上 下
36 / 358

36 転移の腕輪

しおりを挟む
 左腕でイスラの拳を受け止めるも、バキっという音が私の内側から聞こえてきた。そして、そのまま木々の中を吹き飛ばされる。
 が、左腕につけている腕輪が震えだす。



 え゛?めっちゃヤバい。今ここで!!



 私は別の浮遊感を感じた直後に、体中に衝撃が走る。恐らく、どこかの壁に叩きつけられたようだ。呪いの腕輪が転移を発動してしまったのだろう。
 流石にこの状況で受け身は無理だった。頭が痛い。

 あー。複数の痛い視線を感じる。私はスクッと立ち上がる。

「お騒がせしました」

 と、頭を下げると、額から赤い液体が流れてきて、赤い絨毯を更に赤く染めてしまった。
 さっき壁に打ち付けたことで頭を切ってしまったようだ。

 わらわらと人が私の周りに集まってしまった。え?私どうすればいい?

「何がありました?」

 ルディの声に顔を上げるが、後頭部が痛んで思わず顔が歪む。

「アンジュちゃん。頭をこれで押さえて」

 女性の声がして頭に何かの布が当てられた。声の方を見ると明るいオレンジ色の髪を顎の辺りで揃え、夏の空のような明るい青色の目を心配そうに向けている女性がいた。

「リザ姉」

 リザ姉も私と同じ10人部屋だった一人だ。確か5歳上だったはずだ。

「アンジュ。この左腕はどうしました」

 先程から、口調は丁寧だけど、瞳孔が開いた目で見てくるルディが恐ろしい。

「折れた」

「何があったのですか?」

「····」

 えー。素直に言うと私が部屋にいなかった事がバレる。いや、もうこの時点でばれているか。

「アンジュ」

「どこぞかの貴族の使いの人が、主と会って欲しいと言われて、断ったら20人から攻撃された」

 私の言葉にざわめきが起こる。そして、ルディの機嫌が急降下してくるのか手にとるようにわかってしまった。

「アンジュが怪我をしたということは、知っている顔がいましたか」

「····」

 それ、言わないと駄目かなぁ。

「アンジュ」
「アンジュちゃん」

 うっ。なんだか複数の視線が突き刺さる。

「キルクスの同期が5人」

 この言葉に数人が室内から出ていったのがわかった。侵入者の確認をしにいったのだろう。皆、ごめん。私に言わない選択肢はなかった。頑張って生き延びて欲しい。

「アンジュは剣を抜きましたか?」

 ん?この質問はなんだろう?

「そもそも今日は休むように言われていたから持ち歩いていない」

「魔術での攻撃はどうですか?」

 攻撃魔術ということだろうか。それは使わないように心がけていた。私が多量に魔力を使えば、ルディに何かしら感知されそうだから、極力最小の魔力消費ですむようにしていた。

「使ったのは攻撃性のない魔術だけ。結界とか身体強化とか」

 その代わり呪いの指輪は多用したけれどね。

「凄いわ。完璧よ。アンジュちゃん」

「何が?リザ姉」

「後はこちらが対処するから大丈夫よ。早く怪我の手当をしてね」

 怪我で一番酷いのは、そこの壁で打ち付けた頭だけどね。先程からズキズキ痛い。折れた腕も痛い。

 私はルディに抱えられ、会議室と思われる部屋を出るが、恐くてルディの顔が見れないので目を瞑っている。もう、ひしひしと機嫌の悪さを肌で感じている。

 感じているが、優しい何かに包まれている感覚もある。なんだろう?天使の聖痕で治癒をしている感じに近い。

「ルディ。何か力を使っている?」

「···」

 無言か。これは相当機嫌が悪そうだ。やっぱり外に出たのが悪かったのかなぁ。
 いや、会議中に転移しながらぶっ飛ばされたのが、悪かったよね。結局、会議を中断させてしまったし。

 宿舎まで戻ってきたようだが、この時間にこの宿舎に人の気配はない。·····あれ?医務室は?

 ルディは2段飛ばしくらいで階段を上っていき、4階にたどり着いてさっさと鍵を開けて、部屋に入っていき、私をベッドの上に置いた。だから、医務室は?

 私は体を起こし、怪我がひどい後頭部を治癒する。はぁ。やっとズキズキと酷い痛みが収まった。折れた左腕はどうしようか。あそこにいた人たちに私の腕が折れたことを知られているので、これは治さない方がいいだろう。

 取り敢えず、着替えて腕を固定しないと。まさか、白い隊服を初っ端から自分の血で汚してしまうなんて、後で修復と洗浄の魔術を使っておこう。そう思いながらベッドから下りようとすると

「どこに行く気だ」

 ルディのとてもとても機嫌の悪そうな声が降ってきた。

「着替えて、折れた腕の固定をしようと」

 視線を合わせる勇気は私は持ち合わせていない。すると、私の部屋着がベッド上に置かれた。

「腕の固定をするものを取ってくるから、着替えて待っていろ。絶対にそこから動くな。絶対・・にだ!」

 私には頷く選択肢しかない。だから、素直に頷く。
 ルディが部屋を出ていったので、汚れた隊服を脱いで着替える。真っ白な隊服にポツポツと赤いシミが出来てしまっているので修復と洗浄の魔術で元の状態にする。

 そして、正に血を被った状態であろう私にも、魔術で綺麗にしておく。
 本当はシャワーを浴びたいけれど、流石に折れてパンパンに腫れた腕では洗えないだろう。
 ルディが戻ってくるまで、その腫れた腕を冷やしておこう。ベッドに横になり、左腕に冷気をまとわす。ルディが戻って来たらきっとお小言を言われるのだろうな。

 ウトウトと眠気が降りてきた。ルディが戻ってくるまで寝ていてもいいだろうか。
 覚醒と眠りの狭間を漂っていると、下から突き上げるような衝撃が襲ってきた。

 地震!!

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。 そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。 そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。 「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」 そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。 かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが… ※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。 ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。 よろしくお願いしますm(__)m

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる

花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

【完結】きみの騎士

  *  
恋愛
村で出逢った貴族の男の子ルフィスを守るために男装して騎士になった平民の女の子が、おひめさまにきゃあきゃあ言われたり、男装がばれて王太子に抱きしめられたり、当て馬で舞踏会に出たりしながら、ずっとすきだったルフィスとしあわせになるお話です。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑 side story

岡暁舟
恋愛
本編に登場する主人公マリアの婚約相手、王子スミスの物語。スミス視点で生い立ちから描いていきます。

処理中です...