聖痕の聖騎士〜溺愛?狂愛?私に結婚以外の選択肢はありますか?〜

白雲八鈴

文字の大きさ
上 下
54 / 374

54 次の犠牲者は誰?

しおりを挟む
 広い敷地にワイバーンが降り立った。そこはかなり広い訓練場のようだった。王都の聖騎士団の敷地もかなり広いと思ったが、この第10部隊の駐屯地の敷地も同じぐらいありそうだ。

 そこの訓練場に降り立ったため、その場に居た者達がわらわらと集まって来てしまった。

「貴様ら、どこの者だ」

 薄い灰色の隊服を着ている人物が威圧的に言ってきた。薄い灰色の隊服ということは騎士シュヴァリエの者だろう。

「第13部隊の者です。連絡はあったはずですが?」

 ワイバーンからルディと共に地面に降り立ち、外套のフードを外した胡散臭い笑顔のルディが言った。外套を羽織っていため、どの様な格好をしているか見た目ではわからないが、中身はいつもの隊服ではないことは足元をみればわかってしまう。

「は?第13部隊?不具合の塊がいったい我らの駐屯地になんの用だ」

 いや、ルディは連絡があったはずだと言ったのに?ここに上官はいないのだろうか。
 すると、代表して話をしていた騎士シュヴァリエがいきなり地面に激突した。
 違う。後ろから頭を鷲掴みされ、そのまま地面に押し付けられたのだ。

「申し訳ございません。直ぐに騎獣舎に案内します」

 そう言って、部下の頭を地面に押し付けながら、頭を下げているのは、白い隊服を着た青年だった。何処に成人男性の頭を地面押し付けるほど力があるのだろうかと疑問に思ってしまうほど、ひょろりとした青年だった。まぁ、身体強化を使えばある程度補えるけどね。

「騎獣とお荷物はこちらで預からせていただきます」

 騎獣舎に案内してくれた青年が、申し訳無さそうにしながら言った。流石に第13部隊長がここに来るということを、部下に周知徹底していなかったのは、かなりのマイナスだ。

「出立は明日の朝と伺っていますが、間違いはないでしょうか?」

「ええ、間違いはありません。因みに、討伐対象の魔物の情報はいただけるのでしょうか?」

 胡散臭い笑顔のルディが、ひょろりとした青年に問いかける。

「聞き及んだ内容ですと、オーガの変異種とだそうです。詳しくは現地で聞いて貰ったほうがいいと思われます」

「そうですね。ありがとうございます」

 ルディは青年にお礼を言って、この場を後にする。私はしっかりとルディに手を捕獲されたまま、連れ出されたのだった。





 二人の背を見送った騎士としては細身の青年は踵を返し、元来た道を戻って行く。足早に訓練場まで行き、目的の人物を見つけると、有無を言わさず思いっきり腹を殴りつけた。どう見ても青年の方が軟弱そうだが、殴られた人物は盛大に地面を跳ね飛んでいく。それを追いかけるように青年は地面を蹴り、薄い灰色の隊服を着た人物の背中を足蹴にした。

騎士シュヴァリエモーガン。私は言いましたよね。本日、正午に第13部隊長が来られると、上空にワイバーンが確認されしだい私に連絡をいれるように言いましたよね?」

 青年は踏みつけた背をグリグリと地面に押し付ける。押し付けられた人物からは肺を圧迫され、くぐもった声が漏れるのみだ。

「迎え入れるならまだしも、あの者を貶すような言葉。この駐屯地を壊滅させたいのですか?本当に生きた心地がしませんでしたよ」

 青年はつい最近同僚から聞いた言葉を思い出していた。

『先日の昇格試験で、あのアンジュが将校オフィシエになっただろ?それで早々にやらかしたんだよ。何をだって?ほら、アンジュって貴族に好まれる容姿だろ?どっかの馬鹿がアンジュにちょっかい出したんだよ。それもキルクスの子飼いを使ってさ。それで、第13部隊長がブチ切れて、北の森が壊滅状態になって、エヴォリュシオン侯爵の首がすげ替えられたんだよ。恐ろしいよな。で、まだあるんだけど聞くか?』

 同僚の言葉に青年は首を横に振って断った。聞かなくても青年はあのシュレイン・ルディウス・レイグラーシアと同期であるため、彼の異常さは理解していた。10年ほど前の地獄のような凄惨たる光景をの当たりしたのだ。
 それにしても同僚は、どっかの馬鹿がと言いつつ侯爵の名前を出すあたり、相当なバカをやらかしたのだろう。当主の首を入れ替えることなんて、普通はあり得ないのだ。

 青年は足蹴にした人物を見て言い放つ。

「どうもキルクスの者以外は愚か者が多く見られますね。一度、3日間の地獄の訓練を再現した方がいいですね」

 その昔死ぬ思いをして、命からがら生き残って、やり遂げた訓練を青年は脳裏に浮かべる。

 そして、おもむろに、地面に横たわった体を蹴り上げた。蹴り上げられた男の体は宙を舞い、地面に激突する。

「さて、久方振り私が相手になってあげますよ」

 そう言って細身の青年は腰から剣を抜き、周りの者たちを見渡す。

「一番初めの相手犠牲者は誰にしましょうか」

 その場にいる者たちは一様に、己の名が呼ばれない事を願ったのだった。


しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」  王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。  偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。  ……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。  それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。  いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。  チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。  ……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。 3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

処理中です...