を捻っている。なんだか人間臭い仕草だ。
「きっとアマテラス様の事ですよ。酒吞」
小柄なオーガがにこやかに別の者の名を挙げたが、アマテラスとはなんだ?それから俺に金色の目を向けて声をかけてきた。
「人に化ける事はできますよ。このように」
するとどうだろう。衣服は奇妙な成りだが、角は無くなり白髪に金色の目をした麗人がそこにはいた。確かにこれなら人の中に紛れ込むことができる。
そう思った瞬間、とても恐ろしいことに気が付き、肌が粟立った。
人の中にこのオーガ共が紛れ込むだと!アンジュは何を考えてこのような事を言ったのだ?
魔物を人の住む場所に連れ込もうとしているのか?
「ああ、それでいいと思うが、先程アンジュと何を話していた?俺はなぜお前たちに人の姿を取るように言ったのか理解できないのだが」
「ここは高天原なのでしょ?それなら我らは葦原中国に戻ろうとしたのですが、詳しい話をされる前に御身を崩されたようで、アマテラス様は如何されたのでしょうか?」
端々に理解できない言葉があるが、これは魔物の言葉の固有名詞なのだろうか。ただ、言いたいことは理解できた。アンジュとオーガ共の間で常闇に還すという話がついていたようだ。
恐らくアンジュはオーガ共が出てきた常闇まで連れて行こうとしたのだろう。
「アンジュは魔力の殆どを失って倒れただけだ。眠れば回復する」
「マリョク?妖力じゃぁねーのか?」
大柄なオーガ····いや、一回り小さくなった赤髪に金眼の体格の良い人にしか見えないモノが言った。本当にこれだと人に紛れ込める。
「それを言うなら神力では?」
俺は一体何を見せられているのだろうか。オーガがこうも人間臭く話し行動するとは···これを引き起こしたのはアンジュの聖痕の所為なのか、それとも元々がこの二人のオーガがおかしいだけなのか。俺には理解できなかった。
アンジュが意識を失うように眠ってしまった。アンジュが言っていたように、アンジュの中の残存魔力は殆ど空に近い状態だ。
天使の聖痕を使ったからか?
いや、以前常闇を閉じた時はこのような事はなかった。以前と違うことといえば、目の前に倒れているオーガの変異種がいるぐらいだろう。
今回は流石に慌てた。
かなりの高度を飛んでいるワイバーンから飛び降りるなんて、誰が思うだろうか。普通はそのまま地面に激突して、死を迎えるしかない。
しかし、アンジュは『常闇から出てきた魔物だ』と言って飛び降りたのだ。正に肝が冷えるとはこのことだろう。
自由落下よりも速い速度で落ちていくアンジュに追いつくことはできず、その後をワイバーンで追いかけるしかできなかった。
追いついたと思えば、オーガの変異種だと思われるモノ達と理解できない言葉を話して、楽しそうにじゃれているのを見ると流石に頭にきた。
そして、オーガの変異種が逃げ去っていくのをアンジュは追いかけて行く。仲が良すぎるのではと疑うと、アンジュは否定しつつも、じゃれ合う始末だ。その姿に目の前が真っ暗になる。
アンジュはいつもそうだ。振り返ることなく、俺を置いて行ってしまう。
俺ではアンジュの隣に立てないのだろうか。心が寒い。ただ一人で生きるには、この世界は俺には厳しい世界だ。
暗闇の中、一人立ち竦んでいると、王宮のの奥の聖女の間に飾られている200年前の聖女様が俺の目の前に顕れた。神々しくなんて美しい姿なのだろう。
聖女様は何か言葉をおっしゃっているが、聞き取る事ができない。だが、その言葉は春の日差しの様に暖かく、冷えた俺の心の闇を照らしてくれた。
これが、聖女様の力なのだろう。頭を下げ、地に伏す。俺ごときが同じ地に立つべきではない。
アンジュが気分が悪くなったのかと問うてきたがそうではない。どちらかと言えば、感動に打ち震えている。
····アンジュ?
ふと視線を上げると、黄金の輪を頭上に掲げたアンジュが目の前にいた。先程の聖女様はアンジュ?
俺に不審げな視線を向けていたが、オーガの変異種から声をかけられて視線を外された。また、理解できない言葉だ。
そのオーガの変異種共もアンジュに向けて頭を下げていた。魔物でも聖女に敬意を払うものなのだろうか。
突然アンジュが倒れて慌てたものの、魔力の枯渇が原因だったことに、安堵する。また、怪我をしたのでは?と焦ったが、これぐらいなら、寝れば回復できる。しかし、ここまでの魔力の枯渇することになった原因が不可解ではある。
そして、アンジュはその魔物達に一滴の水滴を与えた。その後、苦しむ素振りもなく意識を失ったが、アンジュ曰く『毒の聖痕』の何らかの効力を受けたのだろう。
『毒の聖痕』その紋様は一瞬しか見ることが出来なかったが、あれは恐らく···いやそれよりも、オーガの変異種が目を覚ました。
「あったまイテー」
赤い髪と角が目を引く巨体が頭を押さえて体を起こした。先程と違い言葉が理解できる。
「鈍器で頭を殴られた痛さですね。酒吞」
白い髪に角が生えたオーガの変異種も目を覚ましたようだ。こちらも言葉が理解できる。しかし、こちらの変異種はオーガにしては小柄のタイプのようだ。
「お前たち、俺の言葉がわかるか?」
オーガの変異種に声をかけてみる。先程まで理解できなかったが、恐らくアンジュが先程与えたモノによって言葉が理解できるようになったのだろう。
「お!わかるぞ!」
「わかりますね」
やはり、俺の言葉を理解できるようだ。本当にアンジュからは目を離せない。普通は魔物との意思の疎通はできないのに、いとも簡単に言葉が理解できるモノを与えるなど、他の者たちには絶対言えないことだ。もし、そのような事が他の者たちに知れ渡れば、アンジュから引き離されてしまうことは目に見えている。
「アンジュがお前たちは人の姿を取ることができると言っていたんだが、そんなこと出来るのか?」
「あんじゅ?誰だ?それは?」
大柄なオーガが考えるように首を捻っている。なんだか人間臭い仕草だ。
「きっとアマテラス様の事ですよ。酒吞」
小柄なオーガがにこやかに別の者の名を挙げたが、アマテラスとはなんだ?それから俺に金色の目を向けて声をかけてきた。
「人に化ける事はできますよ。このように」
するとどうだろう。衣服は奇妙な成りだが、角は無くなり白髪に金色の目をした麗人がそこにはいた。確かにこれなら人の中に紛れ込むことができる。
そう思った瞬間、とても恐ろしいことに気が付き、肌が粟立った。
人の中にこのオーガ共が紛れ込むだと!アンジュは何を考えてこのような事を言ったのだ?
魔物を人の住む場所に連れ込もうとしているのか?
「ああ、それでいいと思うが、先程アンジュと何を話していた?俺はなぜお前たちに人の姿を取るように言ったのか理解できないのだが」
「ここは高天原なのでしょ?それなら我らは葦原中国に戻ろうとしたのですが、詳しい話をされる前に御身を崩されたようで、アマテラス様は如何されたのでしょうか?」
端々に理解できない言葉があるが、これは魔物の言葉の固有名詞なのだろうか。ただ、言いたいことは理解できた。アンジュとオーガ共の間で常闇に還すという話がついていたようだ。
恐らくアンジュはオーガ共が出てきた常闇まで連れて行こうとしたのだろう。
「アンジュは魔力の殆どを失って倒れただけだ。眠れば回復する」
「マリョク?妖力じゃぁねーのか?」
大柄なオーガ····いや、一回り小さくなった赤髪に金眼の体格の良い人にしか見えないモノが言った。本当にこれだと人に紛れ込める。
「それを言うなら神力では?」
俺は一体何を見せられているのだろうか。オーガがこうも人間臭く話し行動するとは···これを引き起こしたのはアンジュの聖痕の所為なのか、それとも元々がこの二人のオーガがおかしいだけなのか。俺には理解できなかった。
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