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20 ここで限界
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カーラとレイとは下町の食堂で別れ、再び私は馬上の人となった。馬上から見る風景は正に平和そのものだった。人々の表情に影はなく、日々の暮らしに勤しんでいる。そんな風景だ。この影に魔物の脅威に苦しめられている人がいるとは思われない。
私は、キルクスの街とその周辺しか知らないけれど、どこぞの村が魔物に襲われたとか、街道に魔物が居座っただとか、そういう話はよく耳にしてた。
しかし、キルクスのような大きな街だと高く頑丈な外壁に護られ、実際に魔物からの脅威というものを感じることはない。冒険者という職にでもつかない限り。
だから、この王都でも同じなのだろう。外壁の直ぐ側にキマイラなどという魔物がいても、この王都の中にいれば護られるのだから、彼らは脅威というものを感じることはない。
「アンジュ。どこに行きたいですか?」
私を横抱きに抱えながら器用に馬を操っているルディが聞いてきた。
どこにと言われても、私の欲しい衣服は手に入ったので、用事はもうない。それに私は王都に何があるかわからない。
ああ、ちょっと意地悪を言ってみようか。
「じゃ、ここではない何処かに」
「····」
「冗談。冗談。私は王都に何があるか知らないから、どこにと言われてもわからないよ」
うーん。ルディが黙ってしまった。意地悪過ぎただろうか。馬はカポカポと何処かに向けて進んでいく。
連れて行かれたところは王都の南の一番端。外門があるところだった。その外門を通り抜け、その先の街道を通り、大きな川がある橋の手前で馬は止まった。
「ここで限界だ」
ルディはそういった。そう、ここまでが行動の自由が許された範囲。私も。ルディも。そして、王都に詰めている聖質を持つ者たちが日常で許された行動範囲。
「そう」
私それしか言葉が出てこない。わかってはいた。教会でもそうだったのだ。一定の地点まで来ると必ずその先には行かせまいと邪魔が入ったのだから。
「そう、見張りがいるのは変わらないってこと」
「アンジュは気が付いていたのか?」
「ふん。何度も試したもの。迷子のふりをして何処まで許されるかってね。何かの基準をクリアすると行動範囲は広がっていったけれどね」
私はそう言って馬から飛び降りる。そして、周りを見渡す。10人か多いな。いや少ないのか?まぁいい。身を隠してこちらが境界を越えれば邪魔をする程度の者たちだ。
しかし、知っている魔質を持つ者が混じっている。あの悪魔神父は手抜かりがない。いや、思っていた以上に手が長いということなのだろう。
私は石で作られた頑丈な橋に向かっていく。私の行動にルディは何も言わず、馬上のままその場に留まっている。
石の橋に一歩踏み出した瞬間、一陣の風が吹き抜けた。もう、この橋自体が境界線だったのか。
境界線がわかったので、私は踵を返しルディの元に戻る。
「戻る」
「もういいのか」
ルディの言葉に私は頷く。ああ、本当に組織というものはクソだ。
ルディに引っ張り上げられ、再び私は馬上の人となった。
「これが、職務となると行動規制はどうなるの」
「行動規制は無い」
ああ、だから誰も休みを望まない。職務ではないと見張りが付き、行動の監視が入るからだ。
まぁ、私はその監視の目でよく遊んでいたけれど。
知っている魔質を持つ者が隠れている方に視線を向け、声なき声を放つ。相手の鼓膜に直接響かせる空気の振動させる魔術だ。
『神父様に言っておいて、人の金に制限までかけるなと』
知っている魔質が大きく揺れた。まぁ、嫌がらせだ。こんなところまで見張りに来やがってという思いを込めてだ。名前は知らないが、私を常闇に放り込んだことは、何年経とうが忘れることじゃない!
「アンジュ?」
「戻ろう。るでぃ兄」
私たちは王都の方に戻っていった。今日は色々収穫があった日になった。見張りがつこうがやはり街に出るのはいいことだ。私の知らない情報を得るにはこういうところの方が一番いい。
それに気になる話もあった。聖騎士団の隊服を着ている私に対して言ったあの言葉。
出来が悪い娘。貴族の哀れな子羊。直ぐに新しい娘に代わる。使い捨てにされる。
そういうことなのだろう。神父様が言っていた『アンジュ。聖騎士になって活躍することを願っていますよ』という言葉。もし、活躍が出来なければ···。
5日後、私は昇格試験を受ける日となった。
5日間何をしていたかと言えば、残りのルディとファルの剣を刀に変えていたり、南方の山の魔物討伐が1件はいったので、討伐に行ったり。
あまりにも同じ昼食に限界がきて使われていなかった屋敷のキッチンの大掃除をして材料を買いに出て、私とルディの分だけ作っていれば、何故か全員分の昼食を作るはめになってしまったり、色々あった。
そして、本日見習いから給料が出る騎士になれるかどうか決まってくるのだ。
ファルに連れられて来たところは、私が普段行くことがない区画だった。そこの一角の訓練場が試験会場のようだ。会場と言ったものの、ただのだだっ広い何もない敷地だ。
ルディはというと、会議というものがあるそうで、ブチブチと文句を言いながら、会議に行ったので、この場にはいない。
そして、ファルも頑張れよとだけ言って戻って行った。せめてここで何があるかぐらい説明をしてほしかった。
私と同じ色の隊服を着た数十人の人が一箇所に固まっているから、そこに行けばいいのかと思うのだけど、なぜだか、不審な目を向けられている。
はぁ、だから普通の新人と同じ待遇でと言ったのに。自分たちと違う待遇の者がいれば、その者は忌避される存在となってしまうというのに。
別のところでは、濃い灰色の隊服と騎士の隊服との間の灰色の隊服の者たちが集団で固まっている。恐らく彼らは従騎士なのだろう。主に騎士の元について下働きや荷物持ち、そして戦闘にも参加する者たちだ。
ん?あそこにいるのは、別のところに白い隊服を着た人物が二人立っていた。彼らはこの昇進試験の試験官だろうか。その者たちの方に足をむけた。
私は、キルクスの街とその周辺しか知らないけれど、どこぞの村が魔物に襲われたとか、街道に魔物が居座っただとか、そういう話はよく耳にしてた。
しかし、キルクスのような大きな街だと高く頑丈な外壁に護られ、実際に魔物からの脅威というものを感じることはない。冒険者という職にでもつかない限り。
だから、この王都でも同じなのだろう。外壁の直ぐ側にキマイラなどという魔物がいても、この王都の中にいれば護られるのだから、彼らは脅威というものを感じることはない。
「アンジュ。どこに行きたいですか?」
私を横抱きに抱えながら器用に馬を操っているルディが聞いてきた。
どこにと言われても、私の欲しい衣服は手に入ったので、用事はもうない。それに私は王都に何があるかわからない。
ああ、ちょっと意地悪を言ってみようか。
「じゃ、ここではない何処かに」
「····」
「冗談。冗談。私は王都に何があるか知らないから、どこにと言われてもわからないよ」
うーん。ルディが黙ってしまった。意地悪過ぎただろうか。馬はカポカポと何処かに向けて進んでいく。
連れて行かれたところは王都の南の一番端。外門があるところだった。その外門を通り抜け、その先の街道を通り、大きな川がある橋の手前で馬は止まった。
「ここで限界だ」
ルディはそういった。そう、ここまでが行動の自由が許された範囲。私も。ルディも。そして、王都に詰めている聖質を持つ者たちが日常で許された行動範囲。
「そう」
私それしか言葉が出てこない。わかってはいた。教会でもそうだったのだ。一定の地点まで来ると必ずその先には行かせまいと邪魔が入ったのだから。
「そう、見張りがいるのは変わらないってこと」
「アンジュは気が付いていたのか?」
「ふん。何度も試したもの。迷子のふりをして何処まで許されるかってね。何かの基準をクリアすると行動範囲は広がっていったけれどね」
私はそう言って馬から飛び降りる。そして、周りを見渡す。10人か多いな。いや少ないのか?まぁいい。身を隠してこちらが境界を越えれば邪魔をする程度の者たちだ。
しかし、知っている魔質を持つ者が混じっている。あの悪魔神父は手抜かりがない。いや、思っていた以上に手が長いということなのだろう。
私は石で作られた頑丈な橋に向かっていく。私の行動にルディは何も言わず、馬上のままその場に留まっている。
石の橋に一歩踏み出した瞬間、一陣の風が吹き抜けた。もう、この橋自体が境界線だったのか。
境界線がわかったので、私は踵を返しルディの元に戻る。
「戻る」
「もういいのか」
ルディの言葉に私は頷く。ああ、本当に組織というものはクソだ。
ルディに引っ張り上げられ、再び私は馬上の人となった。
「これが、職務となると行動規制はどうなるの」
「行動規制は無い」
ああ、だから誰も休みを望まない。職務ではないと見張りが付き、行動の監視が入るからだ。
まぁ、私はその監視の目でよく遊んでいたけれど。
知っている魔質を持つ者が隠れている方に視線を向け、声なき声を放つ。相手の鼓膜に直接響かせる空気の振動させる魔術だ。
『神父様に言っておいて、人の金に制限までかけるなと』
知っている魔質が大きく揺れた。まぁ、嫌がらせだ。こんなところまで見張りに来やがってという思いを込めてだ。名前は知らないが、私を常闇に放り込んだことは、何年経とうが忘れることじゃない!
「アンジュ?」
「戻ろう。るでぃ兄」
私たちは王都の方に戻っていった。今日は色々収穫があった日になった。見張りがつこうがやはり街に出るのはいいことだ。私の知らない情報を得るにはこういうところの方が一番いい。
それに気になる話もあった。聖騎士団の隊服を着ている私に対して言ったあの言葉。
出来が悪い娘。貴族の哀れな子羊。直ぐに新しい娘に代わる。使い捨てにされる。
そういうことなのだろう。神父様が言っていた『アンジュ。聖騎士になって活躍することを願っていますよ』という言葉。もし、活躍が出来なければ···。
5日後、私は昇格試験を受ける日となった。
5日間何をしていたかと言えば、残りのルディとファルの剣を刀に変えていたり、南方の山の魔物討伐が1件はいったので、討伐に行ったり。
あまりにも同じ昼食に限界がきて使われていなかった屋敷のキッチンの大掃除をして材料を買いに出て、私とルディの分だけ作っていれば、何故か全員分の昼食を作るはめになってしまったり、色々あった。
そして、本日見習いから給料が出る騎士になれるかどうか決まってくるのだ。
ファルに連れられて来たところは、私が普段行くことがない区画だった。そこの一角の訓練場が試験会場のようだ。会場と言ったものの、ただのだだっ広い何もない敷地だ。
ルディはというと、会議というものがあるそうで、ブチブチと文句を言いながら、会議に行ったので、この場にはいない。
そして、ファルも頑張れよとだけ言って戻って行った。せめてここで何があるかぐらい説明をしてほしかった。
私と同じ色の隊服を着た数十人の人が一箇所に固まっているから、そこに行けばいいのかと思うのだけど、なぜだか、不審な目を向けられている。
はぁ、だから普通の新人と同じ待遇でと言ったのに。自分たちと違う待遇の者がいれば、その者は忌避される存在となってしまうというのに。
別のところでは、濃い灰色の隊服と騎士の隊服との間の灰色の隊服の者たちが集団で固まっている。恐らく彼らは従騎士なのだろう。主に騎士の元について下働きや荷物持ち、そして戦闘にも参加する者たちだ。
ん?あそこにいるのは、別のところに白い隊服を着た人物が二人立っていた。彼らはこの昇進試験の試験官だろうか。その者たちの方に足をむけた。
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