上 下
58 / 358

58 仲が良いのだな

しおりを挟む
 謎は一つ解けた。あの侍従シャンベランはエリートコースまっしぐらだったのだ。将来を約束されており、団長コマンドールを顎で使えるほど偉かったのだ。流石、王族の血筋というもの。
 いや、所詮世の中とはそういうものだ。いくら努力しようが、自分の計り知れないところで、全てが回っているということ。

「じゃ、先々代の大将校グラントフィシエに魔鳥を持って帰れって言うのは駄目なの?」

 するとルディは困ったように答えた。

「誰がそんなことをリュミエール神父に言えるんだ?」

「は?」

 先々代の大将校グラントフィシエが神父様?それって····

「絶対に神父様の嫌がらせだよね。『聖騎士とあろう者が寝坊とは、些か職務怠慢ではないですかね』とか言ってウキョー鳥を置いてって行ったってことだよね」

 そうだ。そうに違いない。あの悪魔神父なら自ら魔鳥をどこかから調達してきて、宿舎のどこかで飼うようにしたってことだと、私は考察する。

「だったら、私が文句を言う!私の安眠を妨害するウキョー鳥を絞め殺していいかって!」

 あの奇声で毎日叩き起こされるなんて、逆に精神が病みそうだ。睡眠は大事だ!

「アンジュは····アンジュは」

 ん?

「そんなことをリュミエール神父に言える程、仲が良いのだな」

 ぐっ!苦しい。
 ルディの胸板に押し付けられる様に抱き締められる。両手を突っ張ろうにも全く動く事が出来ない。動く事ができない?!

「昔からリュミエール神父に対しては態度が違うかったよな。それにその指輪も嬉しそうにリュミエール神父から受け取っていたしな」

 神父様は要注意人物だと初めからわかっていたから、怒らせないようにしていただけで、好意なんて全く持っていないよ!

「エヴォリュシオンの3男が言っていたそうじゃないか。リュミエール神父の部屋によく出入りしていたとか、一緒に出掛けていたとか、どういうことだ?アンジュには俺がいるのに?」

 ぐっ·····死ぬ。マジで死ぬ。何だかわからない高圧的圧迫感が私を絞め殺そうとしている。
 高圧的圧迫感···まさか!

「『魔力遮断まりょくしゃだん!!』」

 ルディの魔力を外に出さないように、私の魔力で覆った。
 息がやっとまともに吸えるようになる。ルディの魔力の放出だけで、死にかけるって何!どれ程魔力を保持しているの!
 それにしても

「エボって誰!」

「この前、アンジュが将校オフィシエに成ったことに対して、文句を言って逆にアンジュにボロ布の様にされたヤツのことだ」

 ああ、ゼクトなんたらかんたらの家名の事。ん?あの時の話を何でルディが知っているのだろう?

「それって、ゼクトと控えの間にいた時の話だよね?何でルディが知っているの?」

 そう、あの時の祭壇に繋がる控えの部屋には、3人しかいなかったはず。ルディの耳に入ることのない話だ。

「ああ、フリーデンハイドから聞いた。キルクスの新人がどういう者たちか知りたくて潜んでいたらしい」

 何処に!!侍従シャンベランがどこにいたの!
 本当にあの人、性格悪い人だよね。あわよくば、人の弱みを握ろうとしていたのかもしれないよね。

「それで、リュミエール神父の部屋に出入りしていたというのはどういう事だ?」

 うっ!瞳孔が開いた目で見てこないで欲しい。

「それは、冒険者たちと乱闘になった事のお説教や、仕事先の従業員をぶん殴ったことのお説教や単独でドラゴンを討伐したことのお説教で呼び出されたの!誰が好き好んで神父様の部屋でグチグチとお説教を聞いて反省文と課題を出されて丸一日監禁されたいと思うの!」

 監禁は駄目だ。監禁は。あの胡散臭い笑顔の神父様がつきっきりで、逃げようとお手洗いに行きたいと立ち上がろうものなら、『部屋にお手洗いがありますよ』と言われる始末だ。絶対にあそこは監禁部屋だと思う。

「アンジュ。何をやっているんだ?ドラゴンを倒したと聞いたが、リュミエール神父から怒らることをしたのか?」

 なに?その打って変わって呆れたような顔は?私は怒られることなんてしていない!

「別に、ツガイのドラゴンが街道に巣を作ってしまったから、聖騎士が討伐するまで、街道近くを通る商人の護衛任務を受けた時に、子供を攫っていくドラゴンを見つけたから、駆逐しただけだよ。
 あれ、未だに解せないのだけど?子供を助けたと褒められるならまだしも、なんでドラゴンを倒したことで怒られないといけないのか全く理解出来ない。」

 未だに私は解せないでいるのだ。人助けはいいことのはず!

「アンジュ。それは商人の護衛に専念すべきだったのではないのか?」

「武器商人のアルーさんは行って来いって言ってくれたのに?」

 ルディは何故か遠い目をして『死神のアルージラルドか。それはアルージラルドの依頼を受けたことを問題視されたのだろう』と独り言を言っていた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。 そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。 そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。 「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」 そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。 かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが… ※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。 ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。 よろしくお願いしますm(__)m

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる

花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】きみの騎士

  *  
恋愛
村で出逢った貴族の男の子ルフィスを守るために男装して騎士になった平民の女の子が、おひめさまにきゃあきゃあ言われたり、男装がばれて王太子に抱きしめられたり、当て馬で舞踏会に出たりしながら、ずっとすきだったルフィスとしあわせになるお話です。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

【完結】あなたは知らなくていいのです

楽歩
恋愛
無知は不幸なのか、全てを知っていたら幸せなのか  セレナ・ホフマン伯爵令嬢は3人いた王太子の婚約者候補の一人だった。しかし王太子が選んだのは、ミレーナ・アヴリル伯爵令嬢。婚約者候補ではなくなったセレナは、王太子の従弟である公爵令息の婚約者になる。誰にも関心を持たないこの令息はある日階段から落ち… え?転生者?私を非難している者たちに『ざまぁ』をする?この目がキラキラの人はいったい… でも、婚約者様。ふふ、少し『ざまぁ』とやらが、甘いのではなくて?きっと私の方が上手ですわ。 知らないからー幸せか、不幸かーそれは、セレナ・ホフマン伯爵令嬢のみぞ知る ※誤字脱字、勉強不足、名前間違いなどなど、どうか温かい目でm(_ _"m)

処理中です...