聖痕の聖騎士〜溺愛?狂愛?私に結婚以外の選択肢はありますか?〜

白雲八鈴

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17 今日はデート?

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 朝の揺蕩うまどろみの中、鳥の鳴き声が耳に入ってくる。

『ウッキョー!ウッキョー!』

 この耳をつんざくような鳥の鳴き声はここで飼っているのだろうか。毎朝、毎朝、嫌がらせように、叩き起こしやがって!

 はぁ、仕方がない起きるか。ここ最近の精神をえぐる攻防を開始する。

「るでぃ兄。おはよう。今日はお休みだから、アンジュ起きたいなぁ」

 相変わらず、婚約者だからというわけわからない理由で一緒に寝ているルディに声をかける。

「·····」

 しかし、返事がない。無視か!無視なのか!
 くそー。昨日の事が尾を引いているのか。

 そう、昨日私は言ったのだ休みが欲しいと。冒険者ギルドに預けているお金を取りに行きたいと。もちろん一人で。
 しかし、ルディはデートをしようと譲らなかった。だが、私もここを折れるわけにはいかない。

「るでぃ兄。力を緩めて欲しいな。アンジュ起きたいなぁ」

 もう一度言ってみるが返事はない。力技でいってみる?しかし、私の身体強化なんてたかがしれている。現にベッドの中で捕獲され身動きがとれないのだ。

 そんなにデートというものがしたいのか?昔からルディに連れ回されたが、大抵がルディとファルが受けた冒険者ギルドの依頼につきあわされていた記憶しかない。
 私は個人的な私物が欲しいのだ。聖騎士としてここで暮らすのであれば、ある程度の日用品は必要だ。
 今は見習い期間で無給だが、3年ぐらいは放浪の旅に出てもやっていけるぐらいのお金は貯めている。

 切実に下着と服が欲しい。

 ん?ここで腕輪の力を使ったらどうなるのだろう。転移をして一度この場から消えて元の場所に出現する?それとも少しずれて転移される?要は腕輪の近くに転移されるのであれば、この状況から脱出できるのでは?
 ふふふふふ。どうなるか試してみようじゃないか。

「何をしようとしている?」

「ふぉ!」

 え?私が何かしようとしているのがバレた?目を開けて、人を射殺しそうな視線を私に向けているルディが視界に入ってきた。朝から心臓に悪すぎる。

「るでぃ兄。おはよう。今日は天気がいいよ」

 取り敢えずごまかしてみる。

「アンジュ。何をしようとしていた」

 騙されなかったか。しかし、なぜわかったのだ?

「何かしようとしてたように見えた?」

「ああ、アンジュが楽しそうに考えごとをしているときはろくな事がない」

「え?楽しそう?私、楽しそうだった?」

 楽しそうの割りにろくな事がないとは酷いな。

「で?何をしようとしていた?」

 いや、ここで転移をしようとしてただなんて····ん?ちょっと待て、離れると転移をしてしまうのであれば、結局ルディと行動をともにしないといけないじゃないか!!
 現実的な問題にぶち当たってしまった。
 結局、デートをしないといけないのか。

「今、思い返したら失敗だった。だから、諦める」

「なんだ?諦めてしまうのか?」

 なぜ、残念そうに言う。

「はぁ。どうせ、ろくなことがないのよね。私の考えは人に理解されないからいいよ」

 ため息を吐きながら言うと、強く抱きしめられてしまった。これ以上強くされると、朝から吐くよ。

「違う。アンジュは目を離すと直ぐにふらふらと何処かに言ってしまう。俺を置いていってしまう」

 そんなにふらふらしてないし、ルディを置いていったことなんてない。···たぶん。

「アンジュの行動は予想がつかない。俺がついて行けないとアンジュはそのまま何処かに消え去りそうだ。だから俺にとって、ろくでもないということだ」

 そんなに変な行動はしていない。現に神父様には行動が読まれているかのように、目の前によく現れていたし。

「アンジュが居なくなれば俺は生きていられない。生きていけないんだ」

 また朝から、くっそ重い言葉を聞かされてしまった。今まで生きていられたのだから、大丈夫だし。はぁ。なんで私なのだろう。

「何度も言っているけど、誓約があるからここから離れられないし、今日はデートなんだよね。早く起きたいのだけど」

 するとルディがばっと起きて、私を解放し『すぐに用意する』と言って部屋を出ていった。やはり、デートというものがしたかったのか。

 私は起き上がり、ベッドをもそもそと出る。毎朝のこの攻防は精神的に疲れる。本当にルディがわからない。情緒不安定?精神的に病んでいる?私の存在に依存?
 10年前よりも酷くなっている気がする。

 以前はかなり私が一人で行動することはできたというのに、今は四六時中べったりだ。
 私が一人でウロウロできるのが、私の部屋の中とぽつんと一軒家の第13部隊の詰め所の中だけだ。はっ!これはもしかして軟禁というものでは!!

 はぁ。この10年の間にルディに何があったのだろう。ファルからは教えてもらえなさそうだしなぁ。この宿舎の中で知っている顔とすれ違うけど、話かけられない。主にルディの威圧の所為で。

 私は身なりを整えて、寝室を出ると、私の部屋のリビングに朝食を用意しているルディの姿があった。


「何故、いつもと変わらないんだ?」

 私を見たルディの第一声だ。いつもの格好。それは銀髪を邪魔にならないように丸めて一つにして、濃い灰色の隊服を着ている。だから、私は答えてあげた。

「今の私にはこれしか着るものがない。本当は着るものが欲しくて、今日はお金をおろして買い物に行こうと思っていた」

 唖然と私を見るルディ。いや、私の部屋の現状を見てどこに私物があるように思えるのか。そもそも、旅に最低限必要な物を入れた背負えるリュック型の袋しか私物がないというのに。

 そのルディはというと、いつもの隊服とは違い、シャツにブルーグレーのベストに同じ色のズボンをはいており、とてもラフな格好だった。見た目はいいから、黙って座っていれば黒王子なんてあだ名がつくような佇まいだった。あ、そもそも王族だった。

 ルディが突然立ち上がり、ルディの部屋に繋がっている扉から慌てて出ていってしまった。
 いったい何が起こったのだろう。

 まぁいいか。私は一人で朝食を食べ始める。····なんだか、久しぶりの一人の食事だ。寂しいものだ。さびしい?

 まだ、私にこんな感情が残っていたのか。

「だから、無理だって言っているだろ?シュレイン」

 ルディが文句を言っているファルを連れて戻ってきた。ファルはいつもどおりの隊服姿であり、今から詰め所に向かうのだろう。

「そもそも、アンジュのサイズの服なんてないだろう?年下のシャールにしたって、アンジュより背が高いぞ」

 うっ!ファル、気にしていたけど、気にしないようにしていた事をわざわざ口に出さなくてもいい。

「だから、シュレイン。アンジュはそのままでいいだろう。その代わり服でもなんでも買ってやればいい」

「いや、なんでもはいらないから」

 ここはきっちりと言っておかないと、必要ないものまでも買われそうだ。


 その後はいつもどおり朝食を食べ····そう、いつもどおりに。

 そして、出かけるのに、出かけるというのに…外套を深々と被った怪しい人物がいる。今は夏を過ぎたとはいえ、日中はまだ暑い、隊服でも暑苦しいと思うほど暑い。
 それなのに更に暑苦しい格好をした人物がいる。

「るでぃ兄。その暑苦しい外套を脱いでもらえる?」

「いや、しかし」

「はぁ。気にしているのなら、髪の色ぐらいわからない感じで変えられるけど?私が銀髪を灰色にしてたぐらいに、こんな感じに」

 そういって私は呪を唱える。

「【光を抑え影を纏え】」

 キラキラとしていた銀髪は濁ったような灰色に変化した。知り合いが見ればアレ?と首をかしげる程度だが、知らない人がみれば、銀髪ではなく、程々に存在する灰色の髪になるのだ。

 するとルディはフードを外した。10年前は普通にキルクスの街の中を歩いていたというのに、本当に何があったのだろう。
 私はルディの頭に手をかざして呪を唱える。

「【天の光と空の青を映し給え】」

 濃いめのブルーグレーの色になった。これだと街の中に2、3人ぐらいはいるだろうという色だ。

「ぶほっ!シュレインが普通に」

 ルディの姿がファルのツボにはまったようだ。まぁ、大して変わってはいない。素材はルディだから変わりようはないけどね。
 ルディは外套を脱いで姿鏡で自分自身の姿を映している。

「まぁ、気休め程度だね。完璧に色を変えてしまうと違和感が出てしまって別人になってしまうからね」

「アンジュ!!」

 自分の姿を確認していたルディにぎゅうぎゅうに抱きしめられ、そのまま抱きかかえてしまった。

「ファルークス。後は頼んだぞ」

「了解」

 いや、なぜそのまま出かけようとする。私は歩ける。歩けるよ。



 そして、私は足が6本ある馬に乗せられ、王都の中を移動していた。流石王都、人が多い。それに今どこにいるかさっぱりわからない。一応、冒険者ギルドの場所も聞いていたけど、目印として言われた物が全くもって見当たらない。

 メインストリートと思われる道沿いにある一軒の建物の前で馬が止まった。それは大きな入り口の扉の上に『ジュメイラ』と書かれている看板に、扉の前にドアマンと思われる男性がこの日差しの強い中でピシッと身なりを整えて立っているのだ。どうやらお店らしい。
 どう見ても冒険者ギルドじゃない。ここは何処だ!!

「なに?ここ」

「アンジュが欲しいと言っていた洋服のお店ですよ」

 ルディが馬から降りながら胡散臭い笑顔で教えてくれたが、私は先に冒険者ギルドに行きたいと言ったはずだけど。
 私はジト目でルディを見るけど、ルディはと言うと胡散臭い笑顔のまま私に手を差し出してきた。

「お金は気にしなくても大丈夫ですよ。アンジュの気に入った物を好きなだけ買ってあげますよ」

 そんなことを言うと破産するまで買うぞ。まぁ、洋服ばかりいらないけど。
 馬鹿な事を考えながら、ルディの手を取り、地面に降り立つ。

 洋服····なんだかここ高級そうなんだけど···。



 ドアマンに開けられた扉の先の店内に足を向ける。しかし、店内には何もない。ただ大きなカウンターが視界の多くを占め、洋服は見当たらない。後は座り心地の良さそうなソファとローテーブルがあるのみだ。
 この洋服店の仕組みが私には全くわからない。

「ようこそお越しくださいました」

 人の良さそうな初老の女性が店内を見渡している間に現れていた。

「彼女に似合いそうな洋服を一通り揃えてくれ」

 あれ?ルディの顔はいつもどおり胡散臭い笑顔だけど、話し方が違う。これは貴族が下々に対する対応か。

「まぁまぁ、お嬢様のご洋服を?おまかせくださいませ。さぁ、お嬢様こちらへ」

 私は初老の女性に連れられて奥の部屋に行くことを促された。そして、閉じられた扉に鍵を掛けられた。鍵?

「大奥様。次の客って?」
「また、出来が悪い娘が来たわ。貴族の哀れな子羊ちゃんよ。」
「またー?適当に洋服選んじゃっていいですかー?」
「いいわ。どうせ、直ぐに新しい娘に代わるのだから」

 なんか感じがよくない。恐らくファルのお勧めの店なんだろう。だけど、気になる言葉があった。

「新しい子?」

「あら?聞いていたの。盗み聞きだなんて、意地汚い。そんなことしてるから、追い出されるのよ」

 いや、お前ら私の前で堂々と話していたじゃないか。

「大奥様。教えて上げればいいじゃないですか、いいように使われてボロ雑巾のようにボロボロに使い捨てにされるってね」
「ホホホ。所詮貴女なんて子羊なのよ。ああ、適当にここからここまでの子供用の服でも渡しときましょう」

 ああ、大体は理解した。子羊ね。
 私は踵を返して、閉じられた扉の方に向う。

「クスクス。そこからは出られないわよ」
「ホホホ」

 私は鍵のかかった扉に手をかけて、小声で呟く。

「【解除】」

 すると、一斉にあちらこちらの扉の鍵が解除される音が響き渡る。

「え?何?何の音?」
「何かしら?」

 私は堂々と扉から外に出る。ルディはというと、座り心地の良さそうなソファに座ってくつろいでいた。

「早かったですね」

 胡散臭い笑顔で言われた。そのルディにカツカツと近づいていき

「ここには私の気にいるものはないので、他のところがいいです」

「では、他のところに行きましょう」

 ルディは立ち上がって私の手をとって出口に向かって歩きだす。

「お待ち下さい!」

 初老の女性が追いかけてきたが、ルディは胡散臭い笑顔を浮かべながら言った。

「彼女が気に入るものが無いというから仕方がない。今回は縁がなかったということだ」

 ルディは私を抱えたまま馬に乗り、店を後にする。そのルディに一枚の紙を手渡す。

「ここに行って欲しい」

「構わないですが、何かありましたか?」

「何も」

「何も無いのに直ぐに出てきたのですか?」

「あそこって、私の様な者が行くところなんでしょ?」

「どういう意味です?」

「どういう意味もそのまま、店を教えてくれた人に聞いてみればわかるよ」

「·····」

 この感じだとファルからじゃなさそうだ。いったい誰から教えられたのだろうか。
 いや、貴族ってたしか屋敷に商人を呼んで買い物をするって聞いたな。ということは、貴族じゃない人から?
 でも、店の人は私のことを貴族の哀れな子羊と言っていたからルディを貴族と····いや、ちょっと待て。
 今のルディは貴族らしい服装かと問われれば、教会に来ていた貴族とは全く違う。どちらかと言えば従者の格好に近い。
 従者が哀れな子羊を主人の前に連れて行く前に洋服を揃えようとしているように思われた?ありえるー。





 ミレーとヴィオのお勧めの服店は普通だった。若い姉妹がやっている洋服店だった。

「まぁまぁ、これもいいんじゃないお姉ちゃん」
「これもいいわ。あ、これも」

 店に入った早々に店員である姉妹にひっぱられ、店にある洋服を当てられ、これがいいあれがいいと言われ続けている。

「私は動きやすい服を」

「駄目よ。女の子なんだから可愛い服を着ないと」
「そうよ。この清楚系ワンピースなんて似合いすぎ!」

 いや、そんなワンピースなんていつ着るんだ。ルディはと言うと姉妹が私に当てていった洋服をすべて買おうとしている。そんなに洋服はいらない。

「あのー、洋服は5枚までに抑えてもらえますか?そのうち3枚は動きやすい服装で」

 そう言うと3人から睨まれてしまった。

「アンジュ。すべて買ってあげると言っているではないですか」

 だからといって山のように洋服ばかりはいらない。

「可愛いものが2着だけなんて少なすぎよ!彼氏さんが買ってくれるというなら甘えておきなさい」

 いや、ルディは彼氏ではない。上官であり婚約者であることは認めるが、彼氏ではない····はず。

「そうよ。レースたっぷりのこの服なんて似合いすぎ!」

 妹さん。私の目にはロリータファションにしか見えない。なぜ、それにストッキングとパンプスを合わすのか。そのタイプのロリータファションにはニーハイに編み上げショートブーツが似合う!

「す、素晴らしいです!これでいきましょう。この組み合わせで!」

 はっ!違うー!!私は動きやすい服装の物を!

「アンジュ。着てみてください」

「いや」

「「さぁさぁこちらへー」」

「いやー!!」

 私は両腕を姉妹に抱えられ奥に連れて行かれるのだった。

_______________
この作品を読んでいただきましてありがとうございます。

次話から文字数が2千文字になりますのでよろしくお願いいたします。

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