上 下
41 / 354

41 振動の原因

しおりを挟む

 翌朝、朝食を終えたあと、いつもどおりルディに手を繋がれ、第13部隊の詰め所に向かう。ルディの横では凄く疲れた様子のファルが歩いている。昨日遅くまで会議があったから疲れているのだろうか。

「ファル様おつかれ?」

「ああ、あんまり寝ていない」

 ん?ルディは日付が変わる前に戻ってきたけれど、ファルは戻れなかったのだろうか。

「そう言えば、魔物討伐の方針が決まらなかったって言っていたけど、今日は会議はないの?」

「第1部隊長と第2部隊長が出掛けているから、今日明日はないだろう」

 ルディが教えてくれた。ああ、妹のモエモエポイントの推しのお迎えシーンね。第2部隊長がいたとは聞いていなかったけど、妹の中では抹消されたのだろう。

 会議が無いというなら、いつもの開店休業状態の第13部隊にかわりはない。変わりははずだったのに、これはどういうことなんだろう?

 私は目をこすって目の前の風景をもう一度確認する。おかしい。とてもおかしなことになっている。第13部隊のぽつんと一軒家がある森が森ではなくなっている。なんというか焼き畑の跡という感じだ。

 絶対におかしい!私は森を燃やさないように凄く頑張った。あのバニーの爆破攻撃を最小限に留めて、森も第13部隊の洋館も守ったはず。それなのに守ったはずの洋館の2階の一部がえぐれている。

「え?これなに?私、なるべく被害がでないように頑張ったのに?」

「アンジュ。アンジュが怪我をするとこうなるから、なるべく怪我はしないようにしてくれ」

 ファルがとても疲れたように言った。思わず、ルディを仰ぎ見る。昨日の振動はもしかしてコレだったのか!

「ロベルも肋骨三本折れた状態で、行ってしまったしな」

 第1部隊長!!ルディに連れて行かれたと思ったら、肋骨を折られていたのか!
 ちょっと待って、バニー達はどうなった?

「ねぇ。私に攻撃してきた人たちはどうなってるの?」

「一応、生きている」

 生きてはいるんだね。それなら、これ以上は聞かないでおくよ。しかし、この焼き畑はどこまで続いているのだろう。

「これって、このまま?」

 私は焼き畑状態の森を指して言った。でも、何ができるかって言われても、何も出来ないよね。

「あ?これでも大分マシになったんだぞ。殆ど寝ずに、ここまで再生した俺を褒めてくれてもいいんじゃないのか?」

 大分マシ?森を再生したってこと?
 あ!そうだった。ファルは私の鞘を作ってくれた時に木の聖痕って言っていた。でも、どこを再生したかわからない程、精密に森を再生できるってことは、緑の手とかいわれる力なんじゃないのだろうか。

「じゃ、褒めてあげるから、手を出して」

「あ゛?」

 なぜかルディから低い声が漏れ出てきた。元々はルディがやったことをファルが尻拭いしているだけじゃない。

「回復してあげるだけ」

 私はそう言って、ファルに右手を差し出そうとするけど、ルディにガシリと恋人つなぎをされて外れそうにない。

「ルディ。ファル様が寝ずに頑張ってくれているんだから、回復ぐらいしてもいいと思うんだけど?」

「あー。アンジュ、別にしなくていい。アンジュはシュレインの機嫌をこれ以上損ねないようにしてくれればいい」

 え?大人しくしているように、遠回しに言われた?わかったよ。今日は大人しくルディについていればいいってことだね。

 ファルは今日は一日外での作業だからといって、詰め所の洋館には入らず、焼き畑の森の中に一人入っていった。なので、ルディと二人で居間兼プレイルームに入ると、いつも朝から各々おのおのが好きなように過ごしているのに、今日は入り口に4人が整列していた。

「お、おはようう、ご···ございます」

 ヴィオが言葉に不自由なのかと思うほど詰まった声で挨拶をした。その後に続いて、3人が頭を下げて挨拶をしたが、皆一様に顔色が悪い。

「ああ、今日も特に予定はありませんから、いつもどおりで構いませんよ」

 胡散臭い笑顔のルディが今日も予定が無いことを告げると、脱兎の如く4人が部屋の一番端まで駆けていった。松葉杖をもったティオでさえもだ。
 あの、私まだ挨拶していないのだけど?

 ルディはいつもどおり、本棚から一冊本を抜き取り、一人掛けのソファに座り、私を膝の上に乗せた。
 えっと···これは何?私は立ち上がろうとするけれど、腰を抱えられ、全く動けない。
 顔を横に向け4人の方を見ると、4人共青いお顔で首を横に振って、こっちに来るなと手を振っている。

 何がいつもと違う?ただ、ファルがここに居ないだけだよね。ファル?
 あれ?そう言えばいつも4人は隊長であるルディの前じゃなくて、副隊長であるファルの前に整列していた。話すのもファルとは話しているのは見たことはあるけど、ルディと雑談しているのを聞いたことはない。ただ、ルディが隊長として命令を彼らにしていることはあった。
 ファルってもしかして、ルディと彼らの緩衝材になっている?

 昼食も一緒に食べないのはルディの所為だったりする?

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

悪妃の愛娘

りーさん
恋愛
 私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。  その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。  そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!  いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!  こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。  あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

竜帝は番に愛を乞う

浅海 景
恋愛
祖母譲りの容姿の両親から疎まれている男爵令嬢のルー。自分とは対照的に溺愛される妹のメリナは周囲からも可愛がられ、狼族の番として見初められたことからますます我儘に振舞うようになった。そんなメリナの我儘を受け止めつつ使用人のように働き、学校では妹を虐げる意地悪な姉として周囲から虐げられる。無力感と諦めを抱きながら淡々と日々を過ごしていたルーは、ある晩突然現れた男性から番であることを告げられる。しかも彼は獣族のみならず世界の王と呼ばれる竜帝アレクシスだった。誰かに愛されるはずがないと信じ込む男爵令嬢と番と出会い愛を知った竜帝の物語。

旦那様、離縁の申し出承りますわ

ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」 大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。 領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。 旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。 その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。 離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに! *女性軽視の言葉が一部あります(すみません)

塩対応の公子様と二度と会わないつもりでした

奏多
恋愛
子爵令嬢リシーラは、チェンジリングに遭ったせいで、両親から嫌われていた。 そのため、隣国の侵略があった時に置き去りにされたのだが、妖精の友人達のおかげで生き延びることができた。 その時、一人の騎士を助けたリシーラ。 妖精界へ行くつもりで求婚に曖昧な返事をしていた後、名前を教えずに別れたのだが、後日開催されたアルシオン公爵子息の婚約者選びのお茶会で再会してしまう。 問題の公子がその騎士だったのだ。

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?

氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。 しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。 夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。 小説家なろうにも投稿中

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

処理中です...