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24 晴れ舞台、だけど心は土砂降り
しおりを挟む今日は私の晴れ舞台の日····と普通は喜ぶところなのだろうが、私の心模様は土砂降りの雨が降っている。今日は誓いの儀式というものがあるらしい。
普通は国王に忠誠を示すのだろうが、聖騎士は聖女に忠誠を示すそうだ。居ない人物に向かってどう忠誠を示すのかは知らないが。
そして、なぜ私の心が土砂降りかというと、ルディがその場で私との婚約を発表すると言い出したのだ。それはもうやめて欲しい。だが、ファルもそうした方がいいと賛成してきたのだ。
私は真っ白な礼服の隊服に袖を通しながら、ため息がたえない。
もう、ボイコットしたい心境だ。
身なりを整えて寝室を出ると、同じく白い礼服の隊服に身を包んだルディがいた。あ、うん。なんだかいつもより、かっこいい気がする。
「アンジュ!とても似合っている。ああ、やっぱり外に出したくないな」
「え?ボイコットしていい?」
「アンジュ。それは駄目に決まっているだろう」
ファルの呆れた声が聞こえてきた。あ、ファルもいたのか。気が付かなかった。
「それで、今日の誓いの儀式の詳しいことを聞いていないのだけど?」
私は今日誓いの儀式というものがあるということと、そこでルディとの婚約を発表するということしか聞いていない。
「今日の誓いの儀式を行うのは3人だ。騎士になった2人とアンジュだけだ。場所は大聖堂で行う」
大聖堂。この国の教会の本部だと教えられたところだ。聖女信仰本部と言い換えてもいいだろう。そこで誓いの儀式をする?なんだか嫌だなぁ。
「そこに集まるのは侯爵以上の貴族と将校以上の階級の者と国王陛下だ」
「侯爵以上?」
上位貴族というなら伯爵も入るのではないのだろうか。
「まぁ、あれだ。聖女をこの上なく敬愛してる者達が多くいるということだ」
「キモい!キモすぎる!もう、私ボイコットしていいよね!」
聖女をこの上なく敬愛してると言いながら、聖女を創り出そうとしている者達の集団ということだよね。白い髪がいいとかいう奴らだよね。
もう、先程から肌の粟立ちが酷い。
「アンジュ。だからそこで俺たちの婚約を発表することが大事なんだ」
「うっ」
いや、わかるよ。わかる。その人達を牽制したい狙いがあるのだろうけど、嫌過ぎる。
「あと、これだ」
ファルから真っ白い鞘に入った剣を渡される。礼式用の剣だ。それを受け取り、腰に剣を佩く。姿形は完璧になったが、私の心が晴れることはない。
「髪の毛、灰色にしたら駄目?」
「駄目だ」
「国王陛下もいらっしゃるから姿を偽るのは不敬にあたる」
二人からダメ出しをされてしまった。もう、私には無事に誓いの儀式というものが終わることを願うしかない。
ルディに手を恋人つなぎをされ、部屋を連れ出される。私の心の中ではドナドナが繰り返し流されている。売られていく子牛の気分だ。
「アンジュ。その死んだ魚の目をするのはやめろ。もうすぐ大聖堂だ」
ファルに指摘され、意識を前方に向けると、真っ白な建物が大きく構えていた。私の記憶で近い建物の形で言えばサグラダ・ファミリアに似ているだろうか。正面には大きな4つの尖った屋根がそびえ立ち、そのてっぺんには太陽を模したモニュメントが掲げられている。奥にはそれよりも大きな塔が立っており、一番上には鐘が備え付けられている。朝と夕刻に毎日鳴らされているのが、印象的だ。
その建物の正面から入っていき、ルディは私と手を繋いだまま、建物の入り組んだ廊下を進んでいく。
あれ?私はてっきり祭壇前に連れて行かれると思っていたのだけど?ここどこ?
そして、建物の奥の方だと思われるところで立ち止まった。
目の前には両開きの扉があり、その横には礼服用の隊服を着た騎士が2人立っているが、見たことのないキラキラした隊服だった。私達は白を基調とした隊服だけど、目の前の二人は金色を基調とした隊服だった。太陽の下だと目が痛そうな色だ。
その騎士たちが両開きの扉のノブに手をかけ、扉を開ける。訓練をされたかのように、綺麗に動作がそろっていた。
扉の先にはまた扉が····?私はいったい何処へ連れて行かれているのだろう。その先の扉は内側から開けられ、広い室内に通された。どうやら、応接室のようだ。室内を見渡すとよくわからない絵画が壁に並べられ、金属や陶器やガラスの置物が壁の棚に並べられ、実用性のない大きなツボが壁側に置かれている。ここにいるだけで、頭が痛くなりそうな、まとまりがない部屋という印象だ。
その中央には優雅に布張りのソファに腰を下ろし、ティーカップを傾けている人物がいる。この人物も一言で言えば、キラキラしいてる。
腰まである白銀の髪が外光の光を浴びて煌めいており、空を写したような青い瞳を目の前に座っている人物に優しそうな視線を向けている。身にまとっている衣服も、白地に金の装飾をふんだんに使っている。容姿は30歳ぐらいの中性的な感じだが、骨格からすれば、男性なのだろう。
私はこの世界で生まれて初めて自分以外の銀髪の人に出逢ったのだった。
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