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32 いつの間にか改装されていた

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「これは何?」

 私は呆れ気味にルディを見て問いかける。そのルディは胡散臭い笑顔ではなく。満足気な笑顔で私を見ている。

 私は今日最大のイベントを終え、暇でしかない業務を終え、部屋で夕食を食べ、シャワーを浴びて後は寝るだけだったのだ。
 なのに、この状況は流石に目が冴えてしまった。

「何って、アンジュの為に改装した」

 改装。確かに改装と言っていい。

 今、私がいるところはルディの部屋に繋がる扉の向こう側だ。
 後は寝るだけと自分の寝室に引き籠もろうとしたときに、ルディに手を引っ張られ、怪我をして寝込んでいたとき以来、入ったことがなかったルディの寝室に連れてこられたのだ。

 何?その褒めてっていう顔は。

 私の部屋ほど殺風景ではなかったが、壁際に一面の本棚があった以外、必要最低限の物しか置いていなかった部屋に····。

「何故に天蓋付きのキングサイズのベッドが?」

「アンジュと一緒に寝るためだ」

 まぁ、そうだろうけど。これ普通にドアを通る大きさじゃないから、ここで組み立てたのだろう。

「王都はキルクスよりも北にあるから、冬はかなり冷える。天蓋付きの方がいいだろ?」

 王都の冬を体験したことがないのでなんとも言えないけど、王都とキルクスの間には高い山脈が横たわっているため、キルクスの冬は雪が降らず、からっ風が吹くのだ。
 だから、北側の王都は高い山脈にぶつかった雪雲から湿気を含んだ雪が降ることは想像できる。

 因みにこの国の北側の帝国の冬は凍てつく寒さらしい。きっと”バナナで釘が打てるよ”体験ができるほどなのだろう。

「で、バスルームが隣接しているのは?」

「アンジュと一緒に入るため」

 右手は繋がれて使えないので、左手でこぶしをつくってルディの脇腹にパンチを入れる。

 ここの宿舎の設備は以前説明したとおりだけど、部屋の入口から真っ直ぐ進めば、リビングダイニングと簡易キッチンがある部屋に繋がる。だが、バスルームとトイレは部屋の入口を入って直ぐの左側にある。決して寝室には繋がっていない。寝室に繋がっているのは1帖ほどのクローゼットだ。

「アンジュは一人しておくと、フラフラと何処かに行ってしまうじゃないか」

「フラフラはしていないし、そもそも呪いの腕輪があるのに、どこにも行けないよね」

 この腕輪どうにかして外れないかなぁ。と思いながら腕輪を見ていると、ルディの声が上から降ってきた。

「アンジュ。その腕輪を外すと今度は鎖で繋ぐからな」

 何を繋ぐつもり!私をってこと!!
 監禁は犯罪だ!私に自由があってもいいはずだ!

「私の行動の自由は認められるべきだと思う」

「じゃ、明日は休みをとってデートをしよう」

 いや、そういうことじゃない。私は一人でフラフラと王都の散策を····あれ?フラフラしてる?!私、ルディに言われるほどフラフラしていた?

 ご機嫌なルディに抱えられ、4人程が余裕で寝られそうなベッドに連れ込まれる。はぁ。本当に何故ここまで私に執着するのだろうか。

 このベッドもかなりお金がかかっているだろうと思われるほど、質がいい。
 今までが硬いベッドしか使ってなかったから比較しようがないけれど、以前の記憶にある仕事と家の往復しかしておらず、せめて快眠を求めてこだわった寝具並に、質がいい。

 ん?誰もいないのに天蓋から落ちるレースのカーテンが引かれ、空間が閉じられた?結界?

「るでぃ兄。これって結界?それに影?闇の魔術も使いこなせてる?」

 カーテンを引いたのは恐らく影だ。だけど、ルディの魔力が動いた感じはしなかったのは気の所為?そのあとの結界の発動には四方の支柱にある石が、ほのかに光りだしたので、これは魔石を動力源にしているようだ。

「アンジュ。正式に婚約者として発表したのだから、ルディと呼んで欲しい」

 ああ、まぁそうだよね。

「ルディ」

 うぐっ!いつも思うけど力の加減がおかしい。そして、そのまま寝ようとするな!身をよじるがルディの腕の中から抜け出せそうにない。

「ルディ!苦しい!力強すぎ!結界の説明を聞いていない!」

「アンジュがキスしてくれたら教える」

 何を言っているのか。やっと腕の力を抜いたルディ見る。うん。

「···おやすみ」

 そんな要望には応じない。結界は今のところ問題ではないので放置でいい。

「アンジュ。じゃ、おやすみのキス」
「しません」

 ルディの言葉に被せるように否定する。今日、アストがおかしな事を言うから、ルディまでおかしな事を言うようになってしまったじゃないか。

「アンジュが足りない」

 何が足りないのか!もともと私は一人しかいない。

「今日のアンジュはリュミエール神父と楽しそうに話していたし」

 え?どのあたりが楽しそうだと?私はストレスしか感じなかったけど?

「ヒューゲルボルカとアストヴィエントとも楽しそうに話していたし」

 いや、狂気を振りまいていたルディを止めに来てくれただけで、楽しそうにはしていなかったはず。

「楽しそうに話しているアンジュの首をかき斬ればいいのか、俺ではないヤツを見ていると目をくり抜けばいいのか、嬉しそうに受け取った指輪を腕ごと叩き斬ればいいのか」

 私が標的になっていた!!恐ろしい事を瞳孔が開いた目で言わないで欲しい。
 たかがキス如きで命の危機が去るのであれば安いものだ。

 伊達に30云年の前世の記憶を持ってはいない。『私のファーストキスがドキドキ』というほど初心うぶな神経は持ち合わせてはいない。
 命の危機が迫っているドキドキの方が勝っている。

 私はルディの頬に手を添えて小鳥が啄むようなキスをした。

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