6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった

白雲八鈴

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本編

ロベルト・ウォルスの苦悩 2

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 出立当日、父である前ウォルス侯爵に出立の挨拶をするため屋敷に戻れば、見慣れない金髪の女がいた。ユーフィア・ウォルスと名乗り妻になることを言われ、無事の帰還を祈られた。コルバートの魔女の祈りなんて呪われそうだからやめろ。
 俺はさっさと屋敷を出て出立式を行う広場に向かった。俺は生き残ることを最優先にすることを心に刻んだ。


 戦場というのはなんと恐ろしいところなんだ。俺は隊長として部下に指示を出し、己は安全な後方にいた。部下が次々と死んでいき、部隊の再編成が行われていく。
 この前、サヴァンコスタ殿下が戦死をしたそうだ。マルス帝国の第二皇子のため、この多国連合の前戦基地にある中央司令部に配属されたのだが、そこを襲撃されたのだ。敵も段々と知恵が回るようになってきている。
 アランのヤツは早々に敵陣に突っ込んで死んでいった。剣術も魔術もからきしダメなのに魔武器の性能を充てに突っ込んで行ったのかも知れんが、所詮、我々マルス帝国の民は人族なのだ。英雄が出るとすればシーラン王国の獣人たちだろう。
 そんな中俺は出会ったのだ、グローリア国の魔導師であるメアリーに。俺の病んだ心に癒しをくれたメアリーに溺れていくのに時間はかからなかった。
生きて帰って、メアリーと幸せに暮らす事だけを夢見て戦場を駆けていた・・・後方で指示を出していた。
 戦場を駆け回るのは、あの黒髪の勇者にまかせよう。安全なところで指示を出すのは、生き抜くためには仕方が無いことだ。

 6年という歳月を俺は戦場で生き抜く事ができ、やっと懐かしの我が家に帰ってきた。迎えに出てきた家人の者達がメアリーに注目している。それはそうだ俺のメアリーはかわいいからな。

「旦那様、そちらの女性はどなたでございますか。」

 家令のヨハンが聞いてきたので答えてやった。

「メアリーは私の妻となる人だ。この家の女主人となるので、皆よく仕えるように」

 皆唖然とした顔をしている。どうしたのだ。

「旦那様。その方があなたの妻だとおっしゃるのですか」

 金髪の青い目をした20歳ぐらいの見たことがない女が言葉を発する。ウォルス侯爵家の当主に発言の許可を取らず話だすなど躾のなっていない使用人だな。

「お前は誰だ。新しい使用人か。」

「私は皇帝陛下の命であなたの妻となったユーフィア・ウォルスですが 、旦那様は皇帝陛下の命を無視してその方を妻に迎えるとおっしゃるのですか。」

 ユーフィア?ユーフィアだと!メアリーのことが頭いっぱいでそんな押し付けられた妻がいることを忘れていた。

 妻という女が部下と話をしているが頭に入ってこない。俺は皇帝陛下に何を口に出してしまったのだ。

「『花を戴いた記憶はありません。』」

 そんなことを言ってしまった。

「ワイバーンのエサ。」

ワイバーン?なぜそのような魔物が?
いつのまにか妻という女は消えていた。ちょっと待て、皇帝陛下に間違いだった事を言わなければならない。明日の終戦パーティーには一緒に参加をしてもらわないと。

 家令に妻の部屋の場所を聞き、急いで部屋の前に立つ。丁度部屋から出てきたところだ。

「何かご用でしょうか。」

 不機嫌な妻が言う。

「明日の終戦パーティーには出るように。それだけだ。」

「申し訳ありませんが、それは出来かねます。」

「なんだと!」

「婚姻の誓約書に記載してありましたとおり、夫、ロベルトが不貞もしくは別の妻を迎え入れた場合、この婚姻は破棄されるという誓約に基づくからです。」

 なんだそれは、そんなもの誓約書に書いてあったか?

「そんなものは知らん。」

「先程いらしたヒューイッド様とサウザール公爵家の立会人の方もご存じのことです。ロベルト様はその婚姻の誓約書にサインなされたのでしょ?まさか何も読まずにサインされたことはないですよね?」

 あのときは、ああ、ムシャクシャしていたので内容なんて読んでサインなどしていない。
 ちょっとまて、これではサウザール公爵との約束が守れないのではないか。どうすれば。どうすればいい。俺はメアリーと共に生きていたいだけなのに・・・・。

 半刻1時間も経たない間にサウザール公爵当主本人が訪ねてきた。そして、顔を殴られ

「この役立たずが、生きて帰って来たことは誉めてやるが、女を連れて帰ってくるなど、どういうことだ。それも皇帝陛下の御前で婚姻の許可まで欲しいと言ったそうじゃないか。貴様は何を考えているんだ。」

 そう言いながら公爵は俺に鞭を打ってきた。


 そして、俺は奴隷のオークション会場の舞台の上に立たされている。あの戦場を生き抜いてきた功績として極刑は見逃してやると公爵に言われた。皇帝陛下ではなく。公爵からだ。
 なぜ、公爵にその権限があるかわからない。己がここに立たされているのもわからない。
 ベルが鳴り競りが始まったが、すぐにどよめきに変わった。きっと二階正面のボックス席にいるあの男が買ったのだろう。あの男は何度か見たことがある。エルフィーア嬢の番だ。
これで俺の運命は決まってしまった。ただで、死ぬことが許されない奴隷になってしまったのだ。

______________
ここまで読んでくださいましてありがとうございました。
ロベルト視線だと兄のアラン経由でユーフィアをみているので、とても恐ろしい女に思えたのでしょう。

来ていただきましてありがとうございます。

以前から元夫への罰がヌルいのではないのかと、言われていることは存じていました。
別のサイトで別の作品がランクアップしたことで久しぶりにそのようなコメントが書かれているのを、たまたま目にする機会がありしましたので、補足させていただきます。
この作品は別の物語のスピンオフとなっております。コレを投稿した時はまだ、別の物語がモルテ国の話になっていませんでしたので、詳細は伏せていました。

モルテ国
不死者であるモルテ王が君臨する国であり、吸血鬼の国である。
しかし、狂王と現在呼ばれる王は正常な状態ではなく、アーク族により狂わされた存在。その民である吸血鬼も徐々に狂っていく存在となっていっている。

その国の奴隷となるということは、どういうことか。それは死よりも恐ろしいことでしょう。
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