聖痕の聖騎士〜溺愛?狂愛?私に結婚以外の選択肢はありますか?〜

白雲八鈴

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54 次の犠牲者は誰?

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 広い敷地にワイバーンが降り立った。そこはかなり広い訓練場のようだった。王都の聖騎士団の敷地もかなり広いと思ったが、この第10部隊の駐屯地の敷地も同じぐらいありそうだ。

 そこの訓練場に降り立ったため、その場に居た者達がわらわらと集まって来てしまった。

「貴様ら、どこの者だ」

 薄い灰色の隊服を着ている人物が威圧的に言ってきた。薄い灰色の隊服ということは騎士シュヴァリエの者だろう。

「第13部隊の者です。連絡はあったはずですが?」

 ワイバーンからルディと共に地面に降り立ち、外套のフードを外した胡散臭い笑顔のルディが言った。外套を羽織っていため、どの様な格好をしているか見た目ではわからないが、中身はいつもの隊服ではないことは足元をみればわかってしまう。

「は?第13部隊?不具合の塊がいったい我らの駐屯地になんの用だ」

 いや、ルディは連絡があったはずだと言ったのに?ここに上官はいないのだろうか。
 すると、代表して話をしていた騎士シュヴァリエがいきなり地面に激突した。
 違う。後ろから頭を鷲掴みされ、そのまま地面に押し付けられたのだ。

「申し訳ございません。直ぐに騎獣舎に案内します」

 そう言って、部下の頭を地面に押し付けながら、頭を下げているのは、白い隊服を着た青年だった。何処に成人男性の頭を地面押し付けるほど力があるのだろうかと疑問に思ってしまうほど、ひょろりとした青年だった。まぁ、身体強化を使えばある程度補えるけどね。

「騎獣とお荷物はこちらで預からせていただきます」

 騎獣舎に案内してくれた青年が、申し訳無さそうにしながら言った。流石に第13部隊長がここに来るということを、部下に周知徹底していなかったのは、かなりのマイナスだ。

「出立は明日の朝と伺っていますが、間違いはないでしょうか?」

「ええ、間違いはありません。因みに、討伐対象の魔物の情報はいただけるのでしょうか?」

 胡散臭い笑顔のルディが、ひょろりとした青年に問いかける。

「聞き及んだ内容ですと、オーガの変異種とだそうです。詳しくは現地で聞いて貰ったほうがいいと思われます」

「そうですね。ありがとうございます」

 ルディは青年にお礼を言って、この場を後にする。私はしっかりとルディに手を捕獲されたまま、連れ出されたのだった。





 二人の背を見送った騎士としては細身の青年は踵を返し、元来た道を戻って行く。足早に訓練場まで行き、目的の人物を見つけると、有無を言わさず思いっきり腹を殴りつけた。どう見ても青年の方が軟弱そうだが、殴られた人物は盛大に地面を跳ね飛んでいく。それを追いかけるように青年は地面を蹴り、薄い灰色の隊服を着た人物の背中を足蹴にした。

騎士シュヴァリエモーガン。私は言いましたよね。本日、正午に第13部隊長が来られると、上空にワイバーンが確認されしだい私に連絡をいれるように言いましたよね?」

 青年は踏みつけた背をグリグリと地面に押し付ける。押し付けられた人物からは肺を圧迫され、くぐもった声が漏れるのみだ。

「迎え入れるならまだしも、あの者を貶すような言葉。この駐屯地を壊滅させたいのですか?本当に生きた心地がしませんでしたよ」

 青年はつい最近同僚から聞いた言葉を思い出していた。

『先日の昇格試験で、あのアンジュが将校オフィシエになっただろ?それで早々にやらかしたんだよ。何をだって?ほら、アンジュって貴族に好まれる容姿だろ?どっかの馬鹿がアンジュにちょっかい出したんだよ。それもキルクスの子飼いを使ってさ。それで、第13部隊長がブチ切れて、北の森が壊滅状態になって、エヴォリュシオン侯爵の首がすげ替えられたんだよ。恐ろしいよな。で、まだあるんだけど聞くか?』

 同僚の言葉に青年は首を横に振って断った。聞かなくても青年はあのシュレイン・ルディウス・レイグラーシアと同期であるため、彼の異常さは理解していた。10年ほど前の地獄のような凄惨たる光景をの当たりしたのだ。
 それにしても同僚は、どっかの馬鹿がと言いつつ侯爵の名前を出すあたり、相当なバカをやらかしたのだろう。当主の首を入れ替えることなんて、普通はあり得ないのだ。

 青年は足蹴にした人物を見て言い放つ。

「どうもキルクスの者以外は愚か者が多く見られますね。一度、3日間の地獄の訓練を再現した方がいいですね」

 その昔死ぬ思いをして、命からがら生き残って、やり遂げた訓練を青年は脳裏に浮かべる。

 そして、おもむろに、地面に横たわった体を蹴り上げた。蹴り上げられた男の体は宙を舞い、地面に激突する。

「さて、久方振り私が相手になってあげますよ」

 そう言って細身の青年は腰から剣を抜き、周りの者たちを見渡す。

「一番初めの相手犠牲者は誰にしましょうか」

 その場にいる者たちは一様に、己の名が呼ばれない事を願ったのだった。


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